命乞いから始まる魔族配下生活

月森かれん

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第2部 「教会送り」追求編

信頼が揺れる

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 「見逃してくれたんだよな……」

 エリクさん達が去った方向を確認しながら呟く。帰ったフリをしてまだ近くにいるのではないのだろうか。
自分でも信じられていなかった。
 緊張から解き放たれたフローが大きく深呼吸をしながら俺に声をかける。

 「アンタが彼等と知り合いなんてね……」

 「知ってるのか、フロー?」

 「知ってるも何も、魔王城に突撃したときに先陣をきったパーティよ!?
参加した冒険者なら全員知ってるわ!!」

 「そうだったのか……。普通のパーティではないなとは思ってたけど」

 魔王城で会った時も、彼等は落ち着いていて全く取り乱さなかった。場慣れしている感じだった。 
関心しているとフローが呆れたようにため息をつく。

 「まさか魔王の配下になっていたことが、こんな所で役に立つなんてね」

 「そ、そうだな……」

 (あんまり話題にしてほしくねぇんだけど)

 苦笑しながら答えるしかなかった。
するとアリーシャが目を泳がせながら口を開く。

 「で、でも、そのおかげで話を聞いてくれて、見逃してもらえましたし。
悪いことではなかったと思います……」

 「それに、少しは時間を稼いでくれるみたいだから、
その間に進んでおこうぜ」

 ザルドが軽快に言って歩き出そうとした、その時だった。

 「ゴタゴタは終わったか~?」

 聞き慣れすぎた声が頭上から響いたのと同時に、俺達の前に黒い影が降り立つ。
その正体は紛れもなくデュークさん。木の上に避難していたみたいだ。
 すかさずフローが問い詰める。

 「アンタ、どこ行ってたのよ!?」

 「そうカリカリすんなってー。ちょっと様子見てただけだぜ。
髄分面白そうな状況だったじゃない?」

 「俺達としてはかなり危なかったんですけど」

 少しムッとしながら答えた俺を見て、デュークさんが笑う。
何か面白かったらしい。

 「それにしても、てっきり下りてきて暴れるかと思ったんだが……」

 ザルドが首を傾げながら言うと、デュークさんは少し口を曲げた。

 「確かに俺は戦い好きだが、さすがに空気読むわー。
まぁ、出ていっておっ始めてもよかったけど」

 デュークさんの言葉を聞きながらその場面を想像する。

 (まず、魔族だって騒いで……俺達もビックリしたフリはしただろう。
でも戦闘に持ち込んだら、たぶんデュークさんは俺達を攻撃しないはずだから……。
それでエリクさん達に怪しまれて、問答無用で連れて行かれてたかもな)

 「空気読んでくれて、ありがとうございました」

 デュークさんにも頭を下げると、いきなり叩かれた。
なんとなく懐かしさを感じながら頭を押さえる。

 「痛ってぇ!?」

 「アンタ、誰でも彼でも簡単に頭下げすぎよ!
もう少し節度ってものを考えたらどうなの!?」

 フローが赤い目を細くして俺を睨んでいた。
さっきから彼女の機嫌を損ねてばかりのような気がする。

 「ヒハハッ!魔法使いちゃんの言うことも最も。
でも、それがモトユウちゃんだろ~?な?」

デュークさんがとりなすように俺とフローの間に割って入った。
フローはまだデュークさんを警戒しているようで、数歩後ずさる。

 「……そもそも何であんたはカルムに引っ付いてるわけ?」

 「あ?……あぁ、だってモトユウちゃんは俺のお気に入りだから。な?」

 確認するように見つめられて固まった。肯定も否定もできない。
 俺の答えを待っているのか、フローもデュークさんも喋らなかった。

 (でもこれ、答えるしかねぇよな……。
フローかデュークさんどちらかの機嫌が悪くなる)

 しかし、俺は答えを言わなくてよくなった。
 なんとアリーシャが口を挟んできたのだ。

 「意見が一緒なのはあまり嬉しくはありませんが、カルムさんらしいのは賛成です。
「頭下げすぎ」を取ったら何が残るでしょうか……」

 「アリーシャ、それ褒めてるの?貶してるの?」

 「ほ、褒めてます」

 思うことはあったが、口に出さないことにした。
時々アリーシャは毒舌になるが、自覚はないみたいたからだ。

 「とりあえず歩かないか?せっかく見逃してもらえたんだからよ」

 ザルドの一声で少し雰囲気は悪いまま、歩き出した。
 誰も一言も発さないまま淡々と西に向かう。

 俺はデュークさんについて考えていた。少し引っかかることがあるからだ。

 (デュークさんがついてきた理由……「興味があるから」だったよな。
事実なんだろうけど、まだ他にもありそうな気がする)

 視界に映っては消えていく木々を眺めながら、頭を回転させる。

 (魔王は生きてるのに。いや、そもそも何でデュークさんは1人なんだ?) 

