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四章 十三歳の旅立ち
(16)許しません
しおりを挟む十三歳になった私は、思い切って村を出た。
農業が生活の中心である村の子供たちは、基本的に自分の村を出て行くことはない。いろいろ遊びつつも家業を手伝う大切な働き手に育っていくのだ。
でも兄弟が多い家などでは、成人すれば大きな街に出稼ぎに行くことはある。十二とか十三とかで、職人の見習いなどとして働きに出ることもある。村を出る年齢としては早い方ではあるけれど、珍しくはない。
ただ、私の場合はそういうのとはちょっと違う。
ちょっと恥ずかしいけど……いわゆる「家出」だった。
原因は、魔王だ。
どこかに実在する邪悪なる魔王さま個人ではない。かつて世界中を震撼させた「魔族」と呼ばれる異界の種族のことでもない。
どちらかと言えば、最近主流となった「極悪人集団の親分」という意味の魔王、つまり私が夢見ている存在が家出の原因となった。
幼い頃の思いつきとはいえ、私は少しでも早く魔力を磨いて魔王を目指したかった。魔王と呼ばれるような存在になって、ヘイン兄さんやナイローグたちを超えたいと思っている。
……いや、もっと正直に言ってしまおう。
私は、あの二人をかしずかせて気分を良くしたいんだっ!
私が魔王になる夢を語ると、兄さんには「方向を間違えているよ」と呆れられているけれど、そこは気にしないようにしている。だって相手は兄さんだし。
でも、ナイローグが本気でびっくりした顔をしたら……そう思い描くとわくわくする。
やっぱり魔王を目指さないとね!
そのためには、まずは正統派魔法を学ばなければいけないと思っている。
別に自惚れているわけではないけれど、私は今まで我流の魔法で不便さを感じた事はない。
でも、きちんと系統だって習得したであろう母さんの魔法はとてもきれいだった。私の魔法とは全然違った。あれだけ違えば、私だって真剣に将来について考える。
私の魔法も、もっとすっきりできるんじゃないかと思うようになったんだ。
魔法は、生まれ持った魔力の大きさだけでは決まらない。
魔力というものは、そのままでは暴風のようなものだ。それをどれだけ制御するかが魔法であり、その過程をどれだけ洗練された術にするかで魔法使いとしての価値は変わってくるんだと思う。
そのことを、私は一年前の人さらい未遂事件の時に知った。
私は生まれた時から魔力を手足のように使っていた。いや、手足を自在に動かせる前から使っていたらしいから、魔力を扱うことは、呼吸をするようなものだ。
でも母さんの魔法を見た後、私は気づいた。
ヘイン兄さんが両手で二本の鉈を握って薪の山を作るように、あるいは矢の連射や同時複数射を軽々とやってしまうように、鍛錬すれば手足以上に熟練して行くんじゃないかなって。
だから、正攻法こそ夢に近付くための近道だ!
……と思い至ったんだけど。
魔王になる!と言った時には反対らしい反対はしなかったのに、勇気を振り絞って「魔法を習いに行きたい」と言ったら、母さんは首を横に振った。
父さんに村を出ないでくれと懇願されるのは予想していても、母さんが反対するなんて考えていなかったから、私はとても驚いた。
「えっ……今、ダメって言ったの?」
「外に出ることには反対です。十五歳になるまで村を出ることは許しません」
「なんでだよ!」
「理由は十五歳になるまで話せません」
「そんな、ひどいよ!」
「……あのね、シヴィル。いい子だから落ち着きなさい。一応、きちんとした理由があるんだよ」
「理由って何だよ! ヘイン兄さんが知っているんなら教えてよ!」
「いや、それはちょっと……」
母さんと私の間に割って入ったヘイン兄さんは、言葉を濁しながら視線を彷徨わせる。
それでいて、肝心な理由は教えてくれる気もないらしい。
なんだよ、兄さんの役立たず!
……と叫びたい気持ちをぐっと抑え、私は落ち着くためにふうっと息を吐いた。
理由を何も教えてくれないまま、頭からだめだと拒絶するなんて横暴だと思う。でも母さんがダメと言ったら絶対にダメなんだよね……。
それに、きれいな顔に合わず兄さんも頑固だから、その理由とやらも絶対に教えてくれないだろう。
「……わかったよ。そこまで言うのなら、村の外に習いに行くことは諦める。でも諦める気もないよ。母さんが教えてよ!」
「なるほど、それならいいな!」
私が少し折れて母さんにお願いすると、父さんが急に元気になって身を乗り出してきた。
でも母さんは年齢不詳の美貌にふっと笑みを浮かべて、また首を横に振った。
「残念ね。私には無理です」
「え、そ、そんな、エイヴィー……!」
「トゥアム。私の魔法は本当に初歩的なものだけなのよ。シヴィルに、大きな魔力を操るような技術を教えることはできません」
「じゃあやっぱり、村の外で……!」
「だめです。十五歳になるまで村から遠く離れることは許しません」
珍しく父さんが一生懸命に取りなそうとしてくれたけれど、母さんは微塵も揺らいでくれなかった。
でも私も今回は頑張った。私は訴え続け、最後は声が枯れてしまうまで頼んだけど、全て拒絶され無駄だった。
なんでだよ……!
がっくりと落ち込んでいると、兄さんに肩を叩かれて慰められてしまった。
……なんて理不尽な。
ヘイン兄さんが早いうちに弓矢を習ったのは何も言わなかったのに、私だけ許してくれないなんて、ひどいと思う!
痛む喉に耐えながら兄さんと父さんを恨めしげに見上げると、二人とも同情の顔をしつつも揃って首を振った。
「……力不足ですまない。かわいいシヴィル。誰もエイヴィーには逆らえないんだ……」
「うん、あきらめた方がいいね。それに、ナイローグにもおまえを野放しにするなと釘を刺されているんだよ」
「そんなぁ!」
「母さんも、十五歳になったら村を出てもいいと言っていただろう? 都の魔道学院を紹介してあげるから、あと二年待つんだ」
「ヘイン兄さんは母さんを信用しすぎているよ。あの母さんが、二年後にすんなり行かせてくれると思う?」
「……うん、たぶん、大人の女性がどうのこうのって言って、結局揉めるだろうね」
ヘイン兄さんはさらさらの金髪をかき乱しながら苦笑した。
父さんは完全に視線をそらし、巨体を縮めるようにしてこっそりと去って行く。その広い背中を見送り、私はため息をついた。
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