命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2部 「教会送り」追求編

大司教と対面する

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 部屋の中は一言で表すなら異様だった。
白1色に統一されており、中央には天蓋付きの高級そうなペッドが1つ。
それ以外は何も無い。 
 まるでここだけ時間が止まっているかのように静かで、外の音すら聞こえない。

 「ここが、大司教の部屋……」

 「らしいな。それにしても気分が悪い。魔除けでもかけてあるか」

 魔王は眉をひそめながら自分にバリアを張り、どちらが言い出すともなくベッドに向かう。
そこには艶のある白髪の男性が穏やかな顔で横たわっていた。
しかし、まるで死人のように色白く生気が感じられない。

 「い、生きてますよね?」

 「おそらくな。のんきな顔で眠りこけおって……。起こさねばならん」

 「そ、その前に1つだけ良いですか?」

 「なんだ」

 魔王はめんどくさそうに目を細くして俺を見る。

 「大司教が起きたら、敵意がないことを示すために両手を挙げましょう」

 「フン、別にどうでも良いわ」

 「良くないです!」

 叫んだ俺に、魔王は驚いたように口を曲げた。

 (機嫌損ねた!?でもこれだけは言っておかないと!)

 一瞬、怯んたが勢いで喋り続ける。

 「俺達は大司教と話に来たんです!戦いにきたわけじゃありません!
俺は大司教のことよく知りませんけど、意志は汲み取ってくれるはずです!」

 魔王は瞬きもせずに俺を眺めたままだったが、フッと笑みを漏らした。

 「言うようになったではないか。よかろう、従ってやる」

 「ありがとうございます!」

 勢いで頭を下げると、そこに衝撃がはしった。

 「いってぇー!?」

 「頭を下げ過ぎだと言われたようだな?」

 ジンジンとうずく頭を押さえながら顔を上げると、メイスを持って勝ち誇ったように笑う魔王が映る。

 (と、当然だけどフローのよりも痛ぇ……。
 っていうかデュークさん、パラしたな!?)

 「さて、遊びはここまでだ。本題に移るぞ」

 思わず睨んでしまったが、魔王はすまし顔だ。 
大司教に向き直り呪文を唱えようとしたが、眉をひそめて両手を下げる。

 「ど、どうしたんですか?」

 「……魔力を使いすぎた。子どもの姿故、保有量が半分なのだ」

 「じゃあ大司教を起こせないってことですか!?」

 せっかくここまで来れたのに、分厚い壁が立ちはだかった。

 「仕方あるまい。我の魔力が回復するのが先か、ニンゲン共が侵入に気づくのが先か……」

 「そ、そんな……」

 「我の所持品――以前着ていた服や身につけていた物があれば話は別だが。
それらにも魔力を込めているため、補充できる」

 (魔王が身につけていたもの……服なんてねぇし――あ!)

