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第一章:見えないひずみ
1、風に揺れる言葉(前半)
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午後の光は次第に柔らかくなり、空は茜色のヴェールをまとって沈みゆく太陽を優しく見守っていた。
静かな神社の境内は、風に揺れる杉の葉がざわめき、幾度となく繰り返される葉擦れの音がそっと空気を満たしている。
朱塗りの鳥居が参道の入口にどっしりと構え、その奥に見える拝殿は古びた木材と漆の光沢を放ちながら、時の重みを纏って佇んでいた。
重厚な瓦屋根の反り返りは影を作り出し、深まる夕暮れのなか、拝殿の柱や梁の木目が淡く浮かび上がる。
石灯籠の苔むした表面は長い年月を物語り、境内の砂利は落ち葉をそっと受け止めていた。
手水舎の清らかな水音が響き、境内に漂う凛とした空気は訪れる者の心を静める。
その場で静かに落ち葉を掃くのは、神宮寺こころという十二歳の少女である。
彼女は神社の家系に生まれ、小さい頃から祖父である神宮寺泰秀が唱える祝詞に耳を傾けて育った。
こころの手に握られた箒が落ち葉を集める。風は冷たさを増し、秋の終わりを告げる枯葉が黄金色に染まって舞い落ちていた。
箒先が砂利を擦る音だけが、静寂を切り裂くように境内に響く。
そのとき、拝殿の奥から祖父の声がかすかに漏れてきた。
長年の修練で磨き上げられた泰秀の祝詞は、本来ならば揺るぎなく境内に清浄な響きを届けるものだ。
しかし今、その声はどこか途切れ途切れで、不自然な揺らぎが混じっていた。
こころは箒を止めて耳を澄ます。
祝詞の言葉がいつもの力強さを欠き、言葉の一つ一つが震えているかのようだった。
胸の奥に芽生えた違和感は次第に不安へと変わり、少女の瞳が細くなる。
なぜ、祖父の言葉が乱れるのか。原因も分からず、ただ戸惑いが彼女の心を満たした。
祖父、泰秀は拝殿の畳に膝まずき、古びた巻物を前に広げていた。
祝詞が書かれたその巻物は、代々神宮寺家に伝わるものであり、言葉の力を記す重要な宝物である。
彼の額にうっすらと汗がにじみ、いつもなら静かな声が震え始めている。
言葉に込める祈りの力が弱まっていることを示し、境内の結界にも影響を及ぼしかねない兆候だった。
こころは距離を置きつつも、その異変を目の当たりにし、言葉にできない恐れを抱く。
口に出せない思いが胸に溜まり、静かな境内の空気が重く沈んだ。
夕陽はゆっくりと地平線の彼方へと沈み、空は紺碧から深い蒼へと移ろっていく。
辺りの木々は輪郭を曖昧にし、影が長く伸び、やがて闇が少しずつ広がり始めた。
その美しい夕暮れの中、神宮寺家の小さな境内に芽生えたのは、今まで感じたことのない異質な空気だった。
それは、この先の長い闘いの序章のように、静かに、しかし確実に彼女たちの日常に忍び寄っていた。
静かな神社の境内は、風に揺れる杉の葉がざわめき、幾度となく繰り返される葉擦れの音がそっと空気を満たしている。
朱塗りの鳥居が参道の入口にどっしりと構え、その奥に見える拝殿は古びた木材と漆の光沢を放ちながら、時の重みを纏って佇んでいた。
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こころの手に握られた箒が落ち葉を集める。風は冷たさを増し、秋の終わりを告げる枯葉が黄金色に染まって舞い落ちていた。
箒先が砂利を擦る音だけが、静寂を切り裂くように境内に響く。
そのとき、拝殿の奥から祖父の声がかすかに漏れてきた。
長年の修練で磨き上げられた泰秀の祝詞は、本来ならば揺るぎなく境内に清浄な響きを届けるものだ。
しかし今、その声はどこか途切れ途切れで、不自然な揺らぎが混じっていた。
こころは箒を止めて耳を澄ます。
祝詞の言葉がいつもの力強さを欠き、言葉の一つ一つが震えているかのようだった。
胸の奥に芽生えた違和感は次第に不安へと変わり、少女の瞳が細くなる。
なぜ、祖父の言葉が乱れるのか。原因も分からず、ただ戸惑いが彼女の心を満たした。
祖父、泰秀は拝殿の畳に膝まずき、古びた巻物を前に広げていた。
祝詞が書かれたその巻物は、代々神宮寺家に伝わるものであり、言葉の力を記す重要な宝物である。
彼の額にうっすらと汗がにじみ、いつもなら静かな声が震え始めている。
言葉に込める祈りの力が弱まっていることを示し、境内の結界にも影響を及ぼしかねない兆候だった。
こころは距離を置きつつも、その異変を目の当たりにし、言葉にできない恐れを抱く。
口に出せない思いが胸に溜まり、静かな境内の空気が重く沈んだ。
夕陽はゆっくりと地平線の彼方へと沈み、空は紺碧から深い蒼へと移ろっていく。
辺りの木々は輪郭を曖昧にし、影が長く伸び、やがて闇が少しずつ広がり始めた。
その美しい夕暮れの中、神宮寺家の小さな境内に芽生えたのは、今まで感じたことのない異質な空気だった。
それは、この先の長い闘いの序章のように、静かに、しかし確実に彼女たちの日常に忍び寄っていた。
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