命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

文字の大きさ
17 / 93
第1部 魔族配下編 第1章

またサンドバッグにされかける

しおりを挟む
  翌日、俺は裏に来ていた。
今日もやることがないからだ。

 (昨日は散々だったけど、なんとかなったし)

 オネットのメイドパワーのおかげでナイト達の士気が高まり、
彼らの明らかな早業で、夜になって少ししてから
武器磨きを全て終わらせることができたのだった。
 幸い筋肉痛はそこまで酷くなく、動かしづらいがちゃんと歩ける。
また昨日みたいに同じ姿勢で長時間の作業じゃなければ大丈夫だ。

 (誰かに何か頼まれれば行くんだけどな)

 強制されることが多いとはいえ、魔族達と一緒に何かをするのが楽しいと思うようになった。
恵まれているだけだろうがそれでも役に立てていると思うと嬉しく感じる。

 「おい、下僕モドキッ!」

 「下僕モドキ⁉」

 聞き覚えのある声に振り返るとアパリシアさんが立っていた。
俺の後ろに立っているが何か意味でもあるのだろうか。

 「アタシのサンドバッグになれ!」

 「今からですか⁉」

 「そうだ!」

 そう言いながらアパリシアさんは前回と同じように
俺の首根っこを掴むと引っ張り始めた。

 「ちゃ、ちゃんとついてくんで離してください!」

 アパリシアさんが動きを止めて俺を見つめてくる。

 「ホントかー?」

 「ホ、ホントです!」

 「そ、なら離してやる。ヘンな行動したら燃やすからな!」

 (アッサリ離した?)

 てっきり「うるさい、大人しく引きずられてろ!」とでも言われるのかと思っていた。
 アパリシアさんより少し後ろをついていく。

 (並んで歩くわけにもいかないしな……一応は下僕だし)

 それよりも「下僕」ではなく「下僕モドキ」と呼ばれた事が引っかかった。
尋ねてみることにする。

 「あの、下僕モドキって下僕より格上ですよね?
モドキですし」

 するとアパリシアさんが振り向いて焦ったように
口を開いた。

 「ア、アタシとってはどっちも一緒だ!」

 「なら、下僕でも良くないですか?」

 「気分だ、気分!
 ……べ、べつに、肉多めにくれたのが
嬉しかったとかじゃないからな!
ゼッタイに違うんだからなッ!」

 「あー、はい」

 納得した。肉集めのパシリをやらされた時に量を多めに持っていったのだが、
それが功を奏したようだ。

 (取ってきたのはデュークさんだけど。やっぱ多めで嬉しかったのか。
わかりやすいな。それに単純……)

 「なんだその反応は!燃やすぞ⁉」

 「あー、はい」

 「うぐぐぐッ………!」

 俺の棒読みな反応にイラついているようだが、
これからサンドバッグにする予定だと考えているのか攻撃はしてこなかった。
 しばらく歩くと前と同じ荒れ地についた。
 が、

 「キキキキキッー‼」

 「ヒヒヒッ‼」

 前回とは違って明らかに人外の生物が2体いる。マジックキメラとヘルメイジだ。
2体とも『手強いモンスター10選』に名が挙がっている。

 (野生か?いや、だったら攻撃してくるはず……)

 俺の疑問を汲み取ったようでアパリシアさんが
声をかけてくる。

 「あ、コイツらアタシの部下」

 「はい?」

 へネラルさんもモンスターの暗黒ナイトを従えていたし、
この2体がアパリシアさんの部下と言われてもおかしくはないのだが、
どう見ても言葉は通じなさそうだ。

 「だってお前アタシの魔法から逃げ切ったからさ、
それならもう少し数増やしても逃げれるだろ?」

 (ちょっと待て!なんでそうなる⁉)

 逃げ切ったのは事実だがギリギリの状態だった。
一歩間違えれば「教会送り」になるレベルだ。

 「ま、魔王さんから何か言われてないんですか⁉」

 「え、どうだったっけー?言ってたような気もするけど
忘れた!」

 (忘れちゃダメなヤツだろ!)

 「「教会送り」ですよ!」

 「あ、そうだったかな。まぁお前なら逃げ切れるだろ。
大丈夫大丈夫」

 (大丈夫じゃねぇ!)

