手を繋いでいきましょう

はるた

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「死んじゃいましょうか。一緒に」

 こんなことで弱音を吐いてはいけない。迷惑をかけてはいけないと無理やり作っていた笑顔が限界で、死にたいと言ってしまった。

 風が吹いていればかき消されるような虫よりも小さな声で。

 聞こえて欲しくない。でも、聞こえて欲しいと本音と本音が混ざりあった私の心だった。

 死にたいと言った私にあなたは最初なんの反応もしなかったから聞こえなかったのだと思った。

 良かった。残念だ。私の中に私が2人いるみたいに反対のことを同時に思う。

 無言の時間。いつもは全然苦じゃないのにこの時だけは息苦しかった。

 だからなにか言わないとって私は楽しいことを無理やり考えていた。今の私に楽しいことなんて思い浮かびもしないのに。

 そうしたらあなたが死んじゃおっかなんて言うものだから驚いたのだ。

 聞こえてたんだってよりもいつも明るくて悩みがないことが悩みだって常に前を向いてるあなたが、一緒に死のうなんて嘘でも言ってくれるとは思っていなかったから。

 とてもびっくりして、嬉しくて、申し訳なかった。

「私なんかと一緒に死んじゃダメですよ」

「そこは、はいって言うところだと思うんですよ」

 私に微笑むあなたは絶対に自らこの世界からいなくなってはいけない人なのだと感じる。

 私たちは公園のベンチに横に並んで座っているけれど、私たちは同じところにはいないのだと思う。

 等間隔に設置されてる灯りはあの世へ導く提灯のようで、私はこの人を道連れにしてはいけないと黙って首を横に振ることしかできない。

「僕は、あなたに死なないでと引き止めるほどの力を持ってはいませんし、生きてとあなたに希望を持ってもらえるような言葉も持ち合わせていません。なんかいいこと言えるかなとか思って考えたんですけど僕には思いつきませんでした」

 私たちの座るベンチの近くにある灯りは寿命なのかチカチカと蛍のように点滅を繰り返す。

 ここはあの世とこの世の境目なのかもしれない。

 そう思うほど、生と死が目に見えて触れられるくらい私たちの近くにあった。

「死ぬのは痛くて怖そうです。だけどあなたはそんな死を自ら1人で迎えようとしている。それは嫌だなと。僕はあなたに死ぬなとも生きろとも言えないけれど、あなたと死ぬことはできるので。だからせめて僕も一緒に。痛いのは回避できないかもしれませんが、怖いのは2人なら半分になるかなと思いまして」

 死ぬなや生きろと言うことよりも一緒に死ぬことの方が難しいのに。なんかプロポーズみたいと私はこの場に合わないことを考える。

「普通の人は死のうとは思わないみたいです」

「普通ってなんなんでしょうね。僕は普通