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7. 書記ビクターと会計ドゥラン
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やはり階段からの近道とは違い、坂道のルートは倍近く時間がかかってしまった。
けれどもマグノリアンと他愛もない話をしながら歩いていると、クィアシーナの体感ではあっという間に到着したように感じられた。
「さっきから聞いてると、おまえの転校遍歴エグいな。」
「そうでしょうか?」
道中は生徒会の仕事から脱線して、クィアシーナが前に通っていた学校の話になり、それらについてマグノリアンに面白おかしく話して聞かせていた。
クィアシーナは父の仕事上、仕方がないことと思っていたが、マグノリアンに言わせればかなり珍しいことらしい。
「外交の仕事とはいえ、普通、家族を伴ってそんな頻繁に異動するか?しかも自国にも戻らず他国を転々となんて⋯」
暗に「親が何かやらかしたのでは」と仄めかされたが、そのあたりはクィアシーナの知るところではない。
父からは毎度のように「また異動になった! 引っ越すぞ!」と言われ、母とクィアシーナは“またか”と、驚くことすら減っていったほどだ。
ただ今回ばかりは、ようやく自国に戻れるという話だったため、さすがにただの左遷ではないと思っていた。
「今回は父がどこに飛ばされようが付いて行かないと決めたんで、もはや関係ないです。今度こそまともに学校生活が送れると期待してます。」
「いや、一年から生徒会に入った時点で、普通のルートから外れてるとは思うんだけど⋯がんばれ。」
(なぜか生ぬるい目で応援されてしまった。)
生徒会の加入はあくまで一時的なもの。アリーチェの事件の犯人がわかったら、クィアシーナはお役御免である。たとえ生徒会に入ってる間は普通と違う学校生活を送ることになったとしても、脱退後は平凡で穏やかな暮らしが待っていると信じていた。
「お、応接間に誰かいるな。ビクターたちか。」
会館の中へと入る前に、窓越しに先客がいるのが見えたらしい。
3年生はまだ授業中のはずなので、2年生の役員なのかもしれない。
「2年生の生徒会のメンバーの方ですか?」
「ああ、2年は俺を合わせて3人いる。先に着いてたみたいだな。」
マグノリアンはそう言うと、正面扉を開け、曲がって右の応接間へと足をすすめた。そして部屋に入る前に、彼はクィアシーナの方を振り返って少し小さな声で話しかける。
「先に言っとくが、2年の二人は癖が強い。」
「それはマグノリアンさんもだと思いますが⋯」
なんせ、わざわざ一年の教室まで来て、自分にいちゃもんを付けようとしてきたくらいである。彼こそ癖強な人物なのではないだろうか。
「おまえな⋯。今から会う二人は平気で仕事を押し付けてくるから、何でもかんでも引き受けるなよ?庶務が雑用係だからって、限度があるからな。」
「わかりました。」
二人が中に入ると、ソファーに二人、アイマスクをして寝そべっている生徒と、もう一人は寛いだ様子で静かに本を読んでいる生徒がいた。本を読んでいた生徒は、マグノリアンとそれから後ろに控えていたクィアシーナの姿を見るや否や、本を閉じて慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい、お客さま?ここ使うよね?」
「いや、悩み相談の類じゃない。こいつは新しい庶務だ。」
「は?」
立ち上がった生徒は、マグノリアンの言葉に心底驚いた顔をする。それからクィアシーナの顔をまじまじと眺めてきた。
⋯これは自己紹介したほうがいいのだろうか?
