ことばの繋ぎ手

武内れい

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第四章:さけめの中へ

66、祈りの所作(後半)

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 灯籠の淡い光が境内をぼんやりと照らし、影が揺らめく中で、こころは祖父と大山先生の指導を受け続けていた。
 静けさの中に鈴の音が幾度となく響き、繰り返される所作のひとつひとつに、神聖な力が宿っているかのように感じられた。

 祖父は時折、こころの姿勢や手の動きを見つめては、静かにうなずく。その表情には誇らしさと、どこか儚げな哀しみが混ざっていた。長い時を経て受け継がれてきた祈りの技術。
 それは決して容易なものではなく、まるで生き物のように繊細で、壊れやすいものだった。

 大山先生は紐を結ぶ手を止め、こころの目をじっと見据えながら言った。

「結界はただの結び目ではない。言葉が形となり、世界を繋ぐ糸となる。お前が結ぶ一つ一つの結び目に、魂を込めよ。そうすれば力は増し、裂け目の影響を抑えられる。」

 こころはその言葉を胸に刻み、深く息を吐いた。指先に力を込め、紐の結び目を確かに締めていく。時間がゆっくりと流れ、やがて彼女の動きは滑らかさを増し、一連の所作にまとまりが生まれた。

「上出来だ」と祖父が優しく微笑む。
 その声は風の音に溶け込み、こころの心に静かな安心感をもたらした。

 ふと、境内の隅に設けられた小さな祠の扉がわずかに揺れた。古びた木の香りが漂い、そこから微かな霊気が立ち上っているようだった。大山先生は静かに扉に近づき、手を翳して祈りの言葉を口にした。

 その声は低く響き、言葉の一つひとつが空気を震わせる。こころや他の子どもたちはその様子を固唾を呑んで見守った。言葉が紡がれるたびに、祠の周囲に薄明かりが灯るように、結界の力がゆっくりと蘇っていく。

 空には満天の星が瞬き始め、夜の深まりとともに神社全体が静謐な光に包まれていった。鈴の音は澄み渡り、鳥居の先へと響いていく。風が木々を揺らし、葉の擦れ合う音がまるで囁き声のように聞こえた。

 こころは手を合わせ、心の中で静かに誓った。

「私は、この言葉の力で、この場所を、みんなを守る。」

 その決意が彼女の全身に広がり、まるで体の芯から熱が湧き上がるようだった。祖父や大山先生の存在が、今まで以上に心強く感じられた。

 他の子どもたちもそれぞれの位置で同じように手を合わせ、言葉の力を共有していた。息を合わせるように鈴を鳴らし、紐を結び直し、結界の輪が彼らの間に静かに広がっていく。

「祈りはただの儀式じゃない。心を一つにする合図だ」と大山先生が語った。

 その言葉に応えるように、子どもたちの表情は次第に凛とし、強い結束感が生まれていた。緊張と覚悟が入り混じる空気の中、まるでこれから始まる長い戦いへの第一歩を踏み出したかのようだった。

 祖父はふと、こころの肩にそっと手を置いた。

「お前たちが守るものは、形のないものかもしれない。しかし、言葉と祈りがあれば、その見えない糸は決して切れはしない。」

 こころはその言葉を胸に刻み、夜の冷たさを忘れて熱い気持ちで満たされた。

 境内の奥から、遠くで子どもたちの小さな声が聞こえる。彼らのそれぞれの不安や恐怖が、今は一つの強い力となって重なり合っているのだと感じられた。

 夜が深まるにつれ、結界の光はより鮮明に輝きを増し、裂け目の影響を食い止める壁となっていった。神社の静寂は、彼らの祈りと共に守られているのだ。

 やがて夜明けの兆しが東の空をほんのりと染め始めた頃、こころは静かに深呼吸をし、祖父と大山先生に礼をした。彼女の目には、確かな自信と覚悟が宿っていた。

 子どもたちはそれぞれの道へと歩き出し、祈りの所作を胸に刻みながら、新たな戦いの幕開けを迎えようとしていた。
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