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6 討伐大会編
2-0 魔が蠢く討伐大会
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今、私は大変、とてつもなく困った状況に陥っている。
「俺と結婚してくれ」
私の目の前には、跪く黒髪の男性。
黒眼はちょっとつり上がっていて、眉はキリッとしている。
ラウが厳つい強面なのに対して、こっちは正真正銘の美男子。表情ややきつめ。
それでも、顔の良さだけで言ったら、ジンクレストといい勝負だ。
その黒髪美男子が、私を目の前にしてとんでもないことを言ってる。
「もちろん、すぐにではなく。恋人から始めて愛を深め、お互いをよく知って。そして、結婚しよう」
もちろん、私の背後から抱きつく感じで、ラウがくっついていた。真後ろなので表情は分からない。
何かが漏れ出しているような気もする。
私の真横には専属護衛のジンクレストもいる。ジンクレストも真横なので、ちょっと表情は分からない。
ラウと違って何かが漏れ出してくる気配はないけど、静かすぎる。
ジンクレストの反対の真横には、これまた私の専属護衛のメモリアがいる。メモリアもジンクレスト同様の位置なので、ちょっと表情は分からない。
でも、メモリアの表情は見なくても分かる。きっと、安定の無表情で無言。それがメモリアだ。
辺りには人だかりになっているにも関わらず、誰一人として口を開かない。しっかりと口をつぐんだまま、成り行きを見守っていた。そして誰も動こうとしない。
「だからまずは、俺と婚約しよう」
目の前の黒髪美男子は、ラウの殺気も周りの視線も気にもとめず、堂々と言い切った。
「絶対に逃がさないから」
「クロスフィアさん!」
沈黙を破って聞こえてきたのは、甲高い声。最初はけたたましく思ったこの調子も、今ではとても頼もしく感じる。
「あー、ルミアーナさん。ちょっと困った感じになっちゃっててねー」
そう、ルミアーナさんだ。
ルミアーナさんはここでもやっぱりカーネリウスさんの補佐をしていた。
中央部に辿り着いてからというもの、右往左往するだけのカーネリウスさんに、あれこれ指示を出し、野営の準備を仕切っているのはこの人だった。
今回のメンバーでは一番小柄な身体にも関わらず、疲れ知らずでチョコチョコ動き回り、テキパキと作業を進めている。
うん、カーネリウスさんはメンバー経験者で、ルミアーナさんは今回初参加。
だというのに、この違いはなんなんだろう。まぁ、不思議に思ったところで、それがカーネリウスさんでルミアーナさんなんだから、しょうがないけど。
ルミアーナさんは、周りの状況を一目で見切ったようで、さっと私のそばにやってきて、耳元で囁いた。
「困ったどころではありませんわね。何がどうなったら、こうなるんですの?」
うん、返事のしようがない。
「さぁ?」
と、だけ返事をすると、自然と眉間に力が入った。
「「困り顔もかわいい」」
目の前と頭の上から、同じ言葉がつぶやかれる。この二人、双子?
目の前で跪いている人はともかく、私の背中にへばりついているラウは、私の顔なんて見えないはずなのに。なんで表情まで分かるのかなぁ。
「クロスフィアさんは、困り顔以外もかわいらしいですわ!」
「「確かに」」
ルミアーナさんは一喝すると、ふむっと腕を組んだ。
「まぁ、クロスフィアさんが執着系の男性を引き寄せるのは、今に始まったことではありませんわね」
「なんか、酷いこと思われてるような気がする」
「とりあえず、助っ人、にはなりそうもありませんが、捨て石程度にはなりそうな方を呼んできますので!」
「よろしく。ルミアーナさん」
私はルミアーナさんに助っ人ならぬ、捨て石(?)の応援を要請し、ルミアーナさんはそそくさと誰かを探しに走っていった。
私たちのチームのテントの方へと走っていったので、そこに捨て石がいるんだろう、きっと。
私はルミアーナさんの後ろ姿を、視界の端で見送って、視線を前に戻した。
そこには相変わらず跪く男が一人。
今日は討伐大会の一日目。
私たちのチームは、エルメンティア側からの出入り口から混沌の樹林へ入り、魔獣の討伐をしながら中央部までやってきたところ。
これから三日間、討伐大会の参加チームは混沌の樹林の中で寝泊まりする。うちのチームだけでなく、皆、野営の準備で忙しい。
はずだった。
この求婚騒動というべきものが起きるまでは。
そもそもだ。なんで、こんなことになったんだろうか。
幸いにも私は赤種。記憶力はいい。記憶にないことだって時空眼を使えば過去に遡って視ることができる。
私は首を左に傾けて、今日の朝からのことを一つ一つ思い出していった。
いやいや。そう言えば、討伐大会の説明を受けたときに、テラからしつこいくらいに、なんか注意をされたよね。
ラウたち経験者はともかく、私たち初心者は注意しないといけないことがいろいろある。
その上、私は私でさらに注意が必要だとかなんだとか。
「いいか、四番目。混沌の樹林は予想もつかないことが起きる場所なんだからな!」
テラは確かにそう言っていた。
