命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2部 「教会送り」追求編

とんでもない状況に陥る

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 外に出ると目の前の広場で司祭が熱心に演説を始めていた。
魔王討伐後からほぼ毎日行われているというのに人だかりができており、
みんな興味深そうに話を聞いている。

 「18年前、大司教様は「世界が狂い始める」と予言された。そしてその年に新たな魔王が誕生し、我々を恐怖に陥れた。
 だが!2月前!勇気ある冒険者達の協力により魔王は討伐された!
我々は勝ったのだ!」

 「オオオオォッーー!!」
 
 もともと口裏を合わせていたのか、複数の傍聴者から歓声が上がった。
ザルドが肩をすくめながら口を開く。

 「またやってるのか。よく続くな」

 「そうだな。しかもこんな時間に」
 
 大袈裟に腕を振り熱弁している司祭を眺める。
まるで何かに取り憑かれたのように目がギラギラと光っていて、恐怖を覚えた。
 ふと、疑問が思い浮かぶ。 

 「ところで大司教って誰だ?」

 「は?あんた知らないの?司祭達のトップよ。
 昔、魔王を封印した代償でずっと眠らなくてはいけなくなったのよ」

 「そうなのか……」

 (魔王を封印?全然知らねぇ)

 感心して声を漏らすとフローからため息をつかれる。
するとアリーシャが側に来て遠慮がちに口を開いた。
 
 「でも、稀に目を覚ます時があるみたいで。
 寝ていた間の話を聞いたあと、1日を過ごして夜になったら1つだけ予言をして、また眠りにつくそうなんですよ。
しかもその予言は外れたことがないそうです」

 「あ、アンタ、ヒーラーだから」

 「はい。訓練所で何度も聞きました」

 (ヒーラーは教会組織と1番距離が近いからか。
  それにしても魔王を封印したのって何年前なんだ?)

 司祭を横目に考え込む。
 確かデュークさんとテナシテさんが初めて会ったのが50年前と言っていて、
その時にはすでにあの魔王だったので、少なくともその年は上回っていなければおかしい。

 「大司教様って何歳だろう?」
 
 「それはわかりません。
言われてみれば気になりますね。60とかでしょうか」

 「確かに。そもそも魔王を封印したのがいつかって話になるが」

 「そりゃあ、この前討伐された前の魔王じゃないの?魔王にも入れ替わりがあるんでしょ?」

 「うん。滅多にないことらしいけど」

 若干呆れ顔のフローに尋ねられて答える。まだ俺が魔族側にいたことを引きずっているようだ。
 それにしても、スルーしてもいい事柄なのに非常に気になってしまう。

 (なんで年齢なんて気になるんだ?でもソワソワして落ち着かない)

 「俺、ちょっと聞いてみるよ」

 「え?」

 「カルムさん、そこまでしなくても……」

 「そ、そうよ。気になるだけなんだし」 

 俺が魔族側にいたことをよく引き合いには出されるが、悪いと思っていたようでフローも若干焦っている。
でも、ここで止めてはいけない気がした。
皆の声を背中に受けながら司祭の所へ向かう。 

 「演説中のところすみません。
大司教様っておいくつですか?」

 司祭の声が止まり、俺を睨んだ。
周りの人達の視線も痛いほど感じる。

 「む、興味を持っていただけたのは有り難いが、
答えられんな。とても立派なお方なのだから」

 「すみません……」

 (やっぱりそう簡単には教えてくれないか)

 ガックリと肩を落として戻ろうとすると赤い短髪の男の子とすれ違った。
そして彼も俺と同じ事を尋ねたのだ。

 「ぼくもしりたいな~」

 「すまんな、坊や。教えられんのだ」

 司祭は顔をそらしながらハッキリと答える。
しかし明らかに困惑しており、また、男の子の期待に満ち溢れた瞳を直視できないようだ。 

 「え~、どうして~?」

 「立派な御方なのだ。そう簡単には言えないんだよ」

 「おねが~い」

 「……誰にも言うんじゃないぞ……」

 男の子の可愛さに負けたようで司祭は近づくと身を屈めてボソボソと囁いた。 

 「えーー‼200⁉スゴーイ!
どうやったらそんなにいきられるのー?」
 
 「こ、こら!坊や!言うなと――」

 「に、200⁉」

 「聞き間違えじゃないの?いくら大司教様でもそんな……」

 群衆から戸惑いの声が上がり、騒々しくなった。
すると司祭の態度が一変して男の子に掴みかかろうとする。

 「こ、このガキ!余計なことをッ!」

 「うわーん‼このひとこわいよー‼
おにいちゃんたち、たすけてー‼」

 男の子は司祭の手を難なく避けると、俺達に駆け寄ってきたのだった。
司祭が再び睨みつけてくる。

 「おのれ!キサマらグルだったのか‼」

 「ち、違いますよ‼」

 「今、初めて会ったばかりです‼」

 俺とアリーシャの言葉を聞いても司祭は納得していない。
むしろ怒りを増幅させたみたいだ。

 「ク、クソッ!皆、ここに居る者を全員捕まえろ!
1人も逃がすな!」

 その一言で場は騒然となった。
物陰から武装した司祭達がゾロゾロと出てきて周囲の人に襲いかかる。

 (武器!?それに待機してたのか!?)

 「みんな、逃げるぞ!」

 「もちろんだっ!!」

 突然のことに戸惑いながらも悲鳴が上がる広場を後にした。


 全力で走りながら、どうやって町から出るか頭を回転させる。
 背後からは司祭達が武器を振り上げながら追いかけて来ていた。
大司教の年齢はよほど聞かれたくない情報だったらしい。

 「ちょっとアリーシャ!司祭ってこんなに横暴なヤツラなの⁉」  

 「わ、私も初めて知りましたっ!」

 「聖職者って武器振り回していいのか!?」 

 「わかりません~!!」

 2人に問い詰められるように尋ねられて、泣きそうになりながらアリーシャが答えている。

 「あー、泣かせるつもりで言ったんじゃないけど、言い方がキツかったわね。
ごめん、アリーシャ」

 「い、いえちょっとビックリした、だけです。うぅ……」

 「悪かった、アリーシャ。それにしても、鎧脱ぎたい……」

 (酒場で脱いどけばよかったな)

 喉まで出かかっていたが抑えた。ザルドが動くたびにガシャガシャと音がなっていて、司祭たちの目印になっていそうだ。
でも今から外すにも時間がかかるし、外したとしても持って移動しなければならないので、音を消すのは諦めるしかない。

 「で、町の外に出るんでしょ??」

 「ああ――」

 答えながら、直進しようとしていたのを慌てて右に曲がった。
前方から司祭達が迫っていたからだ。

 「思ったより数が多いぞ。逃げ切れるか?」

 「わからない……」

 (外に出る前に捕まるかもな)

 広場が町の入口から奥まった場所にあるのが痛かった。
住居が密集していて路地が多いのは助かるが、まだ門が見えない。

 「う⁉」

 しばらく走り回っていた俺達は足を止めた。行き止まりだったのだ。
後方から司祭達が迫っており、うまいこと誘導されていたようだ。
 諦めて彼等に向き直る。

 「はぁ……手こずらせおって」

 肩で息をしているのはお互い様だが、勝利を確信している彼等はうっすらと笑っている。

 「どうする、カルム⁉」

 「魔法ぶっ放していいならやるわよ!」

 フローが杖を喚び出して構える。すると先頭にいる司祭が鼻で笑った。

 「おっと、我等に危害を加えてもいいのか?ただでさえお前達は反逆者だというのに、
2度と牢屋から出れなくなるぞ?」

 「くっ……卑怯よ!あんた達それでも聖職者なわけ⁉」 

 「フン、そもそも大司教様のご年齢を尋ねなければ、
このようなことにはならなかったのだ!」

 怯んだ隙をついて司祭達が飛びかかってくる。こちらも武器は持っているが、
牢屋から出られなくなるのなら傷つけるわけにもいかない。
諦めて目を瞑った時だった。

 「ぎゃあぁッ⁉」

 飛びかかろうとしていた司祭の1人が悲鳴を上げて倒れた。
前面の左肩から斜めに線がはしっており、そこから血が溢れて地面を濡らしている。
 俺達はもちろん他の司祭達も動きを止めて、わけがわからないまま倒れた司祭を眺めることしかできない。 

 「ヒハハッ、楽しそーなコトしてるじゃんアンタら」

 笑いながら俺達の間に降り立った人物に開いた口が塞がらなかった。
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