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五章 十四歳の再会
(27)メリアンさんは美人で優しい
しおりを挟む魔獣飼育場での仕事は、実に実入りのいい仕事だった。
住み込みだった最初の半年間、朝早くから掃除をし、ご飯を山盛り食べさせてもらい、毛並みを大切にする魔獣には櫛をいれ、大きな図体のわりに少食な魔獣に草をやり、相変わらず腹を見せてくる魔獣をホウキで突いて喜ばせながら結界の作りを観察し、とにかく忙しい日々を送った。
その間、最大の大都市である王都のすぐそばにいるのに、外壁の中に入ったのは都に到着した日だけだった。普段は外壁を遠くに眺めるだけだ。
でも、それを不満に思うことはなかった。
最初は怯えきっていた魔獣たちはだんだん馴染んでくれて、恐ろしげな巨体でじゃれついて来る以外は、基本的にとてもおとなしい。
食事は食べ放題。食堂のおばさんが作ってくれる食事はバランスも量も最高だ。少しばかり肉系が多いのは、飼育所長のスラグさんの好みだと思う。メリアンさん以外はマッチョな牧童さんばかりだし。
もちろん、作業服はこまめに洗濯できるように何着も支給してもらえた。いつも何かの作業をすることになるから、朝起きてから夜寝るまで、午前と午後とに何度も着替えながら一日中を作業服で過ごす。寝間着と、たまの休み用の服以外はほとんど何もいらない生活って楽でいい。
そんな生活をしているから、どんどんお金が貯まって行く。
こんな素晴らしい職場はめったにないだろう。
さらに、体力に余裕が出てきたころから、夕方以降は結界魔法を教えてもらい始めた。先生はメリアンさんだ。
背が高い迫力系美女だから、怖い人かと思っていたけれど意外なほど私には親切だ。系統だった魔法なんて初めて習うから、私はきっと出来の悪い生徒だ。なのにメリアンさんは、根気強く優しく繰り返して教えてくれた。
これが母さんなら、絶対こうはいかない。
一回目でできなければ、そのまま終了していただろう。
その上、縫い物の練習のついでだと言って、普段用の服まで作ってくれた。私は縫い物はあまり得意ではない。だから練習を始めたばかりだと言うメリアンさんが、どれだけ苦労して作っているかはよくわかる。指先に針を刺した跡と思しき包帯を見てしまうと、さらに大感激だ。
美人でかっこよくて、働き者で人使いも上手くて、それでいて優しくて親切で。メリアンさんは、本当にとてもすてきな女性だ。
なのに、まだ独身らしい。スラグさんは何かにつけてそのことで娘をからかう。今日も通りがかりに「そろそろ結婚して俺を安心させろ」と言い捨てて去っていった。
スラグさんは、私とメリアンさんが二人で話している時に結婚について言うことが多いと思う。フォローに気を使うから、できれば控えて欲しいものだ。怒りに眉を動かすメリアンさんをこっそり盗み見て、私はため息をついた。
「えっと、そのー……」
「……もう、お父さんったら……ターグくんが困ってしまうわよね。ごめんなさい。うちの愚父のことは気にしないで!」
「いや、その……でも僕は田舎育ちなんで、メリアンさんみたいな美人で素敵な女性は早く結婚するものだと思っていました」
つい正直に言うと、メリアンさんは暗い顔になり、虚ろな目で遠くを見てしまった。
「結婚する気はあるわ。でも……相手がいなかったのよ」
「えっ、いやすみません! 都会ではそんなに結婚は急がないのが普通みたいだし、メリアンさんみたいな素敵な女性は、最高の相手と出会うまで待っても全然問題ないですよ!」
「……そうかしら。行き遅れって嫌がられない?」
「大丈夫です! だってメリアンさんは美人で優しいですから! あ、そうだ。メリアンさんってどんな人が好きなんですか?」
「えっ? その……可愛らしい男性、かしら」
「へ、へぇ! 可愛い系が好きなんですか! 牧童さんたちみたいなマッチョ系はダメなんですね」
「筋肉はいらないわ! 力仕事は牧童に任せればいいのよ! それに私が大きいから、身長が低めでも、こ、子供はきっと大きくなると思うから気にしていないわ!」
メリアンさんは真っ赤になって一生懸命に言い募る。こういうメリアンさんって本当に可愛いと思う。でも普段はキリッとしたデキる女な姿ばかりだから、この魅力的な姿はほとんど知られていないのはもったいない。
でも、ちょっと意外だった。
スラグさんが大男だし、周囲もマッチョな牧童ばかりだから、やっぱり筋骨たくましい大男がいいのかと思っていたら、どうやら小柄で可愛らしい男性が好みらしい。
確かにこの職場では、そういう男性は見当たらない。出会いがなければ結婚は難しいだろうから、もっといろいろな場所に行くべき、かもしれない。
こういう話を聞くと、私の周辺にそういう可愛らしい男性というものが存在しないのは残念だ。
ナイローグの下の弟がメリアンさんの理想に近かったけれど、私が村を出るころからどんどん縦方向に成長していた。私より三歳上だから、今ではナイローグのように大男になっているだろう。
いろいろよくしてもらっているのに、お返しができなくて申し訳ない。
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