 他の幹部、へネラルさんやアパリシアさんも生きているのは確定だ。
合流でも狙っているのだろうか。

 「みんな、ちょっと止まってくれ」

 3人とも不思議そうな顔で足を止める。

 「何よ?忘れ物?」

 「いや、結局デュークさんが何で俺達についてきてるのか、聞いてなかったなって思ってさ」

 「確かにそうですが、今ですか?」

 「でもなぁ、後で裏切られても困るぞ」

 ザルトの一言が決定打になったのか、フローとアリーシャは立ち止まることに納得した。
 さっそくデュークさんを呼ぶ。

 「な~に~?雑用?」

 「いいえ。そろそろ、俺達についてきた理由を教えてくれませんか?」

 「……言ってなかったか?」

 「詳細は後で話すって言ったじゃない!それから聞いてないのよ!」

 フローの勢いにデュークさんは少しだけ口を曲げると、真顔になった。
その瞬間、空気が張り詰め、俺達は無意識に体を強張らせる。

 「あぁ、そういやそうだったな。相変わらず勘鋭いじゃん、モトユウちゃん?」

 「……教えてくれるんですよね?」

 「いいぜ。別に大した理由じゃねぇし。2つあってよ。
 1つ目は「アンタ達に興味があるから」。そして、2つ目は「俺が1人ぼっち」だからだ」
 
 「は?」

 「へ?」

 予想外の理由に、俺達は開いた口が塞がらない。
 しかし前にも似たようなことがあったおかげで、いち早く立ち直ったフローが問いただす。

 「ち、ちょっと待ちなさい!
1人ぼっちって何よ!魔王は生きてるんでしょ!?」

 「ああ。でも場所まではわからねぇ。当然、他のヤツラもな」

 「だ、だからってそんな理由で……」

 「そう。そんな理由」

 遮られた上に真顔で返されて、アリーシャは小さく悲鳴を上げた。

 「俺、意外と寂しがりなんだぜ?」
 
 肩をすくめながらも、淡々と語るデュークさんに何も言えなくなる。

 「えっと、じゃあ、誰か仲間が見つかったら抜けるんですよね?」

 「ああ。それにずっと俺がくっついてるわけにもいかないんだろ?」

 そう言って、デュークさんがフローとアリーシャに目を向ける。
2人は気まずいのか、すぐに顔を逸らした。
 すると、ザルドが声を上げる。

 「もし、最初に見つかったのが魔王だとしよう。
そしたらお前はどうするんだ?」

 「そりゃあ、じゃ、俺ここまで、って抜けるわ。……何が言いたい?」

 「その後、魔王から俺達を倒せと命令が出たら……」

 「従うぜ?だってマーさんだからな」

 間髪入れずに答えるデュークさんに、俺も含めて全員で震え上がる。
ところが、デュークさんはこの状況を楽しんでいるように口角を上げると、話を続けた。

 「でも、マーさんはそんな命令出さないだろうよ。なぁ?」

 再びデュークさんが俺を見つめてくる。
黄色の目がさっきより輝いているように思えた。

 「って、何で俺なんですか!?」

 「モトユウちゃんしかいないだろ。マーさんはモトユウちゃんに会って、さらに緩くなったんだからさ」

 「まるで、俺が頼めば見逃してもらえるような言い方やめてくださいよ」

 「いや、実際見逃すと思うぜ?モトユウちゃんもマーさんの態度は知ってるだろ?」

 思わず頷いてしまった。
 魔王は表向きは人間に興味があるから俺の命乞いを受け入れた。
しかし実際は俺の様子が可愛かったらしい。さらに何かと気遣ってくれたという特典つきだ。
 よほどの理由でもない限り、俺達を倒せ、とは言わないはずだ。

 やり取りを見ていたフローが怪訝そうに眉をひそめて言った。

 「カルム……あんた、前世魔族だったんじゃない?」

 「何でそうなるんだよ!?」

 「魔王に一目置かれるって、なかなかできることじゃないだろ?」

 ザルドにまで言われて、一瞬怯んだ。でもここで負けるわけにはいかない。

 「違うと思う!
  と、とにかく、デュークさんは仲間と合流するのが狙いで、
見つかった瞬間俺達に斬りかかるとかないんですよね?」

 「あ、それはないわー。俺、突拍子な作戦苦手だから」

 デュークさんの言葉を聞いた俺は、一気に顔から血の気が引いた。

 (嘘だ……)

 「それはない」は本当だったとしても、「突拍子な作戦が苦手」なのはあり得ない。
 オーク討伐の時も、ゴーレム戦の時も、どちらも突拍子な作戦だったからだ。

 (でも、こんな時に嘘?まさか、ここに来て一気に信頼が下がるなんて……)

 「嘘……ですよね……?」

 俺の声は音にならなかった。喉が軽くなっただけだ。

 (お、俺の気のせいだよな?でも、できる限り早く聞かなきゃ……) 

 恐怖とプレッシャーで手が震えてきた。
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