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第二章:つながりの芽
35、奮闘の夕方作業と祖母の差し入れ(前半)
しおりを挟む畑に降り注ぐオレンジ色の光が、広がる空を染めていた。太陽はゆっくりと地平線の向こうへ沈み、長い影を地面に落とす。畑の隅々まで伸びた苗たちの葉先が、夕日の温かさを浴びてきらきらと輝いている。
私たちは肩越しに汗をぬぐいながら、最後の水やりに精を出していた。畑のあちこちでバケツを渡し合い、ホースの先端を調節しながら、手際よく水を注ぐ。
空気はまだほんのりと夏の熱気を帯びているけれど、風は少し涼しく、心地よく肌を撫でていく。
「陽菜、こっちもよろしく!」
拓海の声が風に乗って届く。私は振り返りながら笑顔で応え、隣の畝へと走った。足元には土の匂いが漂い、草の葉先にはまだ朝露が乾ききれずに残っている。
水を撒くたびに、土が柔らかく潤い、命が息を吹き返すような感触があった。
「はぁ…今日もよく動いたね。」
美咲が息を切らしながら、じっと空を見上げた。茜色の空は次第に深みを増し、紫と紺が混じり合ってゆく。
「でも、こんな夕焼けを見られるのは、畑仕事の特権だよね。」
私も同感で、小さく頷いた。
一日の疲れがじわじわと身体を包み込み、動くたびに汗が滴り落ちる。でも、その汗は嫌なものではなく、充実感と達成感のしるしのように思えた。
みんなも同じように感じているのか、言葉は少なくてもどこか満たされた空気が流れていた。
「次は、何を植えようか?」
拓海が顔を上げ、真剣な目で私たちを見た。
「私は枝豆の成長をもっとじっくり見守りたいな。前回の収穫、すごく嬉しかったから。」
美咲が笑顔で答える。
「僕はトマトに挑戦したい。甘くてジューシーなやつを作るのが夢なんだ。」
大智が少し照れながら話すと、皆から軽い歓声が上がった。
「私もいろんな野菜に挑戦してみたいな。ハーブももっと勉強したいし。」
私は小さく息を吸い込んで言った。
そんな話をしながら、ふと畑の入口を見ると、おばあちゃんが小さな籠を手にゆっくりと歩いてくるのが見えた。白髪が夕日に照らされて輝き、顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
「おばあちゃん!」
私が声をかけると、おばあちゃんは軽く手を振りながら近づいてきた。
「みんな、頑張ってるねえ。これ、よかったら飲みなさい。」
おばあちゃんが籠から取り出したのは、冷えた手作りの梅ジュースの瓶だった。ほんのりと甘酸っぱい香りが立ち上り、私たちの疲れた身体に心地よく染み込むようだった。
「わあ、ありがとう! この味、落ち着くね。」
美咲が笑顔で瓶を受け取り、みんなに配り始めた。
一口飲むと、梅の爽やかな酸味と優しい甘みが口の中に広がり、頬の奥からじんわりと温かさが湧いてきた。皆が瓶を回しながら、それぞれのお気に入りの野菜や果物、手作りの味について話し始める。
「俺は母の作った味噌漬けが大好き。あの香りを嗅ぐと、子どもの頃を思い出すの。」
拓海が懐かしそうに話す。
「俺は、祖母の畑で採れたトマトで作るケチャップ。すごく甘くて、友達にも自慢してるんだ。」
大智が少し照れながら語った。
「手作りって、やっぱり特別だよね。作った人の気持ちが伝わるっていうか。」
美咲が言い、皆もうなずく。
おばあちゃんの作った梅ジュースを飲みながら、私は胸がぽかぽかと温かくなるのを感じた。野菜や果物はただの食べ物じゃなくて、手をかけ、愛情を注ぐことで、人と人とをつなぐ大切な橋渡しになっているのだと実感した。
「みんなが汗水たらして作ったものは、みんなの心も育ててくれるのよ。」
おばあちゃんの言葉が、静かな夜の畑に柔らかく響いた。
空は深い紺に染まり、星がひとつ、またひとつと瞬き始めている。私は小さく息を吐きながら、明日もまたこの場所に来て、皆と一緒に土を耕し、野菜と向き合おうと決めた。
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