ことばの繋ぎ手

武内れい

文字の大きさ
69 / 80
第四章:さけめの中へ

69、闇夜のパレードルート(前半)

しおりを挟む
 深夜のテーマパークは、昼間の喧騒を嘘のように消し去っていた。鮮やかなネオンやイルミネーションがやわらかな光を放ち、静まり返った遊歩道に淡く揺れている。
 時折、パレード用の装飾が影絵のように夜の空気を彩り、まるで眠る夢の世界を彷彿とさせる。

 叶多は薄暗いパレードルートの脇に立ち、冷え切った空気を胸いっぱいに吸い込んだ。彼の視線は、静かに佇む巨大なフロートや音響機器の周囲を巡っている。夜の静寂の中で、普段とは違う空気の緊張感が漂っていた。

「今日は、何かが違う……」

 叶多の心にひそむざわめきは、遊園地の煌びやかさとは真逆の暗い影を映していた。足元には、パレードで使われるキャストの台本が散乱し、風に揺れて紙片がかすかに擦れる音を立てていた。

 彼はその中の一枚を拾い上げ、目を細めて文字を追う。そこに書かれた決まり文句が、彼の胸の奥で何かを呼び覚ます。

 数歩離れた場所では、数名のスタッフたちが低い声で話し合っている。彼らもまた、この異変に気づいているのだろう。暗闇の中に浮かぶ彼らのシルエットは、不安と決意を交えた表情を見せていた。

「叶多、準備はできているか?」

 背後から声がかかる。振り向くと、パレードの音響機器を手際よく操作しているスタッフが、穏やかだが確かな意思を宿した眼差しで彼を見つめていた。

 叶多は小さく頷き、台本のページを閉じた。手には封印用の紐が握られている。淡い紺色に染まったそれは、結界の糸口としての役割を担っていた。紐の先端からは微かな草の香りが立ち上り、夜風に混じってほのかに漂う。

「皆で声を合わせよう」

 彼の言葉に、スタッフたちが頷いた。小さな集団は自然と円を作り、叶多が中心に立った。静かに息を吸い込む。闇の中に溶け込むような静けさのなか、叶多は声を震わせながらも決意を込めて言葉を紡ぎ始めた。

「我らは、夢と希望の灯火。言葉は結界、力の根源。」

 言葉は呪文のように夜空に浮かび、風に乗って遠くへと伝わっていく。スタッフもそれに続き、緊張感を胸に刻みながら、低く美しい声を重ねていく。
 彼らの声は次第に力強さを帯び、織りなす言葉の波紋が見えない力となって空間を包んだ。

 パレードの装飾に使われている色とりどりのリボンや花々が、まるで生きているかのように微かに揺れ、夜の空気に息吹を吹き込む。足元に散らばる小さな紙片は、風に舞い上がって星のように煌めいた。

 叶多は紐をそっと取り出し、結界の形を思い描きながら丁寧に結んでいく。結び目一つ一つに込められた言葉が、まるで光の糸となって紐を照らした。

 ふと、遠くのほうで裂け目が薄紫の靄となって揺らめき始める。裂け目の向こうから、冷たい風が吹き込んできた。叶多の胸に再び緊張が走る。

「今だ、皆!」

 声が響き渡り、集団は声を高めて唱和した。彼らの声は波紋となり、裂け目の輪郭を包み込み、薄紫の霧はゆっくりと収束していく。裂け目は徐々に狭まり、やがて一筋の光の線に変わった。

 深夜のパレードルートに、静かな歓声がこだました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

きたいの悪女は処刑されました

トネリコ
児童書・童話
 悪女は処刑されました。  国は益々栄えました。  おめでとう。おめでとう。  おしまい。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
児童書・童話
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

鬼狩りトウヤ ―最後の鬼になる少年―

かさい さとし
児童書・童話
少年トウヤ。 鬼に最愛の姉を殺された夜、彼は復讐を誓う。 だが彼自身もまた、鬼だった。 鬼王の血を引きながら、角を持たず生まれた“異端”。 鬼の里を捨て、人間界へと逃れた少年は、鬼を狩る者となる。 鬼でありながら鬼を斬る。 その正体が知られれば、討伐されるのは彼のほうだ。 それでも彼は刀を振るう。 姉を奪った鬼を、この手で滅ぼすために。 鬼を狩る者たちの中に、鬼がひとり。 これは復讐から始まる少年の物語。 そして――やがて“最後の鬼”になる少年の物語。 ※毎日12時頃投稿

【奨励賞】おとぎの店の白雪姫

ゆちば
児童書・童話
【第15回絵本・児童書大賞 奨励賞】 母親を亡くした小学生、白雪ましろは、おとぎ商店街でレストランを経営する叔父、白雪凛悟(りんごおじさん)に引き取られる。 ぎこちない二人の生活が始まるが、ひょんなことからりんごおじさんのお店――ファミリーレストラン《りんごの木》のお手伝いをすることになったましろ。パティシエ高校生、最速のパート主婦、そしてイケメンだけど料理脳のりんごおじさんと共に、一癖も二癖もあるお客さんをおもてなし! そしてめくるめく日常の中で、ましろはりんごおじさんとの『家族』の形を見出していく――。 小さな白雪姫が『家族』のために奔走する、おいしいほっこり物語。はじまりはじまり! 他のサイトにも掲載しています。 表紙イラストは今市阿寒様です。 絵本児童書大賞で奨励賞をいただきました。

オバケの謎解きスタンプラリー

綾森れん
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞 奨励賞をいただきました! ありがとうございます! ――七不思議を順番にめぐると、最後の不思議「大階段踊り場の鏡」に知らない自分の姿が映るんだって。 小学六年生の結菜(ユイナ)が通う三日月(みかづき)小学校では、そんな噂がささやかれていた。 結菜は難関中学に合格するため、塾の夏期講習に通って勉強に励んでいる。 だが一方で、自分の将来にひそかな期待と不安をいだいてもいた。 知らない自分を知りたい結菜は、家族が留守にする夏休みのある夜、幼なじみの夏希(ナツキ)とともに七不思議めぐりを決意する。 苦労して夜の学校に忍び込んだ二人だが、出会うのは個性豊かなオバケたちばかり。 いまいち不真面目な二宮金次郎のブロンズ像から、二人はスタンプラリーの台紙を渡され、ルールを説明される。 「七不思議の謎を解けばスタンプがもらえる。順番に六つスタンプを集めて大階段の鏡のところへ持って行くと、君の知らない君自身が映し出されるんだ」 結菜と夏希はオバケたちの謎を解いて、スタンプを集められるのか? そして大階段の鏡は二人に何を教えてくれるのか? 思春期に足を踏み入れたばかりの少女が、心の奥底に秘めた想いに気付いてゆく物語です。

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

処理中です...