 「おっし!じゃあ始めるぞ!お前ら、遠慮無しでいい!
コイツ避けるから!」

 「カカカカカッ!」

 マジックキメラは水、ヘルメイジは風魔法が得意のようだ。
アパリシアさんの火魔法と合わせて荒れ地が派手な色や轟音に包まれていく。
 俺はというと普段通り情けない声を出しながら逃げ回っていたのだが、
ふとした瞬間に足を取られた。

 「ヤベッ……」

 振り向くと眼前には巨大な竜巻。
 両腕で顔を覆った直後、俺に迫っていた竜巻が巨大な炎に飲み込まれる。
 見ると、アパリシアさんが目を丸くしながら手を突き出していた。

 (助けてくれたのか?直撃するところだった……)

 「ストップ!攻撃やめ!」

 アパリシアさんの号令で部下達が動きを止める。
そして訝しそうに俺に近づいてきた。

 「お前、今日キレ悪いな?なんかあったのか?」

 「……あ、実はですね――」

 昨日の出来事を話すとなぜか哀れみの目を向けられる。
それぐらい大変な作業のようだ。

 「武器磨き⁉……ゴクローさん」

 「ど、どうも……」

 アパリシアさんは俺を見ながら小さくため息をついた。

 「……今日はサンドバッグ終わりだ。帰れ」

 「え、でもまだ……」

 「帰れったら帰れ!万全の状態じゃないお前を
サンドバッグにしてもつまらない!」

 声を荒げたアパリシアさんに気圧される。何度もあったのだが、今のは明らかに怒っている。
心配もあるのかもしれないが怒りしか感じ取れなかった。

 (「教会送り」のこと忘れたって言ってたけど、絶対覚えてるよな?
さっき俺を庇ってくれたし)

 帰れ=休めということだと思う
。大人しく従うことにした。

 「じゃあ失礼します……」

 (なんかモヤモヤする)

 筋肉痛があったとはいえ、地面に足を取られたこと、
それが原因で「サンドバッグ」を中止させてしまうことになった。

 (強制参加だったけどな……でも……申し訳ない)

 俺は暗い気分のままその場を後にした。



 ――――――――――――――――――

 アパリシアはモトユウが去っていった方向を
どこか不安そうに眺めていた。

 「んー、やっぱ調子悪そうだな。
帰して当たりだったか……」

 「チィ~~ス、アパちゃん~!」

 「げ⁉デューク⁉」

 さっそうと現れたデュークに対して、
明らかに嫌悪感を示しながらアパリシアが距離を取る。

 「そんな嫌そうなカオしなくても良くない~?
俺ショック~。
 それで、どこ見てため息ついてんのさあ?」

 「べ、べつに!アタシの勝手だろ!
おし、お前ら帰っていいぞ!」

 アパリシアの言葉を聞くとマジックキメラ達は去っていった。
それらを見送ったあと、アパリシアがデュークに向き直る。

 「で、何の用だよ?」

 「お気遣いどうも~。やっぱわかる?」

 「そりゃそうだろ!お前がアタシのところに来るときは8割方大事な話だからな!」

 「なら、いいや。さっそく本題に入るけど~」

 急に声を低くしたデュークにアパリシアはゴクリと唾を飲み込んだ。

 「モトユウちゃんの事、どう思う?」

 「……は?」

 「どう思うって聞いてんのよ」

 デュークの気迫にたじろぎながらアパリシアが答える。

 「ど、どうって……。まぁニンゲンにしては変わったヤツだなって。腰が低いっつーか。
 そ、そういうお前はどうなんだよ⁉」

 「俺?俺は好きよ?モトユウちゃん。オモシロイ」

 アパリシアは呆れ顔をしながら眉をひそめると口を開いた。

 「まさか、こんなくだらないこと聞きに来たのか?」

 「いや。今のは前フリ。モトユウちゃんの経緯聞いた?」

 「あー、なんか「乞いた」って。マジの話?」

 「マジ」

 デュークの言葉を聞いたアパリシアは顔を引きつらせる。

 「……ウソだろ……。なら、なんで
?」

 「ウソのようなホントの話。やっぱそう思うよな?
俺も引っかかってる。
 マーさん曰く「死にたくなかった」んだとよ」

 「……ニンゲンにしてはなんか違うなとは思ってたけど。
アタシの魔法から逃げ切ったし」

 アパリシアの言葉を聞いたデュークは軽く鼻で笑った。

 「アバちゃんの魔法から逃げれたのは実力だと
思うけどねー。
 つーワケだから間違っても「教会送り」にすんなよ?
モトユウちゃんがニンゲンなのは確かだけど、
ありゃ返しちゃいけないヤツだ」

 「「教会送り」になんかするわけないだろ!
アタシのサンドバッグが減る!」

 「ヒハハハハッ!そりゃ結構。
 アパちゃんは心配しなくても大丈夫そうだなー」

 「……どこ行くんだよ?」
 
 アパリシアは去っていこうとするデュークに声をかける。
デュークは振り向くと口角を上げた。

 「ちょっと忠告してくるわ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

処理中です...