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第3章
テナシテと勝負する
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「俺を待ってたんですか?」
思わず尋ねるとテナシテさんは首を縦に振る。
「ええ。魔王様から伺っていましたので。立っているのもなんですから座られたらどうですか?」
テナシテさんが俺の目の前に置かれてあるイスを指差す。前もって準備していたらしい。
言われたことは最もなのだが、俺は座る気分になれなかった。
(これ、座ったらダメなヤツじゃないか?)
「なぜですか?」
「シャドウバインドしません?」
「おとなしくしていただければしませんよ」
「はあ……」
(勝手に行動するなってことですか?)
解釈を伝えるとテナシテさんが頷く。何が勝手な行動に当たるのかはピンとこないが、ひとまずイスに座った。
それにしても落ち着かない。意味もないのにキョロキョロと何度も周囲を見回す。
「不安みたいですね」
「まぁ……。
テナシテさんは今回の決戦についてどう思っていますか?」
「そうですね、はっきり言って想定外です。今までに一丸となっての襲撃なんてありませんでしたから。
モトユウさんの夢が当たりましたね」
ずっと黙っているのが嫌だから話題を振ったのに、いきなり夢の話を振られて反応が遅れた。
やっぱりザルド達に攻撃されたのは魔王城への襲撃を意味していたのだろうか。そうだったとしてもイマイチ自信が持てない。
もっと大きな出来事かと思っていたからだ。
「決戦の暗示だったんですかね……」
「そうだと思いますよ。
でもよかったですね。ここにいればお仲間さんと対峙することはありませんよ」
「ですね……」
「嬉しくないのですか?」
「なんとも言えなくて」
ザルド達と会わずに済むことに関しては安心している。裏切り者等と責められることもないからだ。
しかし魔王達と別れてからなんともいえない気持ちが治まらない。
(ずっと引っかかってるこの気持ちは何だ?良い感情ではないのはわかるんだけど……)
「あ⁉」
(体が動かねぇ⁉やられた!!)
勝手な行動を取るとでも思われたのだろうか。両手は膝の上、背筋をピッシリと伸ばしたまま動けなくなった。
思わずテナシテさんを睨むが彼は意外そうに眉を上げただけだ。
「おや、モトユウさんも睨むことがあるんですね。出ていかれても困りますから、おとなしくしておいてください。
それに魔王様からモトユウさんを部屋から出すなと言われています」
(だからテナシテさんの所に行けって言ったのか!)
ようやく納得した。悔しさで歯ぎしりをしていると
俺の影を踏んでいるテナシテさんが笑う。
「むしろあっさり来たことにビックリしましたよ。
疑わなかったのですか?」
「てっきり1人でやり過ごすかと思ってたんで。
それにテナシテさんなら大丈夫かと……」
「そうですか」
テナシテさんはそう言うと黙り込む。
しばらくの間会話が途切れたので、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
うっすらと目を開ける。視界には相変わらず目を閉じたままのテナシテさん。
部屋の状態もそのままだ。しかしなぜか体がダルい。
(寝てたのか?俺)
「ええ。ぐっすりと」
「何日か経ちました?」
「今日で3日目です。状況は我々が不利ですね」
「俺そんなに寝てたんですか⁉」
身を乗り出そうとしたが体が動かない。シャドウバインドはかけられたままみたいだ。
(魔法は継続かよ⁉)
「いつ起きるのかわからなかったもので。
あと、魔法で睡眠時間を伸ばしました」
「はい⁉」
「そしてその間に栄養剤を飲んでもらいました。ついでにサンプルもいただきましたけど」
(情報が多くて整理できねぇ⁉)
なんとなく整理すると睡眠時間を伸ばされ、その間に栄養剤を飲まされて、
さらにサンプルを取られてしまったらしい。どおりで倦怠感があるわけだ。
(サンプル云々は置いといて、魔王達が不利?)
「ええ。大技を準備してきたようで、戦力を削られているみたいなんですよ」
(巨大魔法陣のことか?)
やっぱり魔王達にとっても想定外だったのだろうか。対策を練っていなかったのかもしれない。
「って、何でわかるんですか?」
「魔王様が視覚を共有してくださっているからです。
一方通行ですけど」
「じゃあまだ誰も辿り着いていないってことですね」
「そうみたいです」
テナシテさんに視覚共有する余裕があるのなら、まだ大丈夫なのだろう。つい、一安心してしまった。
ふと、さっきから感じている違和感について話すことにする。
「あの、テナシテさん」
「はい」
「俺、なんとなくなんですけど、魔王はどちらが勝つのかわかっているような気がして」
「ほう?」
(それに、ここに来る前デュークさんと会ってきた時、なんともいえない気持ちになったんです。
まるでこの先2度と会えないような)
心で補うとテナシテさんは考え込んだ。
そして再び俺に目線を合わせるとゆっくりと口を開く。
「モトユウさん、あなたは直感が鋭いようですね」
「直感……ってことは俺の感覚は間違ってないってことですか?」
「今まではどうでしたか?それが答えです」
俺が感じた違和感はほぼ的中していた。
今回デュークさんに対して寂しさを感じたということは――
「人間側が勝つ……」
自分で呟いておきながら空虚感が心を支配してゆく。
(本当にそうなってしまうのか?)
「なぜ焦っているのですか?長年の宿敵が倒れるのですよ?
嬉しくないのですか?」
「嬉しくは……ないです……」
答えながら違和感を覚える。
魔王が倒れるのを1番阻止しそうなテナシテさんが全く動じていないのだ。
「テ、テナシテさんは魔王が倒れてもいいんですか?」
「良いか悪いかで言えば断然悪いです。
ですが、決着がつくまでおとなしく待っていなさい」
「嫌です!!」
反射で叫ぶとテナシテさんの眉がピクリと反応した。
想定外の答えだったようだ。
「理解できませんね。
どちらにもつかないあなたが、なぜ動こうとするのですか?」
「それは……」
言葉に詰まる。自分にも言い聞かせていたつもりだった。でも、実際に迫ると抑えられない。
それに自分でもわからないが、今、魔王を倒してはいけない気がする。
(魔王討伐はまだ早いと思うんです!)
強く訴えるとテナシテさんが動揺してフラついた。
大きく息を吐いたあとゆっくりと背筋を伸ばして俺を見る。
「……理由は……?」
「わかりません!感です!」
「……確かにモトユウさんの感は当たるみたいですが、
そのような弱い理由で私が行かせると思いますか?」
「思いません!
それでも俺は!行かないと行けないんです!!」
そう叫んだ直後、体が軽くなった。びくともしなかったのが嘘のように自由に動かせる。
「動ける……?」
わけがわからないまま立ち上がってテナシテさんを見ると、
片手を机について、もう片方の手で顔を覆っていた。
「……まさか……シャドウバインドを解かれるとは……」
「え⁉マ、マグレですよ?」
「どういう原理かはわかりませんが、マグレでも解いたのは事実です。……フフッ」
テナシテさんが笑った直後、悪寒がはしった。この通常よりも少し低い声ながら、どこかバカにするような笑い方は狂気的な笑いの前兆だ。
その笑いが苦手な俺は思わず身構える。
(刺激した⁉解かなきゃよかった!)
しかし予想に反してテナシテさんは大きく1回深呼吸すると、顔を覆ったまま話し始めた。
「ご心配なく。思わず嗤いそうになりましたが、大丈夫です。
はぁ……わかりましたよ。行ってください」
「え、いいんですか?」
(それに魔王の命令に背くことになるんじゃ……)
「2度も同じことを言わせないでください」
「あ、ありがとうございます!」
これ以上居ればまた拘束されるかもしれない。
俺は慌てて頭を下げると部屋を飛び出した。
――――――――――――――――――――――――――――――
モトユウが出て行ったあと、テナシテは顔から手を離してポツリと呟いた。
「間に合えば良いですね……」
思わず尋ねるとテナシテさんは首を縦に振る。
「ええ。魔王様から伺っていましたので。立っているのもなんですから座られたらどうですか?」
テナシテさんが俺の目の前に置かれてあるイスを指差す。前もって準備していたらしい。
言われたことは最もなのだが、俺は座る気分になれなかった。
(これ、座ったらダメなヤツじゃないか?)