 俺は素早く服の内ポケットをまさぐって、手のひらサイズの革袋を取り出す。
中に入っている物がぶつかり合ってカチャリと音を立てた。

 「何だそれは?」

 「魔王さんの指輪です。イノサンクルーンから預かってて……2つあります」

 彼が化けていた魔王を倒す時、討伐の証拠にと渡されたものだった。
 没収されるどころか証拠があるかどうかも聞かれることなく、結局ずっと持ったままだったのだ。

 「フン……アイツめ……」

 魔王は珍しく口元を緩めると俺から革袋を受け取った。
素早く指輪を取り出して嵌めると、満足そうに頷く。

 「上等である」

 魔法は胸の前で手を組むと、またもや聞いたことのない呪文を唱え始めた。



 やがて、大司教の目がゆっくりと開き、光を取り戻してゆく。
顔を横に向けると、俺達を認識して瞬きを繰り返した。

 「ん……君は……?なぜ私を起こした?」

 穏やかで静かな声だった。
だけど、どこか威圧があり思わず背筋が伸びる。

 「は、話があって来ました」

 「話?だが……その隣にいる子は人間ではないな……魔族か?」

 「いかにも。しかし隣のニンゲンの言う通り、我は危害を加えるつもりはない」

 俺達は目配せすると、両手を挙げて敵意がないことを示す。
大司教は興味深そうに俺達を交互に見て、深い息を吐いた。

 「人と魔族が並んで私の前に立つ。長年を生きてきたが、初めて見る光景だな。
 ひとまずそう思うことにしておこう。話を聞こうか」

 大司教はゆっくりと体を起こすと、俺達を凝視する。
穏やかな表情ではあるが眼光は鋭く、少し気圧された。

 「「教会送り」について2つあるんですけど……」

 「「教会送り」……?」

 「そうだ。先に我から尋ねる。我等魔族の「墓地送り」を模範したな?」

 大司教はしばらくの間魔王を見つめていたが、認めるように首を縦に振った。
 
 「その通りだ……。しかし、れっきとした理由がある」

 「内容によっては打ちのめすぞ?」 

 「だからやめてくださいって!話に来ただけなんですから!」

 慌てて2人の間に割って入る。魔王は不満そうに俺を見たが、諦めたように小さくため息をついた。
 すると大司教がポツリと話し出す。

 「……「教会送り」を作ったのは私だ。
 昔から魔物の襲撃や予期せぬ事件・事故で命を落としてしまう者が多くてな。私はどうにかしたかった。
そこで「墓地送り」を知ったのだ」

 「それで魔王城に忍び込んだのか?」

 「ああ。まだ若かりし頃、仲間と共にな。しかし、誰にも知られたくなかったため、仲間に先に行かせて私は探索していたのだ。
 当然、重大な仕組みなのでそう簡単に方法なんて見つからなかった。
 魔王本人に聞かなければならないかと諦めていた時、倉庫らしい所で地下への入り口を見つけたのだ」

 「……管理が甘かったわけか……」

 苦々しく呟いた魔王に大司教が頷き返す。

 「そこには古い書物が多く収蔵されていた。種類は生活知識から戦闘知識まで様々。
私はやっと「墓地送り」について書かれた魔導書を見つけたのだ」

 「それを盗んだと?」

 「ああ。懐にしまい込んで急いで仲間の元に戻り、魔王を討伐したのだ」

 「え、討伐に成功したんですか?」

 今回よりも前に魔王が討伐されていたことに、開いた口が塞がらなかった。

 (まぁ俺達の場合はフェイクだったけど……)

 「正しくは、私の封印によってだが。数百年に1度しか目覚めなくなる代償を払ってな」

 (それじゃあ、「教会送り」を完成させたのは別の人?)

 そうでもしないと辻褄が合わない。

 「でもその時はまだ「教会送り」は完成していなかったんですよね?
なのに……」

 「本来、代償はすぐに払わなければいけないもの。
しかし、私は魔法陣に手を加えて1年後に眠りにつくようにしたのだ」

 「魔法陣を……」

 「相当なやり手だったのか」

 俺と魔王の言葉に大司教は微笑んでいるだけだった。
何も返事がないのが逆に怖い。

 「私が眠りにつくことは仲間に伝え、そこからは「墓地送り」の解明と、
人間にも応用できないかと日夜研究に没頭した。
そしてどうにか1年以内に「教会送り」を完成させることに成功したのだ」

 一息ついた後、大司教は魔王に問いかける。

 「さて、私は打ちのめされるのかな?」

 「否。値せぬ」

 「そうか……。納得してもらえたようで何より」

 「仲間の死への不安を軽くしたいという気持ちは同じだからな」

 魔王の言葉に大司教は驚いたように目を見開く。

 「君はもしや魔族の――いや、今はよそう。
 次は、君の番かな?」

 大司教の視線が俺に向いた。

 (あ、改めて見られるとちょっと怖いな……)

 「は、はい。
 じゃあ俺から質問です。「教会送り」のペナルティは……寿命ですか?」

 俺の言葉を聞いた瞬間、大司教は今までにないぐらい目を大きく見開いた。
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