恋や友情が、なくても

武内れい

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第一章:日常のさざ波

6、レナのまなざし(後半)

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 ノートの上を指が何度も往復し、ぼんやりとした形が少しずつ定まっていく。それでも、朝見ほのかの頭の中は静かにならなかった。

 南沢レナの声が、高森颯太の声が、繰り返し繰り返し響いている。

「颯太、あんたほんとにもう……」

 レナの明るい笑い声は、ほのかにはまるで遠くの星の輝きのようだった。手の届かない、でも目が離せない何か。

 目の前の図形がぼやけて、思わずため息をつく。

(なんで、あんなふうに話せるんだろう……)

 胸の奥で、ぽっと小さな炎が灯った気がした。名前のない、少しだけ痛い感情。

 授業のベルが鳴り、ざわめきがいったん収まる。担任の松井先生が黒板の前に立つ。

「さあ、みんな、席に着いて授業を始めましょう」

 教室が静かになり、ほのかは自分の席に戻る。だが、視線はふと、颯太の方に向いた。

 颯太はまだ笑顔を浮かべている。レナと別れて、少しだけ肩をすくめているのが見えた。

「颯太は、自由で羨ましいな……」

 ほのかは小さく呟いた。自分の胸に何があるのか、言葉にするのはまだ怖かった。

 隣の席のレナがさりげなくノートを取り出し、さっと何かを書き込む。颯太に見せるように軽く笑う。

 その様子を見て、ほのかはそっと視線をそらす。

「私には、ああいう強さがない」

 かつて自由帳に絵を描いたとき、男子に笑われて以来、ほのかは自分の好きなことを人に見せるのが怖くなった。

 でも、心のどこかで憧れている。

 颯太とレナの間には、自然なやりとりがあって、楽しそうな空気が流れている。

 ほのかは、その輪に入れない自分がどこか切なかった。

「でも、きっと私は私でいいんだ」

 そう自分に言い聞かせて、またノートに視線を戻す。

 小さな紙切れの上に、少しずつ文字や線を描きながら、ほのかは胸のざわつきを少しずつ整理していった。

 まだ名前のない、この気持ちを抱えたまま。

 教室の中は、変わらずざわざわと賑やかだ。

 窓の外の曇り空も、そのまま続いている。
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