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第2部 「教会送り」追求編
73話 束の間の日常に戻る
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魔王討伐から2月。
魔族の姿は見なくなったがモンスター達は変わらず活動しているため、
俺達のような冒険者パーティもまだまだ活躍している。
空がオレンジ色に染まる頃、いつものように依頼をこなしてナキレの酒場で恒例の慰労会を行っていた。
室内はほぼ満員であちこちから笑い声や祝杯をあげる音が聞こえる。
「みんなお疲れ様!」
「どうなることかと思ったが、無事に終わったな!」
「それにしても、今回の依頼は手強かったわね。クイーンワスプを討伐して巣を持ち帰れっていうんだから。
おかげで靴がベタベタになったわ!」
祝杯をあげ、一口飲んでからブツブツと文句を言っているのはソーサレスの
フローだ。紫色のローブを身にまとい、癖毛の赤髪を肩まで伸ばしている。
「ま、まさか運んでいる途中で巣が割れちゃうなんて思いませんでしたね」
遠慮がちに言ったのはヒーラーのアリーシャ。こちらは白いローブフードに黄緑色の髪を腰まで伸ばしている。
そう、彼女の言った通り、運搬中に巣が割れて蜜がフローにかかってしまったのだ。
彼女は身なりに人一倍気を使うため、とても不機嫌だ。
「巣をバリアか何かで覆っておくんだったわ」
「巣が割れるなんて滅多にないことなんだろ?運が悪かっただけじゃないのか?」
口を挟んだのはタンクのザルド。兜は流石に脱いでいるが、町の中だというのにシルバーの鎧を脱ごうとしない。
タンクなりの心得でもあるのだと思う。
「にしても酷くない!?アタシ悪い事なんてしてないわよ!?」
「まぁまぁ、過ぎたことだしよ」
「あんたに慰められてもあんまり嬉しくないわ……」
(確かに。1番被害受けたのザルドだし)
フローは靴とローブに少しかかっただけ。それに対してザルドは手から肘にかけてだ。
すぐにフローの水魔法で洗い流したとはいえ、ベタベタとした感触は残っているだろう。
それなのにザルドは、何事もなかったかのようにガハガハと笑っているのだから、その器の大きさを見習いたいと思う。
「今回は大変でしたけど、もし次に同じ依頼を受けても大丈夫ですね。勉強になったので……」
「確かにそうだけど。
次は町の掃除とかもう少しマシな依頼受けてきてよ!カルム!」
「わ、わかったよ……」
フローに気圧されて凄みながら答えた。酒場や掲示板に出ている依頼はパーティリーダーしか受けることができない。
ところで、俺はカルムという自分の名前を思い出して、そのせいか雑音も入らずに聞きとれるようになっていた。
最初は違和感しかなかったが、もうかなり慣れてきている。
ひとしきり飲み食いしてお腹も満たされたので、宿屋に戻ることにする。
店主に代金を払うと、俺達は酒場を後にした。
魔族の姿は見なくなったがモンスター達は変わらず活動しているため、
俺達のような冒険者パーティもまだまだ活躍している。
空がオレンジ色に染まる頃、いつものように依頼をこなしてナキレの酒場で恒例の慰労会を行っていた。
室内はほぼ満員であちこちから笑い声や祝杯をあげる音が聞こえる。
「みんなお疲れ様!」
「どうなることかと思ったが、無事に終わったな!」
「それにしても、今回の依頼は手強かったわね。クイーンワスプを討伐して巣を持ち帰れっていうんだから。
おかげで靴がベタベタになったわ!」
祝杯をあげ、一口飲んでからブツブツと文句を言っているのはソーサレスの
フローだ。紫色のローブを身にまとい、癖毛の赤髪を肩まで伸ばしている。
「ま、まさか運んでいる途中で巣が割れちゃうなんて思いませんでしたね」
遠慮がちに言ったのはヒーラーのアリーシャ。こちらは白いローブフードに黄緑色の髪を腰まで伸ばしている。
そう、彼女の言った通り、運搬中に巣が割れて蜜がフローにかかってしまったのだ。
彼女は身なりに人一倍気を使うため、とても不機嫌だ。
「巣をバリアか何かで覆っておくんだったわ」
「巣が割れるなんて滅多にないことなんだろ?運が悪かっただけじゃないのか?」
口を挟んだのはタンクのザルド。兜は流石に脱いでいるが、町の中だというのにシルバーの鎧を脱ごうとしない。
タンクなりの心得でもあるのだと思う。
「にしても酷くない!?アタシ悪い事なんてしてないわよ!?」
「まぁまぁ、過ぎたことだしよ」
「あんたに慰められてもあんまり嬉しくないわ……」
(確かに。1番被害受けたのザルドだし)
フローは靴とローブに少しかかっただけ。それに対してザルドは手から肘にかけてだ。
すぐにフローの水魔法で洗い流したとはいえ、ベタベタとした感触は残っているだろう。
それなのにザルドは、何事もなかったかのようにガハガハと笑っているのだから、その器の大きさを見習いたいと思う。
「今回は大変でしたけど、もし次に同じ依頼を受けても大丈夫ですね。勉強になったので……」
「確かにそうだけど。
次は町の掃除とかもう少しマシな依頼受けてきてよ!カルム!」
「わ、わかったよ……」
フローに気圧されて凄みながら答えた。酒場や掲示板に出ている依頼はパーティリーダーしか受けることができない。
ところで、俺はカルムという自分の名前を思い出して、そのせいか雑音も入らずに聞きとれるようになっていた。
最初は違和感しかなかったが、もうかなり慣れてきている。
ひとしきり飲み食いしてお腹も満たされたので、宿屋に戻ることにする。
店主に代金を払うと、俺達は酒場を後にした。
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