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がつ子、道草を食う
9.
交代でシャワーを使い、さっぱりした。ついでに手洗いした下着やストッキングを洗面所の隅に干す。関係に生活感を持ち込まないに越したことはないが、背に腹はかえられない。そもそもが相手は上司でこちらの気持ちはともかく体だけの関係だ。色気を残しておきたい気持ちを、今さら気を遣ってもという心持ちが凌ぎ、洗面所の隅でべろーんと干される青い下着やガーターストッキングをそのままに髪を乾かし、寝間着代わりのマキシ丈のガーゼワンピースを着て寝室へ向かった。
先にシャワーを済ませた広居主任がベッドに腰掛けほんやりと文庫本に目を落としている。
「お疲れさまでした」
「――ああ」
「休んでいただいてもよかったのに」
「うん……」
そろそろ日付が変わる。
一週間働いただけでない。主任は週の後半を出張先で過ごした。互いにかなり疲れている。ただ、さあ寝ようかとベッドに入って寝られるかというとそうもいかない。眠るのが惜しい。配属後毎日のように顔を合わせていたからか、たかだか三日間の出張だったのにずいぶん離れていたように感じている。
樹子はベッドに載り膝立ちで広居主任に後ろから抱きついた。
「お帰りなさい」
「ん。ただいま」
文庫本をサイドチェストに置き、後ろからまわる樹子の腕に手を置いて主任が微笑んだ。幼子が父親の背中に甘えかかるようなかっこうではあるが、こうしてただくっついているのも悪くない。
「……?」
ふと下を見ると、スウェットパンツが内側から盛り上がっている。二度見しようと三度見しようと結果は変わらない。がちがちに勃起している。
足りなかったんだろうか。――足りなかったんだろうな。
どうしたものか。
「――気にしないでくれ」
広居主任が小さく溜め息をついた。
「でも」
「いいんだ。疲れただろう。寝よう――」
「疲れるとこうなっちゃうんですか?」
肩の上に載せていた両手を主任の腕の下から前へ回す。
「それもあるんだが、その――」
「どうしました?」
「出張中、一度も抜けなくて……」
「我慢はよくないって、聞きます。自分でなさらなかったんですか?」
締まった腹をTシャツ越しに撫でていた手をそろりと上へ這わせる。指の腹でちんまりとした乳輪の下あたりを撫でた。
び、く。
主任の腹に漣のように震えが過った。
「……っ、ホテルで夜、しようと、したんだが、できなかった……」
「忙しすぎて?」
ぷ、く。
小さな乳首がTシャツを内側から押し上げる。樹子は乳首を避け乳輪の外側をゆっくりと指でなぞった。
「ちが、う……ぅ。勃つんだけど、最後まで、いかない……」
「それは困りましたね。苦しかったでしょう」
指の先で布越しにそっと勃ちあがった乳首の先を撫でる。
腰がびくりと跳ねた。
「ん、……ぅ。つらか、った」
ちら、と目をやると広居主任は頬を染め目を潤ませている。
これは、まずい。
雄くさい美巨漢が遠く離れた南の島でとろ顔を晒していたら南国の美女だけでなく野郎どもだって集ってくるに決まっている。
何とかせねば。
問題が発生したら、どうするか。
まず、原因の究明だ。しがみついている相手、広居主任からそう教わった。仕事でそうするのだから、プライベートで生じた問題も同じやりかたで解決できるはず。
「主任、出張先でどうやってオナニーしてました?」
「どう、って、いつもどおり……」
そのいつもどおりが分からない。
帰宅直後のセックスには問題がなかった。先日まで俯きバナナ問題を抱えていたことを考えると喜ばしい変化だ。しかし、自慰がうまくいかないのはよろしくない。なぜだ。出張先のホテルに性欲を減退させる何かがあるのかもしれないし、もしかしたらやりかたがよくないのかもしれない。ひとまず今できるのはメソッドの検証だ。
「見せてください」
「えっ、見せるって、何を――」
「オナニーを、です」
スーパーなヒーロー似の美顔面に純粋な困惑の表情が浮かんでいる。
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