29 / 40
第二章:つながりの芽
29、夏野菜の育ち具合と仲間の工夫(前半)
しおりを挟む畑の隅に設けられた小さな休憩所。木陰が心地よく、暑い夏の日差しを柔らかく遮っていた。陽射しの合間から見える空は鮮やかな青で、時折すーっと涼しい風が草の匂いを運んでくる。
草いきれと土の香りに混じって、遠くからハーブの香りもふわりと漂う。
私たちはそこに集まり、作業の合間に一息ついていた。手には汗と土が染み込んだ軍手、服には畑の泥が点々とついている。そんな中、美咲が大きな声で声を張り上げた。
「見て見てー! 新作のエプロン、どう?」
彼女が誇らしげに腕を伸ばして見せたのは、淡い生成り色のリネン生地をベースにした作業着風のエプロンだった。膝の少し上まである丈で、両側には大きなポケットがいくつもついている。
生地は厚手で丈夫そうだが、使うほどに柔らかく馴染みそうな風合いだった。
「すごい、これ、手作りなの?」
私が尋ねると、美咲は目を輝かせて頷いた。
「そう! 古いシャツやズボンをほどいて、好きな布をパッチワークみたいに繋げてみたの。色合いも落ち着いたブルーやカーキでまとめて、畑でも汚れが目立たないように工夫したの」
細かいところでは、ポケットの縁を太めのステッチで補強していたり、胸元には小さな刺繍が施されていて、さりげなく彼女の名前の頭文字が入っている。デザインだけじゃなく、使いやすさも考えられていることが伝わった。
「いいなあ、オシャレで機能的! それに、まさに畑向きって感じ」
拓海も笑顔で言った。普段は無口な彼の口から褒め言葉が出ると、みんなの顔もほころぶ。
「私は去年のエプロン、もうボロボロでね……それに比べて美咲のは断然カッコいいよ」
大智がメガネの奥からじっと見つめながらも、どこか感心した様子で言った。
私もそのエプロンを手に取ってみた。ざらりとしたリネンの感触は温かく、使い込むうちに土や汗の匂いが染み込んでいくのだろう。それが畑仕事の誇りになるのだと思うと、私までなんだか嬉しくなった。
「自分のスタイルを作るのって、すごく大事だよね。仕事がもっと楽しくなる」
美咲はそう言いながら、目をキラキラさせていた。
私はふと自分の袖をまくり上げて、まだ新しい枝豆の苗が育っている畝を眺めた。毎朝水やりを欠かさず、少しずつ伸びていく緑色の葉が愛おしい。
小さな豆の莢がぷっくり膨らみはじめているのを見つけるたびに、思わず笑顔になる。
「私も、少しだけど、枝豆の成長記録を写真に撮ってるんだ」
そう話すと、みんなが興味深そうにこちらを向いた。
「見せて見せて!」と美咲。
スマホの画面を開くと、朝の柔らかい光の中でキラキラと輝く葉っぱや、雨上がりの水滴がついた莢のアップ写真を順に見せた。みんなはその繊細な表情に感嘆の声をあげた。
「すごい、こんな風にちゃんと見てるんだね。まるで植物の成長日記みたい」
大智がそう言って、少しだけ笑みをこぼした。普段は専門的すぎて話が噛み合わないこともあるけれど、こうして陽菜の視点を通して見る植物もまた新鮮だと言う。
そのとき、拓海がふっと口を開いた。
「俺もさ、もっと工夫してみようかな。例えばさ、畑で使う道具に自分の名前のタグとかつけるとか」
「いいじゃん、それ! そういう小さな工夫が愛着に繋がるよね」
美咲ははしゃぎながら、もう次のアイデアを考えている様子だった。
私はふと、こうしてそれぞれが自分の個性を少しずつこの場所に重ねていくのが、不思議で温かいことだと思った。畑は単なる作業場ではなくて、みんなの好きが混ざり合う場所になりつつある。
風が通り抜け、畝の上の緑葉がさらさらと音を立てる。太陽の光はじわじわと肌を焼くけれど、その暑さも不思議と心地よく感じた。
「これからも、いろいろ工夫して、畑での時間をもっと楽しみたいな」
私はそう心に決めながら、またスマホの画面に目を落とした。小さな枝豆の写真たちが、まるで小さな宝物のように輝いて見えた。
0
あなたにおすすめの小説
14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート
谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。
“スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。
そして14歳で、まさかの《定年》。
6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。
だけど、定年まで残された時間はわずか8年……!
――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。
だが、そんな幸弘の前に現れたのは、
「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。
これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。
描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。
あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)
tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!!
作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など
・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。
小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね!
・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。
頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください!
特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します!
トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気!
人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説
ノースキャンプの見張り台
こいちろう
児童書・童話
時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。
進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。
赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。
黒地蔵
紫音みけ🐾書籍発売中
児童書・童話
友人と肝試しにやってきた中学一年生の少女・ましろは、誤って転倒した際に頭を打ち、人知れず幽体離脱してしまう。元に戻る方法もわからず孤独に怯える彼女のもとへ、たったひとり救いの手を差し伸べたのは、自らを『黒地蔵』と名乗る不思議な少年だった。黒地蔵というのは地元で有名な『呪いの地蔵』なのだが、果たしてこの少年を信じても良いのだろうか……。目には見えない真実をめぐる現代ファンタジー。
※表紙イラスト=ミカスケ様
笑いの授業
ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。
文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。
それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。
伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。
追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。
クールな幼なじみの許嫁になったら、甘い溺愛がはじまりました
藤永ゆいか
児童書・童話
中学2年生になったある日、澄野星奈に許嫁がいることが判明する。
相手は、頭が良くて運動神経抜群のイケメン御曹司で、訳あって現在絶交中の幼なじみ・一之瀬陽向。
さらに、週末限定で星奈は陽向とふたり暮らしをすることになって!?
「俺と許嫁だってこと、絶対誰にも言うなよ」
星奈には、いつも冷たくてそっけない陽向だったが……。
「星奈ちゃんって、ほんと可愛いよね」
「僕、せーちゃんの彼氏に立候補しても良い?」
ある時から星奈は、バスケ部エースの水上虹輝や
帰国子女の秋川想良に甘く迫られるようになり、徐々に陽向にも変化が……?
「星奈は可愛いんだから、もっと自覚しろよ」
「お前のこと、誰にも渡したくない」
クールな幼なじみとの、逆ハーラブストーリー。
独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。
猫菜こん
児童書・童話
小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。
中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!
そう意気込んでいたのに……。
「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」
私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。
巻き込まれ体質の不憫な中学生
ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主
咲城和凜(さきしろかりん)
×
圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良
和凜以外に容赦がない
天狼絆那(てんろうきずな)
些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。
彼曰く、私に一目惚れしたらしく……?
「おい、俺の和凜に何しやがる。」
「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」
「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」
王道で溺愛、甘すぎる恋物語。
最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる