レシピの見つけ方 〜旅するお菓子ノート〜

武内れい

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第一章:画面を抜けて

4、初めてのパティスリーツチヤ(後半)

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 お店の中に入った私は、少し緊張しながらも目を見張った。
 壁や天井は、クリーム色のペンキで優しく塗られていて、木の梁がアクセントになっている。
 棚には、さまざまな焼き菓子が並び、それぞれがまるで宝石のように輝いている。

 優しい光がガラスケースの中のお菓子を包み込み、マドレーヌやフィナンシェ、クッキーたちがまるで生きているかのように見えた。
 カウンターの奥では、白いエプロンをつけた男性が手際よくお菓子の箱を詰めている。

 その男性は、丸みを帯びた顔に黒縁の眼鏡をかけ、ちらほら混じる白髪が落ち着いた印象を与えていた。
 エプロン姿がまるで職人の制服のように板についていて、手はいつも粉まみれのようだった。
 彼の動きは静かで丁寧、一つ一つのお菓子に対する深い愛情が伝わってきて、見ているだけで胸があたたかくなる。

 笑うと優しく和らぐその目は、きっと多くの人たちに安心感を与えているのだろう。
 真面目で頑固な職人気質を感じさせながらも、後輩や子どもたちには優しく接するその姿に、私は自然と尊敬の気持ちを抱いた。

「いらっしゃいませ」
 穏やかで優しい声が耳に届き、振り返ると、その男性店員さんがにこやかにこちらを見ていた。

 私は、しばらく言葉が出なかった。
 初めての場所、初めての人、初めての体験。胸の中はわくわくと不安が入り混じっていた。

 でも、勇気を出して、ゆっくりと「焼き菓子をひとつください」と言った。
 店員さんはにっこり笑いながら、「どれにしますか?」と聞いてくれた。

 ショーケースの中をもう一度じっくり見て、名前も形もかわいいクッキーを選んだ。
 手渡された袋からは、バターと砂糖の甘い香りがふわっと漂ってきて、私の心はふわっと温かくなった。

 お店を出るとき、店員さんが「またいつでも来てくださいね」と言ってくれた。
 その言葉が、私にとっては大きな励ましになった。

 帰り道、焼き菓子を一口食べると、外側はさっくり、中はしっとりとやわらかくて、口いっぱいに甘さとバターの香りが広がった。
「おいしい……」思わず声に出してしまった。

 家に帰ると、いつものノートを取り出し、今日の体験を丁寧に書き始めた。
 お菓子の名前や見た目、味の感想、店の雰囲気、そして自分が感じたこと。
 一文字一文字に、今日の感動を込めるようにゆっくりと書いていった。

 ページの端には大きく〈また行く〉と書いた。
 それは私自身への約束でもあり、未来への一歩だった。

 それから何度もお店に通い、少しずつ勇気がついていった。
 お店の人たちと少しずつ話すようになり、お菓子作りのことも少しずつ教えてもらった。

 初めての挑戦で、私は家でお菓子を作ってみたけれど、うまくいかなかった。
 材料の分量を間違えたり、焼き時間が長すぎて固くなったり……。

 でも、その失敗もまた、新しい発見のはじまりだった。
 できないことを知ることは、できるようになるための第一歩なんだと気づいた。

 夏休みには、勇気を振り絞ってパティスリーの工場見学を申し込んだ。
 広い工場の中、たくさんの機械が忙しそうに動き、作業員の方々が一生懸命お菓子を作っている様子に圧倒された。

 そのときは、細かいことがたくさんありすぎて、全部は理解できなかった。
 不安になって、もうやめたいと思ったけれど、家に帰る道すがら、心の中でもう一度、がんばりたいと決めた。

(また、店員さんに声をかけてみよう)
 そう思った瞬間、胸の中に新しい勇気が芽生えたのを感じた。

 こうして、私の小さな旅は続いていく。
 知らない世界への一歩は、いつも怖くて、それでも楽しみでいっぱいだった。
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