「なぜですか?」
「シャドウバインドしません?」
「おとなしくしていただければしませんよ」
「はあ……」
(勝手に行動するなってことですか?)
解釈を伝えるとテナシテさんが頷く。何が勝手な行動に当たるのかはピンとこないが、ひとまずイスに座った。
それにしても落ち着かない。意味もないのにキョロキョロと何度も周囲を見回す。
「不安みたいですね」
「まぁ……。
テナシテさんは今回の決戦についてどう思っていますか?」
「そうですね、はっきり言って想定外です。今までに一丸となっての襲撃なんてありませんでしたから。
モトユウさんの夢が当たりましたね」
ずっと黙っているのが嫌だから話題を振ったのに、いきなり夢の話を振られて反応が遅れた。
やっぱりザルド達に攻撃されたのは魔王城への襲撃を意味していたのだろうか。そうだったとしてもイマイチ自信が持てない。
もっと大きな出来事かと思っていたからだ。
「決戦の暗示だったんですかね……」
「そうだと思いますよ。
でもよかったですね。ここにいればお仲間さんと対峙することはありませんよ」
「ですね……」
「嬉しくないのですか?」
「なんとも言えなくて」
ザルド達と会わずに済むことに関しては安心している。裏切り者等と責められることもないからだ。
しかし魔王達と別れてからなんともいえない気持ちが治まらない。
(ずっと引っかかってるこの気持ちは何だ?良い感情ではないのはわかるんだけど……)
「あ⁉」
(体が動かねぇ⁉やられた!!)
勝手な行動を取るとでも思われたのだろうか。両手は膝の上、背筋をピッシリと伸ばしたまま動けなくなった。
思わずテナシテさんを睨むが彼は意外そうに眉を上げただけだ。
「おや、モトユウさんも睨むことがあるんですね。出ていかれても困りますから、おとなしくしておいてください。
それに魔王様からモトユウさんを部屋から出すなと言われています」
(だからテナシテさんの所に行けって言ったのか!)
ようやく納得した。悔しさで歯ぎしりをしていると
俺の影を踏んでいるテナシテさんが笑う。
「むしろあっさり来たことにビックリしましたよ。
疑わなかったのですか?」
「てっきり1人でやり過ごすかと思ってたんで。
それにテナシテさんなら大丈夫かと……」
「そうですか」
テナシテさんはそう言うと黙り込む。
しばらくの間会話が途切れたので、俺はいつの間にか眠ってしまっていた。
うっすらと目を開ける。視界には相変わらず目を閉じたままのテナシテさん。
部屋の状態もそのままだ。しかしなぜか体がダルい。
(寝てたのか?俺)
「ええ。ぐっすりと」
「何日か経ちました?」
「今日で3日目です。状況は我々が不利ですね」
「俺そんなに寝てたんですか⁉」
身を乗り出そうとしたが体が動かない。シャドウバインドはかけられたままみたいだ。
(魔法は継続かよ⁉)
「いつ起きるのかわからなかったもので。
あと、魔法で睡眠時間を伸ばしました」
「はい⁉」
「そしてその間に栄養剤を飲んでもらいました。ついでにサンプルもいただきましたけど」
(情報が多くて整理できねぇ⁉)
なんとなく整理すると睡眠時間を伸ばされ、その間に栄養剤を飲まされて、
さらにサンプルを取られてしまったらしい。どおりで倦怠感があるわけだ。
(サンプル云々は置いといて、魔王達が不利?)
