61 / 63
九章 十八歳の激動
(60)ただいま
しおりを挟む
ナイローグが私を見た。
その視線が真剣すぎて落ち着かなかったから、私は慌てて前を向く。
私の頭頂部のあたりに、こつんと何かがあたった。ナイローグの額だったようだ。かすかな吐息が耳に触れ、騎士服についている輝かしい階級章に髪が引っかかった。髪を軽く引っ張られて少し痛かったけれど、密着した肩に心臓の鼓動がわずかに伝わってきた。
「……お前の生まれはグライトン騎士団団長より上の身分だ。陛下の姪姫だから、お前が昔望んでいたように、俺は平伏しなければならない。そちらの方がいいか?」
そう言われて、初めて気づいた。
ありえないと思った私の血統は、しかるべき場所に出れば騎士であるナイローグに膝を突かせるものなのだ。
十年間も夢見た光景は、私の中に流れる血を受け入れるだけで実現することだったらしい。
母さんの言いつけを守って、スカートを穿き、綺麗な仕草を身につけて、十五歳まで村にいて……それだけでナイローグは私の前で膝を突くことになっていたのだ。
ちょっと想像しようとしてみたけれど……全てがありえない。
母さんならともかく、私は田舎生まれの野生児あがりでしかない。いまだに言葉遣いは少年のようだし、頭の中身もご令嬢とかお姫様とは程遠い。
嬉々として血統に頼るほど、私は自惚れていない。
だからと言って、今ここで率直な返事をするのはおもしろくない。私は自棄気味に転移魔法を生じさせた。
私が指先で空中に描いた転移先は、ナイローグが希望した都へではなく、実家のある村にした。これは軽い嫌がらせというか逃避だった。
「着いたよ」
空間をねじ曲げる転移術を終え、私はすました顔でナイローグに告げる。
目の前には懐かしい村の光景が広がっていた。
青い空に、ふわふわと浮かぶ白い雲。
遠くには深い森が見え、細やかな水路を張り巡らせた平地は一面が畑になっている。
少し高くなった丘は牧草が茂り、囲いの向こうでは羊たちが草を食んでいた。
「……おい、ここは……」
ナイローグが困惑したようにつぶやくのが聞こえる。その困り切ったような顔を見上げていると、私は実にすがすがしい気持ちになった。
「村に戻れって言ったよね? 一緒について来てくれるとも言っていたよね?」
「確かに言ったが、何も今でなくても……この格好はまずいと思わなかったのか」
「あ、グライトン騎士団というのは内緒だったの?」
「知っているやつはいるが……いや俺のことはいいんだ。問題はお前だぞ」
「私?」
「お前は今どんな姿なのかを忘れていないか? どう見ても女にしか見えない姿で俺と一緒にいると、余計なことを勘ぐられるぞ?」
おかしなことを言う。
今の私は、黒一色ながらも美しいドレスを着ている。ナイローグは実戦用の姿と言え、騎士団長様らしい威厳あふれる姿だ。私もドレス姿だから、特別見劣りはしていない……と思う。
「この格好は別におかしくないと思うけどな。あ、おりていい?」
私は一人で馬から飛び降りようとした。
でもその前に肩を押さえられ、ナイローグが先に下りて、またお姫様っぽく抱き降ろされてしまった。
何度されても、まだ慣れない。
でも、ふわりと降ろされるのは悪い気はしない。私が羽根になったような錯覚を覚えるほど、ナイローグは丁寧に軽やかに降ろしてくれた。
久しぶりの故郷の土を踏みしめ、私はそっと我が家の方に目を向けた。
懐かしい家の前には、姿勢の良い美女が立っていた。
目が合うと、ふわりと微笑みが返ってくる。白髪がほとんどない見事な金髪の美女は、でも説教の気配がほのかに漂っていた。
一瞬、背筋がすぅっと寒くなる。でもその感覚すら懐かしい。
故郷に帰ってきたのだと実感する。
「母さん……」
そっと声を掛けると、母さんは神々しいほど美しい笑みを浮かべた。
事情を知ると、母さんの微笑みがいつも以上に気高く見えてくる。その美しい笑顔のまま、母さんは私に軽くうなずいてくれた。
「お帰り、シヴィル。すっかり綺麗になったわね」
「母さ……」
「シヴィル!」
