テイムズワールド

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オーク帝国

キレた

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 オレはそいつに、生まれて初めて感じる殺意と言うものを向けた。赦せない。

 若葉は身体中が傷だらけなのか真っ赤に染まり、額から出血している。両前足はボタボタ血を溢し、口から舌が垂れている。目を凝らせばワイヤーが張られて迂闊に近付けない。それならばと、まともに使った事のない剣を握り鞘から引き抜く。
 邪魔なワイヤーを斬り、最短で若葉の側に行き、あいつを斬る!

「うらぁあああああ!!!」

 手から熱いものを感じる。あいつに向かって駆け出し、振り下ろした剣が糸を断ち切り、目の前で盾にするかのように若葉の首を持ち上げたあいつに接近する。右腕を真横に伸ばし、左腕を伸ばせば若葉に触れられるまで接近する。若葉を投げ付けたこいつの腕を、若葉を回避したオレが横から切断して、若葉の背に隠していた手に握られたナイフを返す手で弾き飛ばす。

「ブッブモォッ!」

 動揺するこいつを振り上げた剣で兜割りして真っ二つにした。


「若葉!死ぬな!」

 俺が躱したから倒れた若葉に駆け寄り、回復させる。

回復ヒール!!回復ヒール回復ヒール回復ヒール!!」

 魔力を込めているのに、傷が塞がらない。
 前足に刺さった釘のせいか?痛いだろうけどごめん!
 釘を引き抜いてやる。その時、苦痛に溢した呻き声が聞こえてもう一度回復をかける。

「頼む!生きてくれ!回復ヒール!!」

 ヒューヒューっと空気の抜ける呼吸の音。前足と額の傷がゆっくりだが塞がっている。だが目を開けてくれない。こんな時こそジャッジの出番だ。

「教えてくれ…。神眼ジャッジ!」

【若葉】 年齢不詳
 額陥没骨折 出血多量 貧血 免疫抑制毒
 オークアサシンによる攻撃で怪我と骨折を。手に打ち込まれた釘に毒が塗られていたせいで回復を阻害されてるんや。毒は免疫力を低下させ、怪我や骨折の回復を遅らせてる。まぁ、毒が抜けきれば目を覚ますやろ。

 えー……。
 急にエセ関西弁になっとるやん…。どないなっとんねん…。けど回復は効いてるんなら、あとは毒さえ消せればすぐにでも回復するだろう。
 血まみれの若葉を抱き上げる。ユニに頼みに行こうとさっき来た道を見ると、ちょうど良くスライムを抱えたユニとワッサンがこちらに駆けつけた。

「ヒヒィーーーン!?若葉!?どうしたの!?浅葱が一匹だったから何かあったのかと思えば、なんで血まみれなの?」
「……そいつか」

 ワッサンが真っ二つになったオークアサシンを蔑んだ目で見下ろして、オレの頭に手を乗せて叩いた。ポスンと叩かれたが全く痛くなく、むしろ、それを合図に堰を切ったようにオレの目から涙が溢れた。

「…よくやった」

 それだけ言って、辺りを警戒しはじめた。
 オレは力が抜けて、若葉を抱き上げたまま膝を付いてしまった。

「ぐっ…ぅう…。ユ、ユニ、若葉を、魔法で、ふぅ、魔法で体内の毒を消して欲しい」
「っ!キュアポイズン!」

 もう駄目かと思っていたところに毒を消せば助かるのだと悟り、治癒魔法を施す。浅葱はユニの腕の中でその様子をつぶらな瞳で見ていた。
 若葉が一回咳を出すと、ゆっくりと呼吸して、薄っすら目を開けた。

「コホッ」
「若葉!良かった!助かったんだな!」
「はぁー、はぁー、イクト様、迷惑をかけて申し訳ありません」
「迷惑じゃないさ!若葉も浅葱も無事で良かったよ!うっ…。ほんとに、生きててくれて、ありがとう…!」

