無自覚少女は夢をあきらめない 〜鏡を見ろ? 何を言われても魔王を目指して頑張ります!〜

ナナカ

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七章 十六歳の前にそびえる壁

(42)もう関わるな

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 多分、これは内緒にしておくべき話だった。
 その証拠に、ナイローグの笑顔の中で、目だけが鋭くなっている。
 私はそろりと目をそらし、体も横に向けてナイローグから離れようとした。でもナイローグが逃げるのを許してくれるわけがない。私が移動しようとした方向の壁に手をつく。
 ちょうど目の高さに出現した腕に、私は思わず動きを止めた。

「ナ、ナイローグ?」

 そっと目を上げると、笑みを消した顔がすぐそばにあった。
 ……間違いない。これは説教の前触れだ。
 私はごくりと唾を飲み込んだ。

「お前、あの根城に行ったな?」
「……行きました」
「よく無事だったな。今のお前は女に見えるんだから、もっと気をつけろ」

 この後に説教が続くはずだ。
 でも私だっていつまでも無力な子供のままではない。攻撃は最大の防御、と私は自ら打って出た。

「わ、私は魔法使いだよ。無事に決まっているじゃないか」

 少し声が震えるのは、反撃に慣れていないから。
 威厳は半減だ。でもそれなりに効果はあったようで、ナイローグはわずかに眉を動かした。

「魔法と言っても、実戦で使えなければ意味はないぞ」
「この間へイン兄さんと会った時にいきなり試されちゃったけど、兄さん相手なら完全に大丈夫だったよ。……あれ? 兄さんからその話は聞かなかったの?」
「今までずっと忙しかったからな。ゆっくり話せるほど村にはいなかったんだ。しかしそう言えば、あいつにしては歯切れが悪かったな。……そうか、完全に防がれたから、詳しい話をしなかったんだな」

 ナイローグはやっと納得したようだ。
 しかも、へイン兄さんの心情まで簡単に読んで笑っている。さすがとしか言いようがない。

「あいつが悔しがるくらいなら、確かに大丈夫なのだろう」

 思ったより、あっさりと認可された。
 もしかしたら、ナイローグもヘイン兄さんみたいに切りかかってくるかもしれないと身構えていた私は、やっと肩から力を抜いた。
 やっぱりナイローグは常識人だ。
 でも私を逃がす気はないようで、反対側にそろそろと移動していた私は、もう一方の手で行く手を阻まれた。つまり両方の腕の間に囲まれてしまった。
 目の前に大きな体があるのは、圧迫感がある。それでもゆったりとした空間があるのは、ナイローグが大きいからか、私が小さすぎるからか。
 私は恐る恐る顔を上げる。
 ほとんど真上にある顔からは、また笑みが消えていた。

「シヴィル。これからもまだ、あの悪人どものところに行くつもりか?」
「うん……さっき断られたところだけど……まだ五回目だから、あと五回は行ってみようかな、と……」
「だめだ。もうあの根城には行くな」

 急に真面目な顔で言われて、私は困惑した。
 ナイローグもへイン兄さんも、口煩いけれど意外に私に甘い。甘いけれど、こういう真面目な顔で言う時は否とは言わせてもらえない。それに、頭ごなしの禁止にはそれなりの理由がある。

「あの、理由があるんだよね?」
「……これは独り言だがな」

 少し間を置いて、ナイローグは私から壁に目をそらして言葉を続けた。

「あの根城には、まもなく討伐隊が向かう。だからもう関わるな」
「討伐隊?」

 私ははっとして周囲を見回した。
 ナイローグは私に目を戻してため息をついた。そして壁から手を離して、大通りの向こうを視線で示した。
 そちらに何かあるのだろうか。
 つられてそちらを向き、首を傾げる。
 小さい街とはいえ、大きな通りだから人は多い。街の住民だけでなく、旅の途中の商人や職を求めて移動する傭兵風の男たちもいる。様々な人々がいる中に、ひときわ目立っている一団がいた。
 濃い青色のマントが目に鮮やかだ。その下には、黒を基調にした服を着ている。十数人が揃いの服を着ているからどこかの制服なのだろう。全員、体格が際立っていた。
 黒い制服には銀色の装飾がついていて、腰には剣を帯びている。
 騎士だ。
 それもお貴族様のお抱えなどではない。国王直轄の実力重視で、生まれも何も影響しないというあの騎士団の制服に似ている気がする。……いや気のせいではない。似ているどころか、たぶんそのものだ。

「……うそ……あの制服って……!」
「知っているのか?」
「もちろん知っているよ! あれってグライトン騎士団だよね? うわぁ、なんであんなのが来ているんだよ! 魔王級と言われる悪人だって、あの騎士団に目をつけられたら廃業覚悟するって話だよ!」
「ずいぶん弱気な悪人なんだな」
「だってグライトン騎士団だよ! この間の戦争でも活躍したってみんなが言っているよ! へイン兄さん級がごろごろいるって言うし、父さんだってあいつらは凄いって言っていたよ。普通の相手が勝てるわけないじゃないかっ!」
「……いや、さすがにへイン級はごろごろはいないぞ」
「どうしよう、まずいよ、絶対に勝ち目がないよ。せっかくの悪人の根城だったのに!」

 私は声を押し殺してつぶやいた。
 それから、はっとする。
 あのグライトン騎士団が来たのなら、あの人のいい門番のおじさんも危険ということではないか。
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