私が答える前に、バタンと扉が開いて家の中から巨漢が飛び出して来た。何歩も近づきながら、太い腕を私に向けて差し伸べながら大きく開く。
「お……お帰り……シヴィル……!」
「ただいま!」
私はその広い広い胸に向かって走っていった。たぶん十年ぶりくらいに父さんに飛びついて、ぎゅっと抱きしめられた。
一日農作業をして、軽く水で拭いただけなのだろう。父さんは汗臭い。でも服は土と草の匂いが、黒い髪は日向の匂いがする。懐かしい匂いだ。
今も小柄な私は父さんの腕にすっぽりと包まれてしまう。農作業で鍛えた腕に締め付けらて、私は一瞬意識が飛びそうになった。
でも、その感覚も懐かしい。
この締め付けが苦しいから私は父さんに抱きつかなくなったのだったと、改めて思い出した。
「シヴィル。ナイローグと一緒に帰ってきたと言うことは、魔王になる夢は諦めてくれたんだね?」
やはり家の中から出てきたヘイン兄さんは、母さんの横に立ちながら言う。父さんの腕の中からもがき出た私は、馬を引いてきたナイローグを振り返った。
「母さんの生まれとか家の話は聞いたよ。だから魔王になるのは諦める。でもそのかわり……」
私は母さんにちらりと目を向け、先を続けた。
「その代わりに、ナイローグの許嫁として騎士団の魔女になることにしたよ」
「な、な、な、なんだと!」
父さんが絶叫した。
近くの木立から小鳥たちが飛び立ったのを見送り、私はそっと母さんとヘイン兄さんを見た。
ヘイン兄さんは親友に目を向けて苦笑していた。
母さんは微笑みを消して、美しい眉をわずかに動かした。
最後にナイローグを振り返ると、非常に珍しいことに顔を強張らせていた。たぶん青ざめている。
誤解を招く言い方なのは、もちろん故意だ。
過保護すぎる馬鹿な男と、ヘイン兄さんに冷たい目で見られればいい。
元勇者という豪腕農夫の父さんには締め上げられてしまうかな?
元王女様という礼儀に厳しい母さんには、たっぷりと説教されてしまうかも!
……でも、私の予想はあまり当らなかった。
ヘイン兄さんはため息交じりに彼の肩を叩いただけだった。
父さんに締め上げられたナイローグは、涙ながらに娘を頼むと言われていた。
母さんに説教されたのは、長らく帰省していなかった私の方だった。
でも母さんは、ナイローグにクギを刺すことも忘れなかった。
「お分かりだと思うけれど、娘を泣かせたら死罪ですよ。それから、しかるべき手順はきちんと取りなさい」
そんな事を言い放った母さんは、いつにも増して美しく、怖い笑顔だった。
その視線が真剣すぎて落ち着かなかったから、私は慌てて前を向く。
私の頭頂部のあたりに、こつんと何かがあたった。ナイローグの額だったようだ。かすかな吐息が耳に触れ、騎士服についている輝かしい階級章に髪が引っかかった。髪を軽く引っ張られて少し痛かったけれど、密着した肩に心臓の鼓動がわずかに伝わってきた。
「……お前の生まれはグライトン騎士団団長より上の身分だ。陛下の姪姫だから、お前が昔望んでいたように、俺は平伏しなければならない。そちらの方がいいか?」
そう言われて、初めて気づいた。
ありえないと思った私の血統は、しかるべき場所に出れば騎士であるナイローグに膝を突かせるものなのだ。
十年間も夢見た光景は、私の中に流れる血を受け入れるだけで実現することだったらしい。
母さんの言いつけを守って、スカートを穿き、綺麗な仕草を身につけて、十五歳まで村にいて……それだけでナイローグは私の前で膝を突くことになっていたのだ。
ちょっと想像しようとしてみたけれど……全てがありえない。
母さんならともかく、私は田舎生まれの野生児あがりでしかない。いまだに言葉遣いは少年のようだし、頭の中身もご令嬢とかお姫様とは程遠い。
嬉々として血統に頼るほど、私は自惚れていない。
だからと言って、今ここで率直な返事をするのはおもしろくない。私は自棄気味に転移魔法を生じさせた。
私が指先で空中に描いた転移先は、ナイローグが希望した都へではなく、実家のある村にした。これは軽い嫌がらせというか逃避だった。
「着いたよ」
空間をねじ曲げる転移術を終え、私はすました顔でナイローグに告げる。
目の前には懐かしい村の光景が広がっていた。
青い空に、ふわふわと浮かぶ白い雲。
遠くには深い森が見え、細やかな水路を張り巡らせた平地は一面が畑になっている。
少し高くなった丘は牧草が茂り、囲いの向こうでは羊たちが草を食んでいた。
「……おい、ここは……」
ナイローグが困惑したようにつぶやくのが聞こえる。その困り切ったような顔を見上げていると、私は実にすがすがしい気持ちになった。
「村に戻れって言ったよね? 一緒について来てくれるとも言っていたよね?」
「確かに言ったが、何も今でなくても……この格好はまずいと思わなかったのか」
「あ、グライトン騎士団というのは内緒だったの?」
「知っているやつはいるが……いや俺のことはいいんだ。問題はお前だぞ」
「私?」
「お前は今どんな姿なのかを忘れていないか? どう見ても女にしか見えない姿で俺と一緒にいると、余計なことを勘ぐられるぞ?」
おかしなことを言う。
今の私は、黒一色ながらも美しいドレスを着ている。ナイローグは実戦用の姿と言え、騎士団長様らしい威厳あふれる姿だ。私もドレス姿だから、特別見劣りはしていない……と思う。
「この格好は別におかしくないと思うけどな。あ、おりていい?」
私は一人で馬から飛び降りようとした。
でもその前に肩を押さえられ、ナイローグが先に下りて、またお姫様っぽく抱き降ろされてしまった。
何度されても、まだ慣れない。
でも、ふわりと降ろされるのは悪い気はしない。私が羽根になったような錯覚を覚えるほど、ナイローグは丁寧に軽やかに降ろしてくれた。
久しぶりの故郷の土を踏みしめ、私はそっと我が家の方に目を向けた。
懐かしい家の前には、姿勢の良い美女が立っていた。
目が合うと、ふわりと微笑みが返ってくる。白髪がほとんどない見事な金髪の美女は、でも説教の気配がほのかに漂っていた。
一瞬、背筋がすぅっと寒くなる。でもその感覚すら懐かしい。
故郷に帰ってきたのだと実感する。
「母さん……」
そっと声を掛けると、母さんは神々しいほど美しい笑みを浮かべた。
事情を知ると、母さんの微笑みがいつも以上に気高く見えてくる。その美しい笑顔のまま、母さんは私に軽くうなずいてくれた。
「お帰り、シヴィル。すっかり綺麗になったわね」
「母さ……」
「シヴィル!」
私が答える前に、バタンと扉が開いて家の中から巨漢が飛び出して来た。何歩も近づきながら、太い腕を私に向けて差し伸べながら大きく開く。
「お……お帰り……シヴィル……!」
「ただいま!」
私はその広い広い胸に向かって走っていった。たぶん十年ぶりくらいに父さんに飛びついて、ぎゅっと抱きしめられた。
一日農作業をして、軽く水で拭いただけなのだろう。父さんは汗臭い。でも服は土と草の匂いが、黒い髪は日向の匂いがする。懐かしい匂いだ。
今も小柄な私は父さんの腕にすっぽりと包まれてしまう。農作業で鍛えた腕に締め付けらて、私は一瞬意識が飛びそうになった。
でも、その感覚も懐かしい。
この締め付けが苦しいから私は父さんに抱きつかなくなったのだったと、改めて思い出した。
「シヴィル。ナイローグと一緒に帰ってきたと言うことは、魔王になる夢は諦めてくれたんだね?」
やはり家の中から出てきたヘイン兄さんは、母さんの横に立ちながら言う。父さんの腕の中からもがき出た私は、馬を引いてきたナイローグを振り返った。
「母さんの生まれとか家の話は聞いたよ。だから魔王になるのは諦める。でもそのかわり……」
私は母さんにちらりと目を向け、先を続けた。
「その代わりに、ナイローグの許嫁として騎士団の魔女になることにしたよ」
「な、な、な、なんだと!」
父さんが絶叫した。
近くの木立から小鳥たちが飛び立ったのを見送り、私はそっと母さんとヘイン兄さんを見た。
ヘイン兄さんは親友に目を向けて苦笑していた。
母さんは微笑みを消して、美しい眉をわずかに動かした。
最後にナイローグを振り返ると、非常に珍しいことに顔を強張らせていた。たぶん青ざめている。
誤解を招く言い方なのは、もちろん故意だ。
過保護すぎる馬鹿な男と、ヘイン兄さんに冷たい目で見られればいい。
元勇者という豪腕農夫の父さんには締め上げられてしまうかな?
元王女様という礼儀に厳しい母さんには、たっぷりと説教されてしまうかも!
……でも、私の予想はあまり当らなかった。
ヘイン兄さんはため息交じりに彼の肩を叩いただけだった。
父さんに締め上げられたナイローグは、涙ながらに娘を頼むと言われていた。
母さんに説教されたのは、長らく帰省していなかった私の方だった。
でも母さんは、ナイローグにクギを刺すことも忘れなかった。
「お分かりだと思うけれど、娘を泣かせたら死罪ですよ。それから、しかるべき手順はきちんと取りなさい」
そんな事を言い放った母さんは、いつにも増して美しく、怖い笑顔だった。
10
あなたにおすすめの小説
『有能すぎる王太子秘書官、馬鹿がいいと言われ婚約破棄されましたが、国を賢者にして去ります』
しおしお
恋愛
王太子の秘書官として、陰で国政を支えてきたアヴェンタドール。
どれほど杜撰な政策案でも整え、形にし、成果へ導いてきたのは彼女だった。
しかし王太子エリシオンは、その功績に気づくことなく、
「女は馬鹿なくらいがいい」
という傲慢な理由で婚約破棄を言い渡す。
出しゃばりすぎる女は、妃に相応しくない――
そう断じられ、王宮から追い出された彼女を待っていたのは、
さらに危険な第二王子の婚約話と、国家を揺るがす陰謀だった。
王太子は無能さを露呈し、
第二王子は野心のために手段を選ばない。
そして隣国と帝国の影が、静かに国を包囲していく。
ならば――
関わらないために、関わるしかない。
アヴェンタドールは王国を救うため、
政治の最前線に立つことを選ぶ。
だがそれは、権力を欲したからではない。
国を“賢く”して、
自分がいなくても回るようにするため。
有能すぎたがゆえに切り捨てられた一人の女性が、
ざまぁの先で選んだのは、復讐でも栄光でもない、
静かな勝利だった。
---
【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!
月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、
花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。
姻族全員大騒ぎとなった
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~
狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない!
隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。
わたし、もう王妃やめる!
政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。
離婚できないなら人間をやめるわ!
王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。
これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ!
フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。
よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。
「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」
やめてえ!そんなところ撫でないで~!
夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる