無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

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六章 十五歳は大切な年

(33)うまくいかない

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 私が村にいた頃。
 ヘイン兄さんが私によく言っていた言葉がある。

「鏡をよく見ろ」
「意味がわからないなら、ずっと男装していろ」

 そんなことを言われるたびに、この人は何を言っているんだと思っていた。もしかしてへイン兄さんって、鏡を見てうっとりする趣味でもあるんだろうか、と真剣に疑ったこともあった。
 そのくらい私には意味不明だったし、ヘイン兄さんは誰もが認める整った顔をしている。
 でも、私も大人になった。
 自分の髪が非常に珍しい色で、人さらいにとっては垂涎ものだとか、背が低いだけでなくどうやら幼く見える童顔らしいとか、いろいろわかるようになったのだ。
 だから、村を出てからはほとんどずっと男装で通している。髪も黒っぽく染めることが多い。
 当然、新しく服を作るときも男物だ。
 子供に見られて相手にしてもらえないことはあるけれど、魔法と魔獣飼育術を示せば働き口には困らない。周囲が気を遣わないから目立たない。いい事尽くめだ。
 そう思ったのに。
 ……世の中、なかなかうまくいかないものだ。



「あのー、そこ通してもらえますか?」

 私は一応、丁寧にお願いしてみた。
 友好的に見えるよう、不機嫌な顔にならないように気も使った。
 ……この半年以上、私は都から離れた南の森林地帯に出向いていた。今朝ようやく街のあるところまで戻って来たばかりで、宿で風呂を堪能して、そろそろ食事に出かけようとしたところだった。
 だから、少し疲れが溜まっているけれど、気持ちに余裕はあるから友好的に務めようと思う気力はある。精一杯下手に出て、それで気持ちよく食事に行けるのなら、いくらでも丁寧に出る。
 なのに私の道を塞ぐ男たちは、どう見ても私の気持ちに応じてくれるような、友好的な反応は期待できそうになかった。
 平和は大事だってわかる。私も好きだ。でも、そろそろお腹が空いてきているんです!

 正面に三人。
 横に二人。後ろからも二人近づいている。
 ……まいった。何か、まずいことをしただろうか。
 これが警備隊の制服姿だったら、偽装身分証明書の件がバレてしまったかと真っ青になっただろう。でも私を囲んでいる男たちは、そういう高尚な目的があるようには見えない。
 この街に入ってから危ないお姉さんに声をかけた記憶もないし、危ない仕事に巻き込まれた記憶もない。
 都から逃げ出して約一年間、私は魔獣商人さんたちと行動を共にしてきた。魔獣商人という上品な肩書きを持つけれど、彼らの実態は商人というより究極の猛獣狩人だ。
 飼育可能な魔獣を生け捕りして、人に馴れさせて、売る。
 それが魔獣商人だけれど、簡単なお仕事ではない。生け捕りがまず危険度が高いし、それを人に慣れさせるのも大変だ。幸い、私は魔獣に慣れている。生け捕りなんかはマッチョで肉体派な狩人さんたちにお任せするけれど、襲いかかったりしない程度に馴れてもらうのは得意だ。
 だから私への払いは実に太っ腹だった。魔道書で吹っ飛んだお金が、あっという間にお釣りが山ほど出るほど貯められた。

 まあ、野宿に継ぐ野宿だったのは大変だったかな。
 いつの間にか魔獣たちに囲まれたり、ちょっと怖い思いもしたりもあったし。
 時々何処かのお貴族さまの私有地に忍び込んで、見つかったら処刑されたりするんじゃないかとかビクビクしたりもしたけれど。
 ……そういう生活が長く続いた後、やっと文明圏に戻って来たのに、獰猛そうな人間に囲まれるのはちょっと嫌すぎる。
 思わずため息をもらしたけれど、男たちは私を解放してくれなかった。

「なあ、お坊ちゃん。あんたずいぶん荒稼ぎしたそうじゃないか」
「……あー……それですか」

 私が何かやったわけではなく、私の財布に目をつけたらしい。
 魔獣商隊で一緒だった誰かが漏らしたのだろうか。
 いやいや、商隊で一緒だったなら、危険手当込みで稼ぎが良かったのは全員だ。朝っぱらから風呂付きのお高めな宿に飛び込んだのがまずかったのかもしれない。
 勘弁して欲しい。そろそろ私はお腹が減ったのに。

「なあ、あんたも静かな生活は好きだろう? ちょっと俺たちに投資してくれるだけでいいんだ」
「えーっと、静かな生活は好きですけど、投資はちょっと……」
「ああ? そのかわいい顔に男前な傷を作って欲しいのか?」

 ……どうしよう。
 魔獣に比べたら全然怖くないけれど、こういう人たちを敵にしたら仕事がしにくくなりそうだ。かといって、絶対回収の見込めない投資なんてしたくない。
 こういう人たちは、刺激をしない方がいいと言われた気がする。
 ちょっとお金を渡して、隙を見て逃げてしまうか。思い切って風で金貨を飛ばしたりしたら、仲間内で争ってくれるだろうか。……興味はあるけれど、さすがに金貨はありえないか。銅貨ではインパクトないから、銀貨くらいをばらまいてみよう。
 私はもう一度ため息をつき、財布を探ろうとした。

「うちの家族に何か用かな?」

 聞き覚えのある声がした。
 男たちが殺気を向ける中、優しげな微笑みを浮かべた青年が近づいてくる。
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