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3 武道大会編

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 全体集会の後は、執務室メンバーである幹部たちと軽く打ち合わせ。今日の予定と今後の見通しについて。

 私とカーネリウスさんは、第六師団では新人になるので、新人研修が始まる。
 担当はカーシェイさんだ。

 第六師団の敷地内や建物内の案内と、執務室メンバーの紹介は、異動前に終わっている。

 第六師団の規則、業務と手順、各部隊の案内と紹介に一週間。

 その後、私はラウについて補佐官業務を開始、カーネリウスさんはカーシェイさんの後任としての仕事を残り三週間かけて叩き込まれる。

 初日の今日はさっそく、突撃部隊と戦闘部隊、戦闘の主軸を担う騎士たちを案内された。

 んだけれど。

「カーネリウス」

「はい? 俺、なんか、マズいこと言いました?」

 なんとも言い難い、こいつどうしてくれようか、的な表情を浮かべるカーシェイさんに、飄々と返事をするカーネリウスさん。

「戦闘部隊は第六師団の主軸ですよ」

「その割にパッとしないですよね」

 ダメだ、この人。

 そう、カーネリウスさん。暴言が多い。

 いや、本人にしてみたら『何気ない一言』なんだろうけど。発言する相手と発言する場が悪い。

 突撃部隊の方は問題なく案内と紹介が終わり、戦闘部隊の方にやってきてみたら、これだ。問題発言連発。

 青筋を立てるカーシェイさんに、不穏な空気を撒き散らす戦闘部隊の皆さんに。

 そして、それを見てのほほーんとしているカーネリウスさん。

 ある意味、大物だな。

「それでよく総師団長の副官、やってられましたね」

「あぁ、俺、おまけだったんで!」

 察し。

 副官は二人いる。
 つまり、もうひとりの副官さんが中心になり頑張っていたんだな。

 どうやら、その一言と戦闘部隊での言動で、カーシェイさんもいろいろ察したらしく。

「エルヴェス、これ、どうするんですか」

 と、遠い目で独り言をつぶやく姿が印象的だった。




 その後は、各部隊に行く前に、部隊の役割や特徴、禁止ワードみたいなものを叩き込まれ。
 そして、各部隊に行くと、見事に説明された禁止ワードをすり抜けて、マズい発言を連発。

 おかげでどこの部署からも、カーネリウスさんの受けは悪く、カーネリウスさんの受けが悪いおかげで、私の受けはいい。

 私の印象を良くするために、わざと嫌われ役を演じているのでは?

 そう思って、カーシェイさんに訊いてみる。

「あれ、わざと?」

「それなら、まだ良いんですけれどね」

 ため息をつくカーシェイさん。

 どうやら、計算なしで自然にああいう感じらしい。
 そんな人が、来月には、カーシェイさんの後任として戦略戦術担当副官になる。

「もはや、才能?」

「そんな才能、要らんぞ」

 ため息をつくラウ。

「覚えも悪くないし、むしろ、頭はいい方だよな。身体能力もずば抜けているんだが」

 うん、確かにそうなんだよね。

 私の鑑定眼でも、カーネリウスさんの能力は凄いことが分かる。

 だからこそ、エルヴェスさんが目を付けたんだ。
 エルヴェスさんは「ちょっと凄い程度の人なら食指を動かさない」そうだから。

 私の就職試験のときに、総師団長といっしょにいた副官さんが、実はカーネリウスさんだった。

 そのときも、剣技や体技はもちろん、分析力、立案能力などに長けているというものだったけど。
 この二ヶ月間で、さらに磨き込まれている。

 第六師団一なのはラウに間違いないけど、単純に能力を視れば、二番手はカーネリウスさんだ。

 能力値だけなら、カーシェイさんや突撃部隊長のドラグゼルンさんの上をいく。

 にも関わらず、だ。

 何というか、考えなしな発言と行動が多い。

「自分の能力を把握できない時点で、バカなんすよ」

「相手の能力を見極めない時点で、バカなんですよね」

 エルヴェスさんの補佐さんたちも手厳しい。

「ところで、補佐一号さん、補佐二号さん」

「なんすか?」「なんでしょう?」

「補佐さんたちは役職呼びでいいんですか?」

「「はい」」

 そっくりな顔が、息ぴったりで返事をする。声もそっくりだ。

「俺ら双子だし、口調と服装以外は見分ける特徴ないし」

「だから、名前どころか、どっちが一号でも二号でも、関係ないっす」

「どちらもエルヴェス副官の補佐ですから」

「入れ替わったら、分からないっすよね」

 確かにここまでそっくりだと、服装を変えて口調を真似すれば、普通の人なら分からないだろう。

「え? 分かりますよ?」

「「は?」」

 舐めないでもらいたい、私はこれでも特級補佐官だ。

「俺ら、見分けるの、師団長とエルヴェス副官くらいっすよ?」

「だって、名前、違いますよね?」

「名前ですか?」

「ええ、名前。家名同じでも名前が違えば違う人ですよ」

 私には視える。その人の大事な名前が。

「本当の名前って重要なんですよ。その人を表しますから。だから大事にしないといけないんです」

 私は大事な本名を、一度、失ったけどね。

「まぁ、違いは名前だけではないですけどね。そう簡単に間違えません」

「さすが、特級補佐官」

「肝に銘じておくっす」

 特級補佐官だから分かるというより、赤種の鑑定能力だから分かるんだけどね。

 そして、この能力も万能ではない。
 私の方こそ、肝に銘じておかないといけない。




「おはようございます」

 そして今日、私は久しぶりに第一塔の塔長室にやってきた。

 週一日だけ、こっちに勤務する。

 ラウが離れたがらなくて苦労するが、ラウにそう思ってもらえて、けっこう嬉しい。

 ラウにそう伝えたら、ラウも嬉しく思われて嬉しかったようで、真っ赤になって喜んでいた。

 さて、久しぶりの塔長室なんだけど。

 扉を開けてくれたのは、私の知らない人だった。

「君、ここは第一塔の塔長室だよ」

 開口一番、場所を教えてくれる。

 いや、わざわざ教えてくれなくても、知ってるけど?

「第六師団はあっち。場所、間違えてるよ」

 いや、確かに第六師団カラーの制服だしね。しかも制服、ラウそっくりだしね。

「それとも、僕に会いに来てくれたファンなのかな?」

 はぁあ? ファンて何?

 そもそも、誰、この人。
 なんか、すっごくイラッとするんだけど!
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