19 / 93
第1部 魔族配下編 第1章
改めて忠告される
しおりを挟む
「おかしい……」
翌朝、俺は複雑な気分でベッドに腰掛けていた。
筋肉痛や疲れはフロのおかげですっかり取れていたが、
モヤモヤは続いていた。しかし昨日のことではない。
一昨日から真っ白な世界の夢を見ていなかったのだ。
「妙な所で終わってるから見たかったのにな……」
前回はかつての仲間であるザルドにモーニングスターを
振り下ろされた所で目が覚めた。
なかなか恐ろしい状況だが、夢自体に何か意味があるのだと考えている。
「でも急に見なくなったのも気になる。
またそのうち見れるといいんだけどな……」
ふとした瞬間にため息が出る。
まだここに来てから日は浅いのにひと月は過ぎた気がする。
(魔族の配下になってから今日で5日目なんだよな。思ったより時間の流れが遅い。
あれ?そういえばデュークさん達、人間の俺が居るのに、
国の情報とか聞いてきてねぇ)
人間を支配したいとか滅ぼしたいとか目的があるのなら、真っ先に俺に聞いてくるはずだ。
生活や文化については何度かあったが、どこの町が落としやすいとか、
仲の悪い国はどこか、とか情勢について今まで1度も聞かれていない。
「なんか意味があるのか?それとも忘れてるだけとか?」
「何を忘れてるってぇ~?」
「おわッ⁉」
いつの間にか真正面にデュークさんが立っていた。またノック無しで入ってきたようだ。
俺の顔を疑いの目で覗き込んでくる。
(神出鬼没だな⁉心臓に悪い!)
「いや、こっちの話です……っていうか居たなら声かけてくださいよ⁉」
「何か真剣に考えてるみたいだったからさ~、
おどかしてやろうと思って、ヒハハハッ!」
「何か用事なんですよね?」
俺がそう言うとデュークさんが急に真顔になった。
思わず唾を飲み込む。
「そう。ちょっと脅すぜ?
モトユウちゃん、アンタ引けないトコまで来ちまったな?」
「え、それはどういう……」
「マーさんや俺だけでなくアパちゃんや、ヘネちゃん……他の幹部の信頼まで得てしまった。
初めて受け入れたニンゲンを信頼してんだよ。
つまり、裏切ったらどうなるか言わなくても
わかるよなぁ~?」
「……………八つ裂きですか?」
「いや、ねじ伏せて尋問する。
いろいろ知ってしまったからな。
「教会送り」にしたらマズいぐらいによぉ」
背筋が凍る。少しだが体も震えている。
デュークさんの語尾が伸びていない時はマジだ。
(確かにそうだが、そっちからベラベラ喋ったよな⁉)
「万が一俺が裏切ったら――」
「今の状況でどう裏切るつもりだ?
他の冒険者共が来たら寝返るのか?」
「ま、万が一ですよ。万が一」
(怖ぇ。裏切られる事に対してそうとう執着がある)
過去に何かあったのは間違いないようだ。
後退しようと思ったがいつの間にか肩をガッチリ掴まれていて動けない。
「万が一だろうが何だろうが、裏切りを匂わせるような事言うなよ。
腕斬り落としたくなるじゃねぇか」
「…………」
「モトユウちゃんは気づいてないかもしれねぇけどな、
俺達は頻繁にニンゲンの住処襲ってんだぜ?」
(そんな事してたのか⁉いや魔族だから当然なんだろうけど、いったいいつ……)
「ヒドいとか言うなよ?ニンゲンだって俺達魔族をボコしてんじゃねぇか。
挙げ句の果てにはマーさんを倒そうと躍起になってる」
「それは人間にとって魔王は脅威で……」
「フーン、やっぱそう考えるよな」
「え?」
思わずデュークさんを見つめる。
冒険者の最終目的は魔王討伐だ。フィールドに出る前に
通う訓練所で情勢についてかじるのだが、「モンスターより上の魔族、さらに上の魔王。
その魔王を討伐することが目的」と何度も教えられる。
(まぁ今の魔王達を見てると絶対に悪とは言えないけど……)
俺達人間にとって脅威であることは変わらないはずだ。
答えに迷っているとデュークさんがさらに顔を近づけてくる。
「まぁニンゲンにとっては俺達は邪魔でしかないんだから排除するよな、フツー」
「で、でも……」
「でも何?自分は俺達の配下だからそんなコトしませんって?」
(う、疑われてるのか……)
言葉に詰まる。だが、ここで下を向くとさらに覗き込まれるので、
体を震わせながらもデュークさんから目を離さない。
「今はそうかもな。だが、お仲間が来ても同じ事言える?」
「……………………」
(もしザルド達が来たら……今のままだと中立的な立場になる。
どちらか一方につくなんて無理だ)
我ながら甘い考えだし呆れるが実際そうだ。魔族と少し打ち解けた今、急に斬れと言われても斬れない。
どのように返せばいいのかわからずに堪えていると、
デュークさんは小さく息をついて表情を和らげた。
「モトユウちゃんの事だから、どっちにもつけない
、とか考えてんだろ?」
「あ…………」
思わず声を漏らすとデュークさんが笑う。
「ヒハハハハッ!やっばりな!」
「……か、顔に出てました?」
「おう。わかりやすいもん。
でも、そうなる可能性はあるから、どうするか考えとけよ?」
「は、はい……」
(難しい決断だな……)
魔王の下につくと決めたのは俺だ。完全に自己責任だが、
今の俺には判断ができそうにない。
翌朝、俺は複雑な気分でベッドに腰掛けていた。
筋肉痛や疲れはフロのおかげですっかり取れていたが、
モヤモヤは続いていた。しかし昨日のことではない。
一昨日から真っ白な世界の夢を見ていなかったのだ。
「妙な所で終わってるから見たかったのにな……」
前回はかつての仲間であるザルドにモーニングスターを
振り下ろされた所で目が覚めた。
なかなか恐ろしい状況だが、夢自体に何か意味があるのだと考えている。
「でも急に見なくなったのも気になる。
またそのうち見れるといいんだけどな……」
ふとした瞬間にため息が出る。
まだここに来てから日は浅いのにひと月は過ぎた気がする。
(魔族の配下になってから今日で5日目なんだよな。思ったより時間の流れが遅い。
あれ?そういえばデュークさん達、人間の俺が居るのに、
国の情報とか聞いてきてねぇ)
人間を支配したいとか滅ぼしたいとか目的があるのなら、真っ先に俺に聞いてくるはずだ。
生活や文化については何度かあったが、どこの町が落としやすいとか、
仲の悪い国はどこか、とか情勢について今まで1度も聞かれていない。
「なんか意味があるのか?それとも忘れてるだけとか?」
「何を忘れてるってぇ~?」
「おわッ⁉」
いつの間にか真正面にデュークさんが立っていた。またノック無しで入ってきたようだ。
俺の顔を疑いの目で覗き込んでくる。
(神出鬼没だな⁉心臓に悪い!)
「いや、こっちの話です……っていうか居たなら声かけてくださいよ⁉」
「何か真剣に考えてるみたいだったからさ~、
おどかしてやろうと思って、ヒハハハッ!」
「何か用事なんですよね?」
俺がそう言うとデュークさんが急に真顔になった。
思わず唾を飲み込む。
「そう。ちょっと脅すぜ?
モトユウちゃん、アンタ引けないトコまで来ちまったな?」
「え、それはどういう……」
「マーさんや俺だけでなくアパちゃんや、ヘネちゃん……他の幹部の信頼まで得てしまった。
初めて受け入れたニンゲンを信頼してんだよ。
つまり、裏切ったらどうなるか言わなくても
わかるよなぁ~?」
「……………八つ裂きですか?」
「いや、ねじ伏せて尋問する。
いろいろ知ってしまったからな。
「教会送り」にしたらマズいぐらいによぉ」
背筋が凍る。少しだが体も震えている。
デュークさんの語尾が伸びていない時はマジだ。
(確かにそうだが、そっちからベラベラ喋ったよな⁉)
「万が一俺が裏切ったら――」
「今の状況でどう裏切るつもりだ?
他の冒険者共が来たら寝返るのか?」
「ま、万が一ですよ。万が一」
(怖ぇ。裏切られる事に対してそうとう執着がある)
過去に何かあったのは間違いないようだ。
後退しようと思ったがいつの間にか肩をガッチリ掴まれていて動けない。
「万が一だろうが何だろうが、裏切りを匂わせるような事言うなよ。
腕斬り落としたくなるじゃねぇか」
「…………」
「モトユウちゃんは気づいてないかもしれねぇけどな、
俺達は頻繁にニンゲンの住処襲ってんだぜ?」
(そんな事してたのか⁉いや魔族だから当然なんだろうけど、いったいいつ……)
「ヒドいとか言うなよ?ニンゲンだって俺達魔族をボコしてんじゃねぇか。
挙げ句の果てにはマーさんを倒そうと躍起になってる」
「それは人間にとって魔王は脅威で……」
「フーン、やっぱそう考えるよな」
「え?」
思わずデュークさんを見つめる。
冒険者の最終目的は魔王討伐だ。フィールドに出る前に
通う訓練所で情勢についてかじるのだが、「モンスターより上の魔族、さらに上の魔王。
その魔王を討伐することが目的」と何度も教えられる。
(まぁ今の魔王達を見てると絶対に悪とは言えないけど……)
俺達人間にとって脅威であることは変わらないはずだ。
答えに迷っているとデュークさんがさらに顔を近づけてくる。
「まぁニンゲンにとっては俺達は邪魔でしかないんだから排除するよな、フツー」
「で、でも……」
「でも何?自分は俺達の配下だからそんなコトしませんって?」
(う、疑われてるのか……)
言葉に詰まる。だが、ここで下を向くとさらに覗き込まれるので、
体を震わせながらもデュークさんから目を離さない。
「今はそうかもな。だが、お仲間が来ても同じ事言える?」
「……………………」
(もしザルド達が来たら……今のままだと中立的な立場になる。
どちらか一方につくなんて無理だ)
我ながら甘い考えだし呆れるが実際そうだ。魔族と少し打ち解けた今、急に斬れと言われても斬れない。
どのように返せばいいのかわからずに堪えていると、
デュークさんは小さく息をついて表情を和らげた。
「モトユウちゃんの事だから、どっちにもつけない
、とか考えてんだろ?」
「あ…………」
思わず声を漏らすとデュークさんが笑う。
「ヒハハハハッ!やっばりな!」
「……か、顔に出てました?」
「おう。わかりやすいもん。
でも、そうなる可能性はあるから、どうするか考えとけよ?」
「は、はい……」
(難しい決断だな……)
魔王の下につくと決めたのは俺だ。完全に自己責任だが、
今の俺には判断ができそうにない。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた
ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。
今の所、170話近くあります。
(修正していないものは1600です)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
12/23 HOT男性向け1位
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる