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三章 十二歳で知った新事実
(13)すごい拾い物
しおりを挟むこれは非常にまずい。
川に落ちたとか、崖から落ちたとか、そう言うのにはそれなりに対応できるけれど、私一人ではあの悪人集団を追い払うなんて無理だ。魔法だってまだ自在に操れない。
大人を呼んでくる時間はあるだろうか。
父さんは? 五つ向こうの村に出掛けていて、遠すぎて無理だ。
隣村の手伝いに行ったヘイン兄さんなら、出かけてかなり経つからそろそろ戻ってくるかもしれない。家に戻った兄さんは、母さんから話を聞けばすぐにこちらに向かってくれるはずだ。
魔法の目印は誰にでもわかるようにできている。もしかしたら、水車小屋のガジルおじさんが、もう誰かを呼んできているかもしれない。
もう少し足止めができれば……。
「おい、出発するぞ。そのガキどもは袋に詰めこんでおけ」
悪人の頭らしい男の声がした。男たちは必死で抵抗する子供を押さえて大きな袋に押し込もうとする。
このままでは危ない。
そう判断して、私は素早く外套を脱いで魔法の印をつけた影に置く。そして服の内側に入れ込んでいた髪を引っ張り出して、手早く紐をほどいた。
色味のない銀髪が波打ちながら背中に広がる。それをさらに目立つように肩の上に広げ、スカートの裾に泥を塗りつける。そして思い切って繁みから飛び出した。
「きゃ、きゃあー」
たぶん生まれて初めて、女の子らしい悲鳴をあげた。
おとなしい女の子が森で迷ってしまって、疲れ切ったところに偶然に悪そうな人たちに鉢あっちゃいました、な感じを出したつもりだ。
……うまくできたかな。
かなり棒読み調の悲鳴になってしまったけれど、緊張しているから、顔の強張りなんかはうまくいったはずだ。
足がもつれて転んだふりをして、地面に座り込んで周囲を見回す。
狙い通り、人相の悪い男たちが全員私を見ていた。
……でもちょっと、見過ぎているよね。そこまで目を剥くように私を見なくてもいいと思うよ?
ほら、あんまり私に気を取られているから、さらって行こうとしていた子供たちが逃げて行っちゃいましたよ。
よしよし、狙い通り。
私の意図をすぐに察してくれたようだ。さすが未来のガキ大将。ヒバリの偽傷を真似した囮作戦、大成功だ!
内心ではほっとしつつ、私は怯えた顔を保っていた。
「……これはすごい拾い物だな」
悪人たちの頭らしい男はふうっと息を吐いた。
それからようやく、子供たちが逃げ去ったことに気づいたようだけれど、わずかに顔をしかめただけで機嫌はむしろいいように見えた。
「こんな上玉、初めてだな。おい、しっかり縛っておけ」
私はその瞬間に逃げようと思った。でも逃がした子供たちがまだ遠くまで行けていないことに気づいて、ためらってしまった。その間に両手を縛られてしまった。
でも私は、実は深刻には考えていない。本当に危なくなったら、こんな紐くらいなら瞬時に解けるから慌てなかった。縄抜けは得意だし、魔法で結び目を緩めることだってできる。
そういう小さくて実用的な魔法は、そこそこ得意なんだ。
それより、こういうときは下手に刺激した方が危ないはずだ。
確か、へイン兄さんがそう言っていた。
だから、私は怯えた顔のまま、おとなしく馬に乗せられた。
馬の背で揺られながらしばらく一人で考えていたけど、一つの結論が出た。
この悪人たちは、私の村のことは何も知らないらしい。
少しでも知っていたら豪腕すぎる農夫の父さんがいるこの村には普通は近づかない。父さんが留守なことを知っていたとしても、いくら手を縛っていても私を馬なんて乗せない。
ヘイン兄さんもそうだけれど、私は裸馬でも気にしない野生児なのだ。これなら逃げ出すことも難しくないかもしれない。
「おい、おまえ幾つだ?」
「え? じゅ、じゅ、じゅ……」
心の中でニンマリしていた時に突然きかれてしまったから、私は慌ててしまった。
正直に答えるのもどうかと思う。
多少嘘をつくとして、まずは怯えて声がでないフリを……。
「なるほど、十歳か」
「十二歳です!」
冷静に計算していたはずなのに、思わずムキになって訂正してしまった。
……私は馬鹿かもしれない。
敵を油断させるのは基本中の基本なのに。
頭を抱えたかったけれど、手が縛られていてできなかった。
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