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第二章:つながりの芽
27、新しい仲間・大智の参加(前半)
しおりを挟む朝の空気はまだひんやりとしていて、畑の土の匂いが一層濃く感じられた。
陽の光はやわらかく、草の先端に残った露が小さな宝石のようにきらきらと輝いている。
遠くの山並みが朝霧に淡く霞み、鳥のさえずりがあちこちから聞こえてきた。
私は、昨日のじゃがいも料理大会の余韻を胸に抱きつつ、今日の作業のために畑へと足を運んでいた。
まだ蒸し暑くなる前のこの時間が、一番好きだ。土の香りや草のざわめきが、生き物の息吹を感じさせてくれる。
「おはよう、陽菜!」
突然、声がした。振り返ると、見慣れない少年が軽やかに手を振っている。
背は高く、少し風変わりな印象を与えるその人は、眼鏡の奥で細かく輝く目をしていた。
「おはよう、あなたは?」
「俺は大智。今日からここでバイトを始めることになったんだ。植物オタクってやつさ」
彼はそう言って、くすくすと笑った。言葉の端々に、どこか独特なリズムがあって、思わず聞き返したくなる。
「植物オタク……?」
「そうさ。植物のことなら何でも知ってる、って自負してる。名前の由来とか、生態、成長過程まで。間引きもね、単なる間引きじゃないんだ。生き物の選択だよ」
大智の声は熱を帯びていた。私の中に、興味と少しの戸惑いが入り混じる。
「選択……?」
「うん。畑は生きてるんだ。そこで育つ一つ一つの苗が、どうやって強く育つかを考えて、僕らが手助けするんだよ。間引きは単に数を減らすことじゃなくて、最適な環境を作るための大切な作業さ」
彼の言葉は真剣で、まるで命の話をしているみたいだった。
私の手は、まだ少し泥のついた作業着の袖を掴んでいる。
昨日までただ作業だと思っていたことが、今少しずつ意味を帯びてきているのを感じていた。
「大智くん、よろしくね。畑のこと、いろいろ教えてほしい」
「もちろんさ! 俺にできることは全部伝えるよ」
私たちは軽く手を握り合い、今日の作業が始まった。
太陽が徐々に昇り、光は強さを増していく。
汗がじんわりと背中を伝い、土の温度が高くなるのを肌で感じる。
大智は一つ一つの苗をじっと見つめては、つぶやくように説明を続ける。
「このトマトはね、最初はこんなに小さいけど、葉の広がり方や色合いで健康状態が分かるんだ。ここの葉が少し黄色いのは、栄養が足りてない証拠」
私も手を動かしながら、彼の言葉を頭に刻んだ。
目の前の植物たちが、生き物としての息遣いを感じ始めている。
時折吹く風は、ひんやりとしていて、体を優しく冷ましてくれる。
ハーブの香りが混じったその風が、心を穏やかにしてくれた。
「陽菜、間引きやってみるかい?」
大智の声に振り返ると、彼は苗を指差していた。
細くて頼りなさそうな苗が数本、一か所に密集している。
「うん、やってみたい」
私はそっと手を伸ばし、最も小さい苗を指先でつまんだ。
それが、ただの間引きではなく、この畑で育つ命のための大切な選択だと思うと、不思議な責任感が胸にわき上がった。
「大智くん、ありがとう。今日もいっぱい学べそうだね」
「こちらこそ、陽菜。いいチームになろう」
私たちはその言葉を交わし、また土の匂いや風の声に耳を澄ませながら、静かな畑の朝を共有した。
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