56 / 80
第三章:ことばの裏側
56、言葉を紡ぐ場所(後半)
しおりを挟む
古びた和綴じの帳面が机の上で静かに開かれ、五人の子どもたちの指先を伝ってページがめくられていく。そこに記された古語の文字は、いずれも見慣れぬものばかりだが、不思議とどこかに響くものがあった。
こころは声を震わせながらも、ひとつひとつの言葉を丁寧に口に出す。
「この言葉は……結界という意味が込められている……昔の人たちが、空間を守るために使ったんだね」
隣の蒼が目を細め、息を呑むように頷いた。
「言葉はただの記号じゃない。音に宿る力が、世界の形を守っているんだ。崩れてしまえば、裂け目はもっと大きくなってしまう……」
みなみがポエム帳から目を離し、ゆっくりと口を開く。
「私は言葉の響きに惹かれて詩を書いてきたけど、こうして学ぶと、それが誰かを守るための呪文になるかもしれないって思えてきた……」
春は花束の花言葉カードを見つめ、言葉と花の命の繋がりを噛みしめるように言った。
「花はただ綺麗なだけじゃなくて、その名前や意味が力を持つ……僕たちが大事に育てることで、守りの力を強くできるんだ」
叶多はテーマパークのパンフレットを指でなぞりながら、
「遊びの中で繰り返す言葉やリズム、歌も、きっとその一部だよね。僕たちの声や行動も、結界の糸の一つなんだ」
五人は互いに視線を交わしながら、胸の内に芽生えた確かな手応えを感じ取っていた。言葉は単なるコミュニケーションの道具ではなく、この世界を形作り、守るための強い力。その力を自分たちも扱うことができるのだと。
窓の外では、夜の帳がゆっくりと降りてきていた。街灯が灯り始め、向かいの校舎の窓からもぽつぽつと明かりが漏れている。図書室の中は、ひときわ静かで深い闇が降りる直前の一瞬のように澄んでいた。
こころがふと口を開いた。
「でも……それだけに、私たちの言葉も慎重に選ばなくちゃいけない。間違った言葉や、力の弱い言葉は、逆に結界を傷つけてしまうかもしれない」
大山先生の言葉がよみがえる。
『言葉には力がある。それを使う者の心と意志によって、その強さも変わる。だからこそ、正しく、丁寧に、心を込めて唱えることが求められるのだ』
みなみが静かに息を吐きながら頷く。
「だから、私たちも修行が必要なんだね。言葉を知り、体に染み込ませて、自然に使えるようにならなきゃ」
蒼が拳を握り締め、決意を表すように言った。
「今はまだわからないことばかりだけど、学べば学ぶほど、強くなれるはずだ。僕たちにしかできないことがある」
春も力強く頷き、花言葉のカードを胸に抱き締めた。
「守るべきもののために、僕は全力を尽くす」
叶多は小さく笑みを浮かべて、
「みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられる。これが僕たちの絆の始まりだね」
その言葉に、五人の間に確かな連帯感が生まれた。お互いの存在を認め合い、言葉と結界を学びながら、一歩ずつ未来へと歩み始める。まだ見えぬ戦いに向けての準備が静かに整い始めていた。
部屋の隅で和ろうそくが揺れる炎が、ゆらりと五人の表情を映し出す。光と影が交錯する中で、言葉の結界はまるで生き物のように息づき、彼らを包み込んでいるかのようだった。
静寂を破るのは、五人の声が織りなす古語の響き。初めはぎこちなかった言葉も、繰り返すうちに次第に滑らかになり、やがて一つの調和を生み出していく。
響き渡る音は、まるで遠い時代からの祈りのように、深い夜の闇を切り裂いていった。
その響きの中で、子どもたちはそれぞれの胸に、新たな使命と未来への希望を刻み込んでいた。言葉の力を手にした彼らの歩みは、これから訪れる嵐の前の静けさの中で、確かに動き出していたのだった。
こころは声を震わせながらも、ひとつひとつの言葉を丁寧に口に出す。
「この言葉は……結界という意味が込められている……昔の人たちが、空間を守るために使ったんだね」
隣の蒼が目を細め、息を呑むように頷いた。
「言葉はただの記号じゃない。音に宿る力が、世界の形を守っているんだ。崩れてしまえば、裂け目はもっと大きくなってしまう……」
みなみがポエム帳から目を離し、ゆっくりと口を開く。
「私は言葉の響きに惹かれて詩を書いてきたけど、こうして学ぶと、それが誰かを守るための呪文になるかもしれないって思えてきた……」
春は花束の花言葉カードを見つめ、言葉と花の命の繋がりを噛みしめるように言った。
「花はただ綺麗なだけじゃなくて、その名前や意味が力を持つ……僕たちが大事に育てることで、守りの力を強くできるんだ」
叶多はテーマパークのパンフレットを指でなぞりながら、
「遊びの中で繰り返す言葉やリズム、歌も、きっとその一部だよね。僕たちの声や行動も、結界の糸の一つなんだ」
五人は互いに視線を交わしながら、胸の内に芽生えた確かな手応えを感じ取っていた。言葉は単なるコミュニケーションの道具ではなく、この世界を形作り、守るための強い力。その力を自分たちも扱うことができるのだと。
窓の外では、夜の帳がゆっくりと降りてきていた。街灯が灯り始め、向かいの校舎の窓からもぽつぽつと明かりが漏れている。図書室の中は、ひときわ静かで深い闇が降りる直前の一瞬のように澄んでいた。
こころがふと口を開いた。
「でも……それだけに、私たちの言葉も慎重に選ばなくちゃいけない。間違った言葉や、力の弱い言葉は、逆に結界を傷つけてしまうかもしれない」
大山先生の言葉がよみがえる。
『言葉には力がある。それを使う者の心と意志によって、その強さも変わる。だからこそ、正しく、丁寧に、心を込めて唱えることが求められるのだ』
みなみが静かに息を吐きながら頷く。
「だから、私たちも修行が必要なんだね。言葉を知り、体に染み込ませて、自然に使えるようにならなきゃ」
蒼が拳を握り締め、決意を表すように言った。
「今はまだわからないことばかりだけど、学べば学ぶほど、強くなれるはずだ。僕たちにしかできないことがある」
春も力強く頷き、花言葉のカードを胸に抱き締めた。
「守るべきもののために、僕は全力を尽くす」
叶多は小さく笑みを浮かべて、
「みんなで力を合わせれば、きっと乗り越えられる。これが僕たちの絆の始まりだね」
その言葉に、五人の間に確かな連帯感が生まれた。お互いの存在を認め合い、言葉と結界を学びながら、一歩ずつ未来へと歩み始める。まだ見えぬ戦いに向けての準備が静かに整い始めていた。
部屋の隅で和ろうそくが揺れる炎が、ゆらりと五人の表情を映し出す。光と影が交錯する中で、言葉の結界はまるで生き物のように息づき、彼らを包み込んでいるかのようだった。
静寂を破るのは、五人の声が織りなす古語の響き。初めはぎこちなかった言葉も、繰り返すうちに次第に滑らかになり、やがて一つの調和を生み出していく。
響き渡る音は、まるで遠い時代からの祈りのように、深い夜の闇を切り裂いていった。
その響きの中で、子どもたちはそれぞれの胸に、新たな使命と未来への希望を刻み込んでいた。言葉の力を手にした彼らの歩みは、これから訪れる嵐の前の静けさの中で、確かに動き出していたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
9日間
柏木みのり
児童書・童話
サマーキャンプから友達の健太と一緒に隣の世界に迷い込んだ竜(リョウ)は文武両道の11歳。魔法との出会い。人々との出会い。初めて経験する様々な気持ち。そして究極の選択——夢か友情か。
(also @ なろう)
四尾がつむぐえにし、そこかしこ
月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。
憧れのキラキラ王子さまが転校する。
女子たちの嘆きはひとしお。
彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。
だからとてどうこうする勇気もない。
うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。
家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。
まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。
ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、
三つのお仕事を手伝うことになったユイ。
達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。
もしかしたら、もしかしちゃうかも?
そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。
結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。
いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、
はたしてユイは何を求め願うのか。
少女のちょっと不思議な冒険譚。
ここに開幕。
「いっすん坊」てなんなんだ
こいちろう
児童書・童話
ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。
自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・
【完結】夫に穢された純愛が兄に止めを刺されるまで
猫都299
児童書・童話
タイムリープしたかもしれない。中学生に戻っている? 夫に愛されなかった惨めな人生をやり直せそうだ。彼を振り向かせたい。しかしタイムリープ前の夫には多くの愛人がいた。純愛信者で奥手で恋愛経験もほぼない喪女にはハードルが高過ぎる。まずは同じ土俵で向き合えるように修行しよう。この際、己の理想もかなぐり捨てる。逆ハーレムを作ってメンバーが集まったら告白する! 兄(血は繋がっていない)にも色々教えてもらおう。…………メンバーが夫しか集まらなかった。
※小説家になろう、カクヨム、アルファポリス、Nolaノベル、Tales、ツギクルの6サイトに投稿しています。
※ノベルアップ+にて不定期に進捗状況を報告しています。
※文字数を調整した【応募版】は2026年1月3日より、Nolaノベル、ツギクル、ベリーズカフェ、野いちごに投稿中です。
※2026.1.5に完結しました! 修正中です。
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
はるのものがたり
柏木みのり
児童書・童話
春樹(はるき)が突然逝ってしまって一ヶ月。いつも自分を守ってくれていた最愛の兄を亡くした中学二年生の春花(はるか)と親友を亡くした中学三年生の俊(しゅん)は、隣の世界から春樹に来た招待状を受け取る。頼り切っていた兄がいなくなり少しずつ変わっていく春花とそれを見守る俊。学校の日常と『お隣』での様々な出来事の中、二人は気持ちを寄せ合い、春樹を失った悲しみを乗り越えようとする。
「9日間」「春の音が聴こえる」「魔法使いたちへ」と関連してくる物語。
(also @ なろう)
アリアさんの幽閉教室
柚月しずく
児童書・童話
この学校には、ある噂が広まっていた。
「黒い手紙が届いたら、それはアリアさんからの招待状」
招かれた人は、夜の学校に閉じ込められて「恐怖の時間」を過ごすことになる……と。
招待状を受け取った人は、アリアさんから絶対に逃れられないらしい。
『恋の以心伝心ゲーム』
私たちならこんなの楽勝!
夜の学校に閉じ込められた杏樹と星七くん。
アリアさんによって開催されたのは以心伝心ゲーム。
心が通じ合っていれば簡単なはずなのに、なぜかうまくいかなくて……??
『呪いの人形』
この人形、何度捨てても戻ってくる
体調が悪くなった陽菜は、原因が突然現れた人形のせいではないかと疑いはじめる。
人形の存在が恐ろしくなって捨てることにするが、ソレはまた家に現れた。
陽菜にずっと付き纏う理由とは――。
『恐怖の鬼ごっこ』
アリアさんに招待されたのは、美亜、梨々花、優斗。小さい頃から一緒にいる幼馴染の3人。
突如アリアさんに捕まってはいけない鬼ごっこがはじまるが、美亜が置いて行かれてしまう。
仲良し3人組の幼馴染に一体何があったのか。生き残るのは一体誰――?
『招かれざる人』
新聞部の七緒は、アリアさんの記事を書こうと自ら夜の学校に忍び込む。
アリアさんが見つからず意気消沈する中、代わりに現れたのは同じ新聞部の萌香だった。
強がっていたが、夜の学校に一人でいるのが怖かった七緒はホッと安心する。
しかしそこで待ち受けていたのは、予想しない出来事だった――。
ゾクッと怖くて、ハラハラドキドキ。
最後には、ゾッとするどんでん返しがあなたを待っている。
トウシューズにはキャラメルひとつぶ
白妙スイ@1/9新刊発売
児童書・童話
白鳥 莉瀬(しらとり りぜ)はバレエが大好きな中学一年生。
小学四年生からバレエを習いはじめたのでほかの子よりずいぶん遅いスタートであったが、持ち前の前向きさと努力で同い年の子たちより下のクラスであるものの、着実に実力をつけていっている。
あるとき、ひょんなことからバレエ教室の先生である、乙津(おつ)先生の息子で中学二年生の乙津 隼斗(おつ はやと)と知り合いになる。
隼斗は陸上部に所属しており、一位を取ることより自分の実力を磨くことのほうが好きな性格。
莉瀬は自分と似ている部分を見いだして、隼斗と仲良くなると共に、だんだん惹かれていく。
バレエと陸上、打ちこむことは違っても、頑張る姿が好きだから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる