恋や友情が、なくても

武内れい

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第一章:日常のさざ波

3、日直と、照れくささ(前半)

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 朝の教室は、まだ眠気が残るような静けさと、新しい一日の始まりを感じさせるざわめきが入り混じっていた。足音や椅子の軋み、友達同士のささやかな声。
 窓の外はどんよりとした薄い雲が広がり、空気は少しひんやりしている。

 朝見ほのかは自分の席に着き、黒板の横の日直表をちらりと見る。今週のペアは自分と高森颯太。毎朝、何気なく交わす挨拶の相手だ。
 昨日の朝、颯太に「おはよー」と声をかけられてから、まだ胸の奥に小さな火が灯っているのを感じていた。

(プリント配らなきゃ)

 ほのかは気持ちを切り替え、机の上のプリントの束に手を伸ばした。すると、颯太がすっと先に手を出し、言葉もなく半分の量を雑に掴んだ。紙がくしゃっと音を立てて、ほのかの手に乱雑に押し付けられる。

「……もう、ちゃんと分けて渡してよ」

 つい、眉をひそめて声をかける。颯太はくすっと笑って、どこか悪戯っぽく言った。

「いーじゃん、バラバラじゃなければ」

 ほのかは小声で促すように続ける。

「ちょっとは丁寧にして……」

 その言葉を聞いたクラスメイトの何人かが茶化すように声をあげた。

「え~?朝見さんってば注意しちゃって~、いい感じじゃん?」

 南沢レナがくすくすと笑いながら、ほのかの顔をじっと見る。ほのかの頬が熱くなるのを感じて、目をそらした。

 颯太はそれを見て、からかうように目を細めた。

「なにそれ、俺のせい?」

 ほのかは咄嗟に、笑いながらも否定した。

「ち、ちがうし!」

 教室の中で軽い笑い声があがり、ほのかは照れ隠しに小さく肩をすくめた。颯太のくしゃっとしたプリントの束を受け取りながら、ふと彼の横顔を見る。

 颯太は目を細めて、軽やかな笑みを浮かべていた。

(なんでそんなに気楽そうなの……)

 内心でそう思いながらも、どこか羨ましくもあった。

 ほのかの胸は、朝の「おはよー」からまだ少しだけぽかぽかしている。でも、そんな気持ちを自分で認めるのはまだ怖い。
 自分でもわからない、その曖昧な感覚に戸惑いながら、ほのかはプリントを配る準備を始めた。
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