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がつ子、ゲートウェイ先輩の教えを懐かしく思い出す
1.
しおりを挟む朝だ。カーテンで日光のあらかたは遮られているがそれでも朝だと分かる。初夏の雨上がり、ぴっかぴかの朝だ。
混乱が樹子のもとに大集合している。
今何時? ここは、どこ? どうして全裸? 目の前の肉色の壁は、下腹に当たっているものは何?
サイドチェストに載った時計によれば現在、土曜の朝七時過ぎ。ここは直属の上司広居主任の寝室で目の前の肉色の壁は広居主任の胸板、下腹をぐりぐり抉るのは昨晩途中で俯きバナナと化した例のブツ、中折れで未完遂の行為により素っ裸で抱き合ったまますぴすぴ朝まで爆睡してしまったわけだ。酔いで何もかも忘れていればまだよかった。
――やっちゃった。……いや、やったといっていいんだろうか?
樹子は前夜の顛末をきっちり覚えている。
――いたたまれない。
華奢で愛らしい天使のごとき美少年が好みなのになぜにこのはるか彼方の外宇宙からやってきて普段は新聞記者に身をやつしいざとなれば立ち上がるスーパーなヒーローを演じたガチムチマッチョ俳優を昆布のお出汁であっさりテイストにした感のある美ゴリラと同衾してしまっているのか。しかも最後まで至っていないというのにともに朝を迎えてしまった。いいんだか悪いんだか分からないがよくはない。
――私って広居主任のこと、好きなんだっけ? そういう意味で。
混乱が深まる。
ちなみにいつもなら朝七時過ぎといえば「二度寝しちゃ駄目だ。危ない、危ない」としぶしぶベッドから出る時刻である。しかしこの日は土曜日、会社は休みで特に予定もない。そして樹子はふかぶかと広居主任に抱き込まれ下腹をぐりぐり抉られて動くに動けない。
――めちゃくちゃだったけど、なんだか一生懸命な告白だったな。
告白されたからといってすぐに恋愛感情が生まれるかというと、こうして全裸で抱き合っていながら何であるが、そうは問屋が卸さない。
しかし、かわいかった。そしてえっちだった。
会社では凜としていて、てきぱき仕事をするのにご立派なブツが中折れしてめそめそするところ、本来は萎えてしかるべきかもしれないがぐっときた。めそめそしながら甘えるのもよかった。これも本来いけずうずうしいと斬り捨てるべきところだ。
マッチョなのに、かわいい。その上、えっち。どういうことだ。
混乱しつつ目の前の胸板に口づけようとして樹子は凍りついた。
「ん、っ……、駄目だ、よ、ちは、る……」
硬く勃起した肉棒を樹子の下腹にこすりつける広居主任の声が甘く掠れる。自分からぐりぐり胡乱なものを押しつけておいて「駄目だよ」もへったくれもない。そんなことより、名前。名前が出てきた。主任の元恋人の名前なのだろう。前夜しどろもどろ告白めいたことをいってきたくせに結局元カノに未練たらたらではないか。
ちは、る。――ちはる。
懐かしい名前だ。
学生時代、樹子に童貞の扱いをとくとくと説いた人の名も千春だった。
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