無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

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五章 十四歳の再会

(31)すっきりした部屋

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 ここを出たら、そのまま今住んでいる集合住宅に戻って、荷造りをして。魔獣飼育場でお世話になったスラグさんには挨拶しておくべきだろうけれど、それはあきらめよう。彼には後で酒樽でも贈っておけばいいか……。
 これからのことを考えていると、背後から硬い金属音が近づいてきた。
 内心ではちょっとびくりとしたが、できるだけ平気そうな顔を保って振り返ると、見知った背の高い男が横に並び、私の歩調に合わせて足を緩めた。

「ナイローグ」
「すぐに出て行くのだろう? 今日は非番だから、片付けを手伝ってやる。荷運び用の馬はいるか?」
「ええっと、持っていくものは少ないから大丈夫」
「そうか。……その本は貸せ。お前が持っていると目立つぞ」

 そういうと同時に、ナイローグは私の手から分厚い本を取り上げた。そして一歩遅れて歩き始める。その様子は魔導師見習い付きの従者に見えなくもない。それに彼は背が高いから、書物も小さく見えて門外不出の魔道書には見えない。
 まあ、従者にしては着ている服が上質すぎる。でも顔が整いすぎていることに比べるとたいしたことではないだろう。
 私はおとなしくナイローグと一緒に歩きながら、どうやって彼から逃れようかと考え始めていた。



 魔道学院を出た私は、まっすぐに家に戻って荷物をまとめた。
 私の荷物は、部屋の大きさにしてはかなり少ないと思う。
 着替えの服と、苦労して手に入れた魔道学院の教本。それに村から持ってきた母さんが織った厚手の毛織物と、ナイローグからもらった基本の魔法書。家具類は備え付けだったし、寝具は母さんの毛織物だけで十分だったから、特に何も買っていない。その他は細々とした洗面用具などがあるくらいで、基本的には何もない。
 そんな部屋までついてきたナイローグは、呆れたように見回していた。

「ずいぶんと……すっきりした部屋だな」

 すっきりとは、なかなか優しい表現だ。
 意外に気を使う性格のナイローグらしい。
 私は思わず笑った。

「年頃の女の子の部屋らしくないって、そう言いたいんだよね?」
「確かにそれもある。妹たちの部屋はもっと騒々しい感じだったからな。しかしこれは……本当にここに住んでいるのかと、疑いたくなるほど何もないぞ」
「ここには眠るために戻ってくるだけだったからね。働いたり魔道学院に行ったり図書院にこもったりばっかりだったから、物を増やす暇もなかったかな」

 背中に背負える袋に、着替えを放り込んでいく。
 そんな私を見ていたナイローグは、まだ持っていた魔法教本を袋に入れて、私の頭に手を置いた。

「真面目に頑張っていたんだな」
「当然だよ。そのために村を出たんだから」
「うん。よく頑張ったな。偉いぞ」

 まるで子供を褒めるような言葉だ。
 私はもう十四歳なのに。
 でも……とても嬉しかった。私は照れ隠しに少し乱暴にナイローグの手から逃れて、寝台にあった母さんの手織りの織物を畳んで紐で縛った。

「一応、十七歳の男の部屋っぽくしたつもりだったんだよね。スラグさんとかメリアンさんとか、突然やって来たりしたから。でも何もないって驚かれたよ。へイン兄さんの真似をしたつもりだったのに」

 へイン兄さんの部屋を思い出しながら笑ったのに、ナイローグは眉をひそめた。

「スラグ……? メリアン……?」

 低くつぶやく声がする。
 その整った顔が、一瞬不機嫌そうに見えたから、私は慌ててつけたした。

「ス、スラグさんって、都でお世話になった人だよ。雇ってくれたんだ。最初は住み込みだったんだよ。メリアンさんはスラグさんの娘さん。背が高い美人なんだけど、急に部屋に来たりしたからいつも気を張っていたんだ」
「……スラグとメリアン……魔獣飼育のあの親子か。なるほどな」

 ナイローグは納得したように頷いた。

「近くの農場や家畜飼育場ばかりみていたな。魔獣飼育場までは確認していなかった。よく考えればあり得る話だった」
「もしかして、スラグさんたちのことを知っているの?」
「特殊な仕事だから、俺たちの業界では有名人だぞ。それより、飼育場からわざわざここまで来るとは、メリアンとは仲が良かったのか?」
「うん、なんだか気に入ってもらったんだよ。時々ご飯持ってきてくれたし、泊まっていいかって言われたりしたからいつも慌てていたよ。スラグさんにも、おまえはもう息子同然だとか言われたりしてさ」
「……ちょっと待て。まさか、おまえの部屋に泊めたりしたのか?」
「さすがに結婚前の女性を、名目上男の私の部屋に泊めたりできないよ」
「そうか、賢明だったな。ただでさえ複雑なのに、さらに混乱するところだった」

 ナイローグは何を言っているのだろう。
 首を傾げたが、私は彼に頼みたいことがあったのを思い出した。
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