無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

文字の大きさ
3 / 63
一章 八歳で抱いた夢

(2)近所のお兄ちゃんの帰省

しおりを挟む


 ついに、ナイローグが帰省した。

 村に戻ってくるのは三ヶ月ぶりで、戻ってきたその日にすぐに我が家にも挨拶に来てくれたようだ。丘の上にいた私は、やってくる背が高い黒髪の人……ナイローグを見つけると、すぐに駆け下りた。そして、そのままの勢いで居間に入った。
 ナイローグはそんな私を見て、大袈裟に眉を動かして笑った。

「なんだ、シヴィル。少しは大人しくなったかと思ったら、相変わらずの姿だな!」

 旅装を解いてこざっぱりした姿のナイローグは、笑い混じりに話しかけてくる。
 これはいつも通りの再会の言葉だ。年の離れた幼馴染のお兄ちゃんは、いつもこんな風にからかってくる。
 そのくせ、私の頭を撫でる手は優しい。手の心地よさに緩みそうになる顔を引き締め、私は頬を膨らませて何か言い返そうとした。

 ……でもその時、私は強い視線を感じて振り返った。
 つられてナイローグもそちらに目をやり、そこに立っていた母さんの表情に、はっとしたようだった。

 どうやら、これは……いわゆる薮蛇だったらしい。
 ナイローグもそう悟ったのだろう。年齢より落ち着いた大人の表情を、昔見慣れていた悪ガキの表情に変えて、ゆっくりと目をそらした。

「……なあ、これは……失敗した、かな」
「あー……ちょっとそうかも……」
「すまない、シヴィル」
「…………うん…………」

 私も母さんから目をそらして、こっそりとナイローグの後ろに隠れようとした。
 でもその前に、母さんの細くて白くてきれいな手が私の肩を押さえていた。
 ……い、いつの間に……?!

「シヴィル。私が何を言いたいか、おわかりかしら?」

 ……あ、はい。もちろんおわかりです。
 母さんの言いたいこと、考えていることがわからないはずがない。
 正直に言えばわかりたくないけれど、私と同じ色の黄緑色の目が金色に見えるほど冷ややかなのを見ればわかってしまう。
 静かに深く怒っている。何についてかと言えば、間違いなく私の格好についてだろう。


 こっそりとため息をついた私は、素直に母さんの長い長い説教を受けた。
 母さんが言いたかったのは、外遊びのままの服装についてだ。
 外遊びのための服、それはもちろんヘイン兄さんからのお下がりで、いわゆる男装と言うことになる。

 私はスカートも嫌いではないよ?
 でも周囲の反応がなんか気になってきたから、外では男装に徹している。……もちろん動きやすいから、という理由が大きいんだけど、残念ながら母さんは服装にとてもうるさい人だった。
 それは以前から知っているし、そう言う身なりに厳しいところが母さんらしいと思う。
 八歳といえば、早い子では将来を見据えた修行を始める年齢なのもわかっている。あのに、ただ動きやすいから、周囲の視線が面倒でないからと言う理由で兄さんのお下がりを着ている私は、ちょっと目に余るのだろうなとは思う。
 説教したくなる気持ちも、一応はわからないでもないのだ。

 でも、説教が長い。
 しつこい。
 それに何と言っても長すぎる。
 ……いつものこととはいえ、母さんのお言葉を聞きながら、私は思わず目が遠くなっていた。

 ナイローグが帰ってきたのを見て、大急ぎで戻ってきて、着替えをする前に居間に飛び込んできてしまっただけなのに。
 いつも口うるさく言われているのに後回しにしてしまったのは、かなりうっかりしていたと一応は反省している。
 でも、子供らしく浮かれていただけじゃないか。
 ひどいよ、母さん……。


 そんな私に同情してくれたのだろう。
 優しいナイローグは、母さんの説教にさりげなく割って入ってくれた。

「エイヴィーおばさん。ヘインからの手紙によると、家の中ではいつもスカート姿でいるようになったそうですね」
「そうなのよ。最近はようやく、女の子らしい格好もしてくれるようになってくれたわ。でもね、この子ったら服だけは女の子なのに、あとは男の子そのものなのよ」
「……えっと、まあ、シヴィルは元気な子ですね」
「元気すぎます。今も、見てごらんなさい。あの姿。もう八歳になったのに、とても女の子には見えないわ。お肌もあんなに日焼けしてしまって。毎日あれだけ走り回って、傷跡が残っていないことだけが救いです。この間も、牧場を手伝ってくれたのはいいのだけど、崖から落ちそうになって……」

 ナイローグは、母さんの説教から私を救ってくれた。
 ……彼自身が犠牲となって。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

もしかして私ってヒロイン?ざまぁなんてごめんです

もきち
ファンタジー
私は男に肩を抱かれ、真横で婚約破棄を言い渡す瞬間に立ち会っている。 この位置って…もしかして私ってヒロインの位置じゃない?え、やだやだ。だってこの場合のヒロインって最終的にはざまぁされるんでしょうぉぉぉぉぉ 知らない間にヒロインになっていたアリアナ・カビラ しがない男爵の末娘だったアリアナがなぜ?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

魔法使いとして頑張りますわ!

まるねこ
恋愛
母が亡くなってすぐに伯爵家へと来た愛人とその娘。 そこからは家族ごっこの毎日。 私が継ぐはずだった伯爵家。 花畑の住人の義妹が私の婚約者と仲良くなってしまったし、もういいよね? これからは母方の方で養女となり、魔法使いとなるよう頑張っていきますわ。 2025年に改編しました。 いつも通り、ふんわり設定です。 ブックマークに入れて頂けると私のテンションが成層圏を超えて月まで行ける気がします。m(._.)m Copyright©︎2020-まるねこ

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処理中です...