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三章 十二歳で知った新事実
(14)目を閉じていろ
しおりを挟む幸いなことに、男たちは私のおかしな反応は気にしていないようだ。
ひたすら私の髪とか横顔を見ている。
「こんな田舎に、これほど上質の銀髪がいたとはぬかったな。この辺りは平凡な黒髪ばかりと思ってたが、様子を見に村まで行ってみるか?」
「こんな銀髪があと三人もいれば、俺たち全員が遊んで暮らせるぞ」
男たちがそんなことを話し始めたから、私は慌てた。
「わ、私だけが銀髪なんです! 家族とも髪の色が全然違って、もしかしたら捨て子だったのかなって思っているくらいで!」
「なるほどな、そりゃそうか。こんな田舎にいるほうがおかしいよな」
私のでまかせの嘘を、男たちはあっさり信じて納得してしまった。
……このおじさんたち、悪人として大丈夫なの?
思わず心配してしまった時、木の上から鳴き声が聞こえた。
カラスだ。
目印のように飛んでいた、あのカラスだ。
見上げるとカラスが私の真上をぐるりと回っていた。目があったような気がしたら、あっさり何処かへ飛んでいく。
……えっ、飛んでいってしまうの? 目印だったのに!?
私が魔法でつけている目印は捕まる前までだ。今はその場所からどんどん離れて行っている。最後の目印になるはずのカラスが飛んで行ってしまったら、へイン兄さんが私の場所をわからなくなってしまう。
今から、魔法で目印をつけていく?
でもそんな事をここでやったら、さすがに私が魔法を使う事がばれてしまう。せっかく油断してくれているのに、警戒させてしまったらどうしようもない!
だめだよ、カラスさん、行かないでっ!
そんな心の中の祈りは通じなかったらしい。カラスは悠然と飛び去ってしまった。
呆然と見送っていると、周囲の悪人たちが動きを止めた。馬も止まる。カラスに気を取られていた私は、一瞬落ちそうになった。とっさに踏みとどまったけれど、よく考えたら落ちた方が逃げやすかった気がする。
あああ、また、馬鹿なことをしてしまった!
再び自己嫌悪に陥りそうになったけれど、状況はそれを許してくれなかった。
「そこのやつ、止まれ!」
先頭にいた男が怒鳴った。
何事かと目を上げると、木々の向こうから誰かが歩いてくるのが見えた。
とても背の高い男だ。大股で歩きながら外套を脱ぎ、木の根元へ放り投げる。腰に剣を帯びているのがわかった。
雨はまだ降り続いていた。
生い茂った木の枝の隙間から、水はぼたぼたと落ちてくる。その雫で黒い髪がどんどん濡れていくけど、その男は全く気にした様子はない。ただゆったりと歩き続け、殺気立つ悪人たちを平然と見返していた。
その目がふと動く。私を見つけたようだ。
すっと目が細くなり、私は反射的に身を縮めてしまった。
「シヴィル。村から出るなと、へインに言われなかったのか?」
「ナ、ナイローグ……」
へイン兄さんが来てくれる事を祈っていたら、ナイローグが来てくれた。
そうだ、ナイローグは近くまで来ているって母さんが言っていたんだった!
ほっとしたいのに、私を見るナイローグの目は全く笑っていなかった。
……これは、かなり怖い。本気で怒っている気がする。
確かに村から出るなとは言われたよ?
でも今回は緊急事態と言うか、悪ガキ仲間を探していただけと言うか、結果的に村の外に出てしまっただけで、今だって好きで村から離れているわけでは……!
心の中で必死で言い訳していると、ナイローグはわずかに笑った。
「後でゆっくり話をしよう。とりあえず……目を閉じていろ」
「え?」
「目を閉じて、いいと言うまでそのままにしていろ。勝手に目を開けるなよ」
いきなり命令口調で言われて、私は「はい、わかりました」と素直に言う性分ではない。
でも今は、素直に目をつぶった。
だって怖い。少し笑ってくれたけれど、やっぱり怖い。普段は優しい分、こう言う時のナイローグには逆らってはいけないのだ!
ぎゅっと目をつぶった私の耳に、剣を抜く音が聞こえた。
……実は私は、ナイローグが真剣を抜いた姿を見たことがない。
へイン兄さんと木剣で打ち合ったりするのは見たことがある。それはもう凄かった。目が追いつかなかったというか、かするだけて肌が切れそうというか。
だから好奇心がむくむくと湧き上がったけれど、さっきのナイローグの怖い目を思い出して、なんとか踏みとどまった。
でもその分、耳がよく聞こえてしまう。
悪人たちの罵声が悲鳴に変わっていく。地面に叩きつけられる音とか、剣が折れる音とか、他にもいろいろとんでもない音が聞こえる気がする。
音だけだからこそ、怖さが倍増だ。耳を塞げたらいいのだろうけれど、手は縛られたままだった。
だから途中から、私は目を閉じたまま声に出して数を数えることをした。
「1、2、3、4……」
「こいつ強いぞ! 油断するな、一斉にかかれ!」
「……18、19、20、21……」
「ぐはっ!」
「まずいっ! に、逃げろ!」
「……83、84、85……」
「ま、待ってくれ! 降参だ! 降参するから助けてくれっ!」
「うわぁぁっ!」
「……225、226、227……」
「もういいぞ、シヴィル」
できるだけ無心で数えていたら、思ったよりすぐそばで声がした。
そっと目を開けると、ナイローグは私が乗せられている馬の手綱を持っていた。
そろりと目を動かすが、腰の鞘は空だ。まだ剣を持っているのかと思ったけれど、ナイローグは私の手をしばる紐を解いてくれている。ではどこに置いているのかと見回すと、すぐ近くの地面にぐっさりと刺さっているのが見えた。
もちろん悪人たちは皆意識を失って、地面に倒れていた。
血の臭いはほとんどしないし、地面の色も変わっていないから……まあ、平穏に終わったらしい。
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