「ぽわんとしていたら、大変なことになるからな!」
うん、今の事態は私がぽわんとしていたせいで起きたのではない、と思いたい。
「俺と結婚してくれ」
私の目の前には、跪く黒髪の男性。
黒眼はちょっとつり上がっていて、眉はキリッとしている。
ラウが厳つい強面なのに対して、こっちは正真正銘の美男子。表情ややきつめ。
それでも、顔の良さだけで言ったら、ジンクレストといい勝負だ。
その黒髪美男子が、私を目の前にしてとんでもないことを言ってる。
「もちろん、すぐにではなく。恋人から始めて愛を深め、お互いをよく知って。そして、結婚しよう」
もちろん、私の背後から抱きつく感じで、ラウがくっついていた。真後ろなので表情は分からない。
何かが漏れ出しているような気もする。
私の真横には専属護衛のジンクレストもいる。ジンクレストも真横なので、ちょっと表情は分からない。
ラウと違って何かが漏れ出してくる気配はないけど、静かすぎる。
ジンクレストの反対の真横には、これまた私の専属護衛のメモリアがいる。メモリアもジンクレスト同様の位置なので、ちょっと表情は分からない。
でも、メモリアの表情は見なくても分かる。きっと、安定の無表情で無言。それがメモリアだ。
辺りには人だかりになっているにも関わらず、誰一人として口を開かない。しっかりと口をつぐんだまま、成り行きを見守っていた。そして誰も動こうとしない。
「だからまずは、俺と婚約しよう」
目の前の黒髪美男子は、ラウの殺気も周りの視線も気にもとめず、堂々と言い切った。
「絶対に逃がさないから」
「クロスフィアさん!」
沈黙を破って聞こえてきたのは、甲高い声。最初はけたたましく思ったこの調子も、今ではとても頼もしく感じる。
「あー、ルミアーナさん。ちょっと困った感じになっちゃっててねー」
そう、ルミアーナさんだ。
ルミアーナさんはここでもやっぱりカーネリウスさんの補佐をしていた。
中央部に辿り着いてからというもの、右往左往するだけのカーネリウスさんに、あれこれ指示を出し、野営の準備を仕切っているのはこの人だった。
今回のメンバーでは一番小柄な身体にも関わらず、疲れ知らずでチョコチョコ動き回り、テキパキと作業を進めている。
うん、カーネリウスさんはメンバー経験者で、ルミアーナさんは今回初参加。
だというのに、この違いはなんなんだろう。まぁ、不思議に思ったところで、それがカーネリウスさんでルミアーナさんなんだから、しょうがないけど。
ルミアーナさんは、周りの状況を一目で見切ったようで、さっと私のそばにやってきて、耳元で囁いた。
「困ったどころではありませんわね。何がどうなったら、こうなるんですの?」
うん、返事のしようがない。
「さぁ?」
と、だけ返事をすると、自然と眉間に力が入った。
「「困り顔もかわいい」」
目の前と頭の上から、同じ言葉がつぶやかれる。この二人、双子?
目の前で跪いている人はともかく、私の背中にへばりついているラウは、私の顔なんて見えないはずなのに。なんで表情まで分かるのかなぁ。
「クロスフィアさんは、困り顔以外もかわいらしいですわ!」
「「確かに」」
ルミアーナさんは一喝すると、ふむっと腕を組んだ。
「まぁ、クロスフィアさんが執着系の男性を引き寄せるのは、今に始まったことではありませんわね」
「なんか、酷いこと思われてるような気がする」
「とりあえず、助っ人、にはなりそうもありませんが、捨て石程度にはなりそうな方を呼んできますので!」
「よろしく。ルミアーナさん」
私はルミアーナさんに助っ人ならぬ、捨て石(?)の応援を要請し、ルミアーナさんはそそくさと誰かを探しに走っていった。
私たちのチームのテントの方へと走っていったので、そこに捨て石がいるんだろう、きっと。
私はルミアーナさんの後ろ姿を、視界の端で見送って、視線を前に戻した。
そこには相変わらず跪く男が一人。
今日は討伐大会の一日目。
私たちのチームは、エルメンティア側からの出入り口から混沌の樹林へ入り、魔獣の討伐をしながら中央部までやってきたところ。
これから三日間、討伐大会の参加チームは混沌の樹林の中で寝泊まりする。うちのチームだけでなく、皆、野営の準備で忙しい。
はずだった。
この求婚騒動というべきものが起きるまでは。
そもそもだ。なんで、こんなことになったんだろうか。
幸いにも私は赤種。記憶力はいい。記憶にないことだって時空眼を使えば過去に遡って視ることができる。
私は首を左に傾けて、今日の朝からのことを一つ一つ思い出していった。
いやいや。そう言えば、討伐大会の説明を受けたときに、テラからしつこいくらいに、なんか注意をされたよね。
ラウたち経験者はともかく、私たち初心者は注意しないといけないことがいろいろある。
その上、私は私でさらに注意が必要だとかなんだとか。
「いいか、四番目。混沌の樹林は予想もつかないことが起きる場所なんだからな!」
テラは確かにそう言っていた。
「ぽわんとしていたら、大変なことになるからな!」
うん、今の事態は私がぽわんとしていたせいで起きたのではない、と思いたい。
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