 あまり怪我人にやっちゃ駄目なんだけど、嬉しくて嬉しくて思わず抱き締めてしまった。

「ブルンッ。回復水鍋で、綺麗にしてあげましょう」
「そうだな!」

 オレとユニで回復水で血を洗い落としてキレイにしたら、コップで掬って飲ませてやった。

「イクト様!それくらい自分で出来ます!」

 フラッとしながらも立ち上がり、ジャンプして冒険者になると、コップの水を飲み干して笑顔を見せてくれた。

「皆さんご心配お掛けしました。イクト様、来ていただいてありがとうございます。スライムも、呼んてきてくれてありがとう」
「ちがうよ?ご主人しゃまがバッと通りすぎて、あれー?って思ってたらユニしゃまとワッサンしゃまが来てくれたの。それでユニしゃまに連れられて戻ってきたの」

「「「「!!?」」」」

 浅葱が喋った!?よく見れば目と目の間のちょい下に小さな窪みが出来ている。

「なっ!ちょっ!…ええ!?」
「喋るスライムだと……」
「「ちょーカワイイ!」」

 や、確かに癒やし要員だし可愛いけど今はそこじゃないでしょ!

「浅葱!何で話せるの!?」
「かいふくすい飲めば、ボクの力で何かできるかなと思ったの。そしたらしゃべれるようになったよ。それとあさぎって何?」
「それで良いのか…」
「あぁ、えーと、二人に名前を付けてあげたくて、クーシーは若葉、スライムは浅葱だよ!」

 スライムの目が出来たり口が出来たり摩訶不思議だけど、不都合じゃないならそれでいい。
 若葉は両手で口を押さえて嬉しそうに微笑みながら泣いて、浅葱はオレにスリスリしてきた。

「パーティー結成と大事な仲間へのプレゼントだよ!」







 その後はオークアサシンをポーチに回収して、若葉を休ませるために『テイムズワールド』に強制送還した。一緒にいたい気持ちも分かるが今は身体を休めて欲しいからだ。
 ユニが浅葱を抱っこしながら色々話したり、ワッサンにオークアサシンについて聞いたりした。
 
「そっかー、若葉と話したいって思ったんだね。みんなと話せると楽しいよな!」
「うん!今すっごくたのしい」

「浅葱は何でも吸収出来るのね」
「そうだよ!かいふくすいも飲めるしご飯も食べられるけど、草でも石でも食べられるよ」
「不要な素材処理出来るかもな……」
「おい、真面目に考えるな。浅葱が腹壊すかもしれん」
「そ、そうだよなっ」

「お前のポーチは入れるってよりも、入れたい物に触れると吸い込まれるって感じだな」
「マジックバッグは違うの?」
「あぁ、カバンに入れる動作が必要だからな」
「あー普通はそうだよね」
「それにお前の言う、頭の中にリストなんて出てこねぇから入れた物を覚えとかなきゃいけねぇ」
「なるほど、不便だ」
「(んなことねぇよ)」

「オークアサシンって何でボディースーツ着た上にビキニ履いてるの?」
「ボディー?何だって?ビキニ?」
「あー、元の世界でピチピチの全身服をボディースーツって言って、ビキニは男の下着の形の一つだよ」
「ふむ、あれがボディースーツか。オークアサシンは素早い動きと柔軟性を求められるからかもな。ビキニと言うのはよく分からん。オークに聞くしかないだろう」
「あの体型で素早い動き…?どう見ても力士体型なんだけど…」

「若葉から念話で本の世界に入ったら身体が元気になったってさ」
「それは良かった。向こうは食べ物や寝る場所はあるのか?」
「草原と水ろがあったよー。きのうはね、若葉しゃんは草原走ったあと、そのままそこでねちゃってた。ボクは水ろ転がってあそんで、流れの止まったところできたから、そこでねたの」
「住み良い環境と暮らしか。……そういや世界樹はどうだった?」
「んーパッ!てやったら少しだけゆれたけど、まだまだ足りないみたい」
「少しずつ仲間も増えれば大きく育つだろう!今は気長に育ててこうなー」


 そうして城壁が見えてきたので、浅葱にも休んでもらう為に本に入って若葉の側に居てもらった。
 グラッドにギルドカードを見せて中に入り、ギルドまで行って素材買取カウンターで毒消し草と受注票を出す。若葉の毒消すのならこれでも良かったのかな…?なんて思っていると、ギルド員のアルさん(本名アルフレッド)に驚かれた。

「こ、これ全部、毒消し草か!?」
「そうですけど」

 カウンターの上には10本ずつに別けた毒消し草が5束ある。本当はあと56本あるけど、供給量が多くなると価値が下がるそうなのでこのくらいにしておく。

「凄く丁寧な採取だ。普通は根本の茎から採取するのに、根ごと採取してくれるとは…。これならより強い薬も作れるだろう」
「なら良かったです」
「これなら3倍の値段を出そう。根ごと掘り返す手間もあるし、干からびていなくて凄く良い状態だ」
「マジすか!」

 アルさんが受注票に書き込んで、受付カウンターに行くように言う。ライドウのところに行って手続きをする。

「お疲れ様でした。今日は早いんだね」
「えぇ、仲間が怪我をしたので切り上げたんですよ」
「そうか…。治療は?」
「大丈夫です!怪我も骨折も毒も全部キレイに治しましたから!」
「それは重傷だね。良く無事だったね」
「ギリギリでしたが何とか…」
「そう。因みにどんな奴にやられたんだい?」
「オークアサシンって言う黒いオークですよ。あいつ、若葉の事ボロボロにして、挙句に盾扱いして。倒したけど!あぁ!思い返したら腹立ってきた!」
「………そう。随分危険な目に合ったんだね。はい、処理終わったよ。報酬の7,500リルとカードね。オーク討伐は期限があるし、先延ばしにしていいからね。失敗してもランクダウンはさせないから違う依頼を受けても良いよ」
「?はい、しばらくオークは見たくないのでパーティーで相談して決めますね」
「うん。気を付けてね」


 まだ昼過ぎで殆どの冒険者が居なかった。懐中時計を見ると二時前。そう言えばお昼食べてなかった、と腹をさすりながら空いてるテーブル席に座ってるワッサンにカードを渡す。

「中途半端な時間になっちゃったね。お昼食べる?」
「そうだな、サンドウィッチを出してくれ」
「アタシはトマトもちょうだい」
「これとこれね」

 サンドウィッチとトマトをポーチから取り出して手渡す。

「ふっ、こりゃライドウに気付かれる訳だ」
「え?あ、そうだね…」
「それはイクトにしか扱えないポーチだから気にしなくていいと思うわよ?」
「え?オレだけ?」

 ワッサンの向かいの席から手を伸ばしてサンドウィッチを受け取るユニ。食べづらいと思って、トマトを切って皿に乗せてフォークと渡す。オレも座ってサンドウィッチを食べる。

「そ、自分をジャッジしてみなさい」
「えーっと……。あ、固有ユニーク
「もぐもぐ。そ、アナタの無限収納アイテムボックスはユニークスキルでしょ?だから盗られても相手にはただのポーチで使えないわ」
「いつから…?」
「ジュルリッ。ユニークって?そりゃあ魔法かスキルかくらい分かるわよ。魔導具であるマジックバッグは出し入れに魔力を流さないと使えないけど、それは魔力の流れが無いもの。スキルとしか思えないわ」

 ズルズル、ストン。オレの横に椅子を引っ張ってきて置いて座られる。

「もぐもぐ、まぁ、盗られないのにこしたことはない」
「んっしょっと、やー、そうだねー。それなら君に指名依頼しちゃおうかなー」
「依頼?……?…!」
「ブルン?誰よ…」
「僕?僕はね……」

 スパーーーーンッ!



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