「私は一年Dクラスのクィアシーナです。一時的にですが、生徒会の庶務になりました。よろしくお願いします。」
「一時的?Dクラス?しかもまだ一年?え、マグノリアンがこの子を勧誘したの?」
「いや、俺じゃない。自ら志願したんだと。」
「ええっ、何それ!?会長がよく許可したね。おもしろっ。」
「面白いかどうかは置いといて、俺らが今日放課後に集められた理由は、間違いなく彼女の加入の件だと思う。」
「へえ?」
その生徒は意味深な表情を浮かべる。
彼の顔はマグノリアンとはまた違ったタイプの美形であり、どちらかというと美少年という言い方がしっくりくる。艶のある黒い髪がサラサラと揺れ、クィアシーナをじっと見つめる猫のような金の瞳は彼の雰囲気にぴったりだった。
「僕は2年Sクラスのビクターだよ。書記をやってる。よろしくね?クィア⋯なんだっけ?」
「クィアシーナです、よろしくお願いします。」
「長いからシーナでいいや。シーナ、早速だけど、庶務になった君に初めての仕事だよ!お茶、淹れてきてくれる?僕の好みのブレンドはマグノリアンが知ってるから、よろしく~。」
ビクターは話は以上だと言わんばかりに、ソファーに戻り、本の続きを読み始めてしまった。
マグノリアンに視線を向けると、頷きを返される。
「給湯室の場所を教えるから、着いてきて。」
「はい。」
マグノリアンに連れられて向かった先は、応接間の隣にある小さなキッチンスペースだった。そこには水道付きのシンクと、ガスが通っているらしい小さなコンロが備え付けられている。
奥の棚には茶器や茶葉の入った瓶、そしてお茶請けなどが整然と並んでいた。
「ここが給湯室。みんな自由に使っていいけど、お茶を淹れるのは毎回庶務がやるから、必然的に俺らの出入りが一番多い。それに、ここの整理や掃除も庶務の仕事の一つだ。」
「そんなこともやるんですね。」
「雑用係だからな。それより、今からお茶を淹れるから見て覚えて。」
「はい!」
マグノリアンは紅茶ポットを用意すると、棚からいくつかの茶葉を取り出し、軽量スプーンで丁寧に分量を見てポットの中へ入れた。
「今の何と何を混ぜたんですか?」
「一番の茶葉と三番の茶葉だ。1:3くらいの比率かな。これがビクターのお気に入りのブレンド。」
「了解です。」
クィアシーナは今言われたことのメモを取る。さすがお貴族様、紅茶にもこだわりがあるらしい。
「言っとくけど、こんな細かいのはビクターだけだ。あとのメンバーは適当に淹れたやつでも飲んでくれるから安心しろ。」
「なるほど。」
それを聞いて心底安心する。他のメンバーもそれぞれ好みが違っていたら、クィアシーナには覚えきれる自信がなかった。
お湯を沸かすのを待つ間に、ガスコンロの使用方法や各食器の場所、お茶請けの補充について教えてもらう。
マグノリアンの教え方は丁寧で、クィアシーナがメモを取るのに手間取っていても、焦らせることもなくじっと見守ってくれていた。
とりあえず今いるメンバーの分だけでいいということで、四人分のカップをトレーに用意する。
それから、茶葉の入ったポットにお湯をゆっくりと注いでいく。ポットを持ち運ぶのが面倒らしく、作業はすべて給湯室で済ませるのだという。
合理的かと思ったが、お代わりを頼まれればまた戻ってこなければならないので、かえって手間かもしれない。
しばらく蒸らしたあと、ようやくカップへ紅茶を注ぎ始める。
そのときになって初めて、クィアシーナの鼻に紅茶の芳醇な香りがふわりと漂ってきた。
「いい香り⋯私高級な茶葉の紅茶って今まで飲んだことないです。」
「これはそんな高級なもんじゃねぇよ。生徒会の予算は限られてるから、ここにあるものはそこらへんの市場に一般的に出回ってるやつだ。たぶん、おまえも口にしたことがあるやつだと思う。」
「え、でも、みなさん貴族なんですよね?庶民のものも口にされるんですか?」
「ここはみんな身分差のない平等を売りにしてる学園だ。ダンテさんすら、なんの躊躇いもなく安物の茶葉の紅茶を毎日飲んでるよ。」
「そうなんですね⋯」
なんだか、思っていたイメージと違う。
みんな多少なりとも選民意識があり、生徒会の予算でそれなりの贅沢をしているものだと思っていたが、そんなこともないようだった。
「ほら、運ぶぞ。紅茶の匂いでドゥランも起きるはずだ。」
「はい。」
ドゥランと言ったのは、応接間のソファーで横になって寝ていた生徒のことだろう。先程ビクターがわりと大きめの声を出していたと思うのだが、彼は全く起きる気配がなかった。中々に図太い神経を持っている人物らしい。
「よお、ドゥラン。やっと起きたか。」
カップの乗ったトレーを運んで応接間に戻ると、マグノリアンが言ったとおり、ドゥランと呼ばれた彼はアイマスクを外してソファーに座っていた。
さっきは寝ていたため気付かなかったのだが、蜜色の柔らかそうな髪に青い瞳をもつ彼は、美術品のような造りものめいた美しい顔をしていた。
そして寝起きのためか、どこかぼんやりとした表情でトレーを持ったクィアシーナを見つめている。
「紅茶⋯」
「あ、はい、ただいま。」
単語でお茶を要求されたので、クィアシーナは慌ててトレーをローテーブルに置いて、カップを彼の前に差し出した。
「ありがとうございます。いただきます。」
彼は律儀にお礼を言い、紅茶に口を付けた。
「ああ、美味しい。あの、今日はお茶請けは?」
「え」
お茶請けと言われ、そういえば何も用意してなかったとマグノリアンの方を振り向く。
「ダンテさんらが来てからだ。今出したら今日の分が無くなる。」
「ケチですね。」
「じゃあ予算上げろ。」
「我慢します。」
お茶請け代も生徒会予算で管理されているようだ。一日に出せる分が決まっているらしい。
「ところで、こちらの方は?」
「ようやく気付いたのかよ。新しい庶務だ。」
やっと存在を認識されたので、クィアシーナは自己紹介をする。
「あ、クィアシーナと申します。一年Dクラスです。アリーチェさんが復学されるまでの代理ですが、どうぞよろしくお願いします。」
「代理ですか。頑張ってください。私はドゥラン、2年Sクラスで会計をしてます。お茶請けはカップケーキが嬉しいです。フレーバーはプレーンしか認めません。」
「あ、はい、覚えておきます。」
「僕は自分で選びたいから、今度買い出しのときは声をかけてねー。⋯忘れたら広報にあることないこと書いちゃうよ。」
「おい、おまえら新入りいびんなよ。」
全くの無表情で、厚かましいお願いをしてくるドゥランに、笑顔なのにお腹の中は真っ黒そうなビクター。
確かに、マグノリアンの言った通り、二人とも癖が強そうだった。
けれどもマグノリアンと他愛もない話をしながら歩いていると、クィアシーナの体感ではあっという間に到着したように感じられた。
「さっきから聞いてると、おまえの転校遍歴エグいな。」
「そうでしょうか?」
道中は生徒会の仕事から脱線して、クィアシーナが前に通っていた学校の話になり、それらについてマグノリアンに面白おかしく話して聞かせていた。
クィアシーナは父の仕事上、仕方がないことと思っていたが、マグノリアンに言わせればかなり珍しいことらしい。
「外交の仕事とはいえ、普通、家族を伴ってそんな頻繁に異動するか?しかも自国にも戻らず他国を転々となんて⋯」
暗に「親が何かやらかしたのでは」と仄めかされたが、そのあたりはクィアシーナの知るところではない。
父からは毎度のように「また異動になった! 引っ越すぞ!」と言われ、母とクィアシーナは“またか”と、驚くことすら減っていったほどだ。
ただ今回ばかりは、ようやく自国に戻れるという話だったため、さすがにただの左遷ではないと思っていた。
「今回は父がどこに飛ばされようが付いて行かないと決めたんで、もはや関係ないです。今度こそまともに学校生活が送れると期待してます。」
「いや、一年から生徒会に入った時点で、普通のルートから外れてるとは思うんだけど⋯がんばれ。」
(なぜか生ぬるい目で応援されてしまった。)
生徒会の加入はあくまで一時的なもの。アリーチェの事件の犯人がわかったら、クィアシーナはお役御免である。たとえ生徒会に入ってる間は普通と違う学校生活を送ることになったとしても、脱退後は平凡で穏やかな暮らしが待っていると信じていた。
「お、応接間に誰かいるな。ビクターたちか。」
会館の中へと入る前に、窓越しに先客がいるのが見えたらしい。
3年生はまだ授業中のはずなので、2年生の役員なのかもしれない。
「2年生の生徒会のメンバーの方ですか?」
「ああ、2年は俺を合わせて3人いる。先に着いてたみたいだな。」
マグノリアンはそう言うと、正面扉を開け、曲がって右の応接間へと足をすすめた。そして部屋に入る前に、彼はクィアシーナの方を振り返って少し小さな声で話しかける。
「先に言っとくが、2年の二人は癖が強い。」
「それはマグノリアンさんもだと思いますが⋯」
なんせ、わざわざ一年の教室まで来て、自分にいちゃもんを付けようとしてきたくらいである。彼こそ癖強な人物なのではないだろうか。
「おまえな⋯。今から会う二人は平気で仕事を押し付けてくるから、何でもかんでも引き受けるなよ?庶務が雑用係だからって、限度があるからな。」
「わかりました。」
二人が中に入ると、ソファーに二人、アイマスクをして寝そべっている生徒と、もう一人は寛いだ様子で静かに本を読んでいる生徒がいた。本を読んでいた生徒は、マグノリアンとそれから後ろに控えていたクィアシーナの姿を見るや否や、本を閉じて慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい、お客さま?ここ使うよね?」
「いや、悩み相談の類じゃない。こいつは新しい庶務だ。」
「は?」
立ち上がった生徒は、マグノリアンの言葉に心底驚いた顔をする。それからクィアシーナの顔をまじまじと眺めてきた。
⋯これは自己紹介したほうがいいのだろうか?
「私は一年Dクラスのクィアシーナです。一時的にですが、生徒会の庶務になりました。よろしくお願いします。」
「一時的?Dクラス?しかもまだ一年?え、マグノリアンがこの子を勧誘したの?」
「いや、俺じゃない。自ら志願したんだと。」
「ええっ、何それ!?会長がよく許可したね。おもしろっ。」
「面白いかどうかは置いといて、俺らが今日放課後に集められた理由は、間違いなく彼女の加入の件だと思う。」
「へえ?」
その生徒は意味深な表情を浮かべる。
彼の顔はマグノリアンとはまた違ったタイプの美形であり、どちらかというと美少年という言い方がしっくりくる。艶のある黒い髪がサラサラと揺れ、クィアシーナをじっと見つめる猫のような金の瞳は彼の雰囲気にぴったりだった。
「僕は2年Sクラスのビクターだよ。書記をやってる。よろしくね?クィア⋯なんだっけ?」
「クィアシーナです、よろしくお願いします。」
「長いからシーナでいいや。シーナ、早速だけど、庶務になった君に初めての仕事だよ!お茶、淹れてきてくれる?僕の好みのブレンドはマグノリアンが知ってるから、よろしく~。」
ビクターは話は以上だと言わんばかりに、ソファーに戻り、本の続きを読み始めてしまった。
マグノリアンに視線を向けると、頷きを返される。
「給湯室の場所を教えるから、着いてきて。」
「はい。」
マグノリアンに連れられて向かった先は、応接間の隣にある小さなキッチンスペースだった。そこには水道付きのシンクと、ガスが通っているらしい小さなコンロが備え付けられている。
奥の棚には茶器や茶葉の入った瓶、そしてお茶請けなどが整然と並んでいた。
「ここが給湯室。みんな自由に使っていいけど、お茶を淹れるのは毎回庶務がやるから、必然的に俺らの出入りが一番多い。それに、ここの整理や掃除も庶務の仕事の一つだ。」
「そんなこともやるんですね。」
「雑用係だからな。それより、今からお茶を淹れるから見て覚えて。」
「はい!」
マグノリアンは紅茶ポットを用意すると、棚からいくつかの茶葉を取り出し、軽量スプーンで丁寧に分量を見てポットの中へ入れた。
「今の何と何を混ぜたんですか?」
「一番の茶葉と三番の茶葉だ。1:3くらいの比率かな。これがビクターのお気に入りのブレンド。」
「了解です。」
クィアシーナは今言われたことのメモを取る。さすがお貴族様、紅茶にもこだわりがあるらしい。
「言っとくけど、こんな細かいのはビクターだけだ。あとのメンバーは適当に淹れたやつでも飲んでくれるから安心しろ。」
「なるほど。」
それを聞いて心底安心する。他のメンバーもそれぞれ好みが違っていたら、クィアシーナには覚えきれる自信がなかった。
お湯を沸かすのを待つ間に、ガスコンロの使用方法や各食器の場所、お茶請けの補充について教えてもらう。
マグノリアンの教え方は丁寧で、クィアシーナがメモを取るのに手間取っていても、焦らせることもなくじっと見守ってくれていた。
とりあえず今いるメンバーの分だけでいいということで、四人分のカップをトレーに用意する。
それから、茶葉の入ったポットにお湯をゆっくりと注いでいく。ポットを持ち運ぶのが面倒らしく、作業はすべて給湯室で済ませるのだという。
合理的かと思ったが、お代わりを頼まれればまた戻ってこなければならないので、かえって手間かもしれない。
しばらく蒸らしたあと、ようやくカップへ紅茶を注ぎ始める。
そのときになって初めて、クィアシーナの鼻に紅茶の芳醇な香りがふわりと漂ってきた。
「いい香り⋯私高級な茶葉の紅茶って今まで飲んだことないです。」
「これはそんな高級なもんじゃねぇよ。生徒会の予算は限られてるから、ここにあるものはそこらへんの市場に一般的に出回ってるやつだ。たぶん、おまえも口にしたことがあるやつだと思う。」
「え、でも、みなさん貴族なんですよね?庶民のものも口にされるんですか?」
「ここはみんな身分差のない平等を売りにしてる学園だ。ダンテさんすら、なんの躊躇いもなく安物の茶葉の紅茶を毎日飲んでるよ。」
「そうなんですね⋯」
なんだか、思っていたイメージと違う。
みんな多少なりとも選民意識があり、生徒会の予算でそれなりの贅沢をしているものだと思っていたが、そんなこともないようだった。
「ほら、運ぶぞ。紅茶の匂いでドゥランも起きるはずだ。」
「はい。」
ドゥランと言ったのは、応接間のソファーで横になって寝ていた生徒のことだろう。先程ビクターがわりと大きめの声を出していたと思うのだが、彼は全く起きる気配がなかった。中々に図太い神経を持っている人物らしい。
「よお、ドゥラン。やっと起きたか。」
カップの乗ったトレーを運んで応接間に戻ると、マグノリアンが言ったとおり、ドゥランと呼ばれた彼はアイマスクを外してソファーに座っていた。
さっきは寝ていたため気付かなかったのだが、蜜色の柔らかそうな髪に青い瞳をもつ彼は、美術品のような造りものめいた美しい顔をしていた。
そして寝起きのためか、どこかぼんやりとした表情でトレーを持ったクィアシーナを見つめている。
「紅茶⋯」
「あ、はい、ただいま。」
単語でお茶を要求されたので、クィアシーナは慌ててトレーをローテーブルに置いて、カップを彼の前に差し出した。
「ありがとうございます。いただきます。」
彼は律儀にお礼を言い、紅茶に口を付けた。
「ああ、美味しい。あの、今日はお茶請けは?」
「え」
お茶請けと言われ、そういえば何も用意してなかったとマグノリアンの方を振り向く。
「ダンテさんらが来てからだ。今出したら今日の分が無くなる。」
「ケチですね。」
「じゃあ予算上げろ。」
「我慢します。」
お茶請け代も生徒会予算で管理されているようだ。一日に出せる分が決まっているらしい。
「ところで、こちらの方は?」
「ようやく気付いたのかよ。新しい庶務だ。」
やっと存在を認識されたので、クィアシーナは自己紹介をする。
「あ、クィアシーナと申します。一年Dクラスです。アリーチェさんが復学されるまでの代理ですが、どうぞよろしくお願いします。」
「代理ですか。頑張ってください。私はドゥラン、2年Sクラスで会計をしてます。お茶請けはカップケーキが嬉しいです。フレーバーはプレーンしか認めません。」
「あ、はい、覚えておきます。」
「僕は自分で選びたいから、今度買い出しのときは声をかけてねー。⋯忘れたら広報にあることないこと書いちゃうよ。」
「おい、おまえら新入りいびんなよ。」
全くの無表情で、厚かましいお願いをしてくるドゥランに、笑顔なのにお腹の中は真っ黒そうなビクター。
確かに、マグノリアンの言った通り、二人とも癖が強そうだった。
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