「ええ。大技を準備してきたようで、戦力を削られているみたいなんですよ」
(巨大魔法陣のことか?)
やっぱり魔王達にとっても想定外だったのだろうか。対策を練っていなかったのかもしれない。
「って、何でわかるんですか?」
「魔王様が視覚を共有してくださっているからです。
一方通行ですけど」
「じゃあまだ誰も辿り着いていないってことですね」
「そうみたいです」
テナシテさんに視覚共有する余裕があるのなら、まだ大丈夫なのだろう。つい、一安心してしまった。
ふと、さっきから感じている違和感について話すことにする。
「あの、テナシテさん」
「はい」
「俺、なんとなくなんですけど、魔王はどちらが勝つのかわかっているような気がして」
「ほう?」
(それに、ここに来る前デュークさんと会ってきた時、なんともいえない気持ちになったんです。
まるでこの先2度と会えないような)
心で補うとテナシテさんは考え込んだ。
そして再び俺に目線を合わせるとゆっくりと口を開く。
「モトユウさん、あなたは直感が鋭いようですね」
「直感……ってことは俺の感覚は間違ってないってことですか?」
「今まではどうでしたか?それが答えです」
俺が感じた違和感はほぼ的中していた。
今回デュークさんに対して寂しさを感じたということは――
「人間側が勝つ……」
自分で呟いておきながら空虚感が心を支配してゆく。
(本当にそうなってしまうのか?)
「なぜ焦っているのですか?長年の宿敵が倒れるのですよ?
嬉しくないのですか?」
「嬉しくは……ないです……」
答えながら違和感を覚える。
魔王が倒れるのを1番阻止しそうなテナシテさんが全く動じていないのだ。
「テ、テナシテさんは魔王が倒れてもいいんですか?」
「良いか悪いかで言えば断然悪いです。
ですが、決着がつくまでおとなしく待っていなさい」
「嫌です!!」
反射で叫ぶとテナシテさんの眉がピクリと反応した。
想定外の答えだったようだ。
「理解できませんね。
どちらにもつかないあなたが、なぜ動こうとするのですか?」
「それは……」
言葉に詰まる。自分にも言い聞かせていたつもりだった。でも、実際に迫ると抑えられない。
それに自分でもわからないが、今、魔王を倒してはいけない気がする。
(魔王討伐はまだ早いと思うんです!)
強く訴えるとテナシテさんが動揺してフラついた。
大きく息を吐いたあとゆっくりと背筋を伸ばして俺を見る。
「……理由は……?」
「わかりません!感です!」
「……確かにモトユウさんの感は当たるみたいですが、
そのような弱い理由で私が行かせると思いますか?」
「思いません!
それでも俺は!行かないと行けないんです!!」
そう叫んだ直後、体が軽くなった。びくともしなかったのが嘘のように自由に動かせる。
「動ける……?」
わけがわからないまま立ち上がってテナシテさんを見ると、
片手を机について、もう片方の手で顔を覆っていた。
「……まさか……シャドウバインドを解かれるとは……」
「え⁉マ、マグレですよ?」
「どういう原理かはわかりませんが、マグレでも解いたのは事実です。……フフッ」
テナシテさんが笑った直後、悪寒がはしった。この通常よりも少し低い声ながら、どこかバカにするような笑い方は狂気的な笑いの前兆だ。
その笑いが苦手な俺は思わず身構える。
(刺激した⁉解かなきゃよかった!)
しかし予想に反してテナシテさんは大きく1回深呼吸すると、顔を覆ったまま話し始めた。
「ご心配なく。思わず嗤いそうになりましたが、大丈夫です。
はぁ……わかりましたよ。行ってください」
「え、いいんですか?」
(それに魔王の命令に背くことになるんじゃ……)
「2度も同じことを言わせないでください」
「あ、ありがとうございます!」
これ以上居ればまた拘束されるかもしれない。
俺は慌てて頭を下げると部屋を飛び出した。
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