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五章 十四歳の再会
(30)久しぶり
しおりを挟む「あの、久しぶり……だね」
「まったく久しぶりだな。一年ぶりくらいか? 元気そうではあるが……シヴィルはどうしてここにいるんだ?」
「も、もちろん魔道学院の生徒だからだよ!」
「生徒か。なるほど。それでは、どうしてご両親は何も知らなかったんだろうな。俺は先月帰省しているが、そういう話は一言も聞いていないぞ」
「そ、それは……」
私は口ごもった。
先月も村に戻ったという男に、どんな言い訳も通じないだろう。うつむいて本を両手で抱きしめる。
その様子をしばらく見ていたナイローグは、ため息をついて手を伸ばしてきた。
私の首に掛かっている身分証明書の紐が引っ張られ、本と体の間に挟まれていた金属板がするりと現れる。手に取ったナイローグは、そこに書かれている名前をじっくりと見つめた。
「今のお前は、ターグか。へインの荒馬と同じ名前じゃないか。どういうセンスなんだ。……さて、言い訳があるのなら聞いてやろう」
「……魔法を正式に学びたかったんだよ」
「それはわかっている。どうしてご両親に何も知らせていないのかを知りたい」
「だって、数年待てって言われるだけだから!」
「二年待てば、ここに堂々と入れるとは思わなかったのか?」
「そんなに待てないよ! おとなしく待ったとしても、その時に母さんが許してくれるとは限らないし! でもこの本が手に入ったから、もうここには用はないんだよ」
「……用はない?」
ナイローグは首をかしげた。その声の調子に少し元気になり、私は顔をあげて胸を張った。
「細かい知識はこの本だけで十分だよ。他はもう全部盗み取った」
「盗み取ったって、お前……」
盗み見て修得したと言いたかったのを、ちょっと言い間違えた。でも盗み取ったで正しい気もする。正規の手段ではないし。うん。
ありがたいことにナイローグは正しく理解して、細かい事には目をつぶってくれるようだ。呆れ顔をしつつも褒めるように笑ってくれたから、私もにやりと笑った。
でもナイローグはポンと私の頭に触れた後に、なぜか額に手をあててため息をついた。
「まあいい。とにかくお前は、一回村に戻れ。ご両親に顔を見せてこい」
「いやだ。まだ戻らない、というか戻れない」
「……どうしてだ?」
「だって、私はまだ魔王になっていないよ! 志半ばで親元に戻っている場合じゃないんだよ!」
「まだ魔王になるなんて言っているのか。手段はともかく、魔道学院で得られるものはすべて修得したと言えば、ご両親は喜ぶぞ。……と言うか、本当に男装なんだな。おばさんの予想通りじゃないか。安全と言えば安全だが」
長い髪を一つに束ねて服の内側に入れ込んでいる頭を見下ろし、ナイローグは偽装身分証から手を離した。
「だいたい、この身分証は何だ? その顔で十七歳だと? お前の兄貴だってそんな力技はしないぞ。……とにかく、その本を持って帰っていいから、早くここを離れて村に戻るんだ。親父さんは俺が村に戻るたびに泣いているんだぞ」
父さんが、泣いている?
それは絶対、泣くだけではすまないと思う。特にナイローグとかヘイン兄さんが相手だったら。
私がそろっと見上げると、ナイローグは苦笑していた。
「もしかして、父さんに締め上げられたの?」
「……ああ、そうだよ。この間の親父さんはな、お前に会いたいと言いながらいきなり絞めてきたんだ。まさか本気で絞めるとは思わなかったから、ヘインがいなかったら失神していたぞ。大概のことは平気だが、帰省するたびに命の危機を感じるのはさすがにたまらない。だから、頼むからご両親に顔を見せてくれ。一人で戻るのが怖かったら、俺が一緒に行ってやるから」
「……だったら、魔王になる夢を認めてくれる?」
「認める訳がないだろう」
「それならいやだよ。私は絶対に魔王になるんだ。それまで村には戻らない!」
「だめだ、戻れ。……これはまだ内部情報だが、そろそろ危険なんだ。怪しい偽造身分証が出回っていると話題が出始めている。これ以上は長居をするな。わかったな?」
周囲をさっと見回したナイローグは、急に真顔になって声をひそめた。高いところにある顔は、冗談を言っているようには見えない。
どこからの内部情報なのか興味はある。でもこう言うのは聞かない方がいいような気がする。深入りは禁物だ。
でも偽造身分証明書のことは、本当に今まで放置していたらしい。
この半年間、とても平和だったのは泳がされていた時期だったとか? もし私の顔も覚えられていたら……うん、かなりマズイな。都ではしばらく仕事なんてできないぞ。
「……わかった。とりあえずここは離れるよ」
「村に戻るな?」
「…………そのうちね」
私はあいまいに笑い、ナイローグが何か言う前に彼から離れて早足で廊下を歩いた。
もちろん行き先は、出口だ。
ナイローグに言われるまでもなく、目的を達したからには早急に逃げるべきだろう。本当を言えば、もう少しここにいたかったけれど、どうやら状況はよくないようだから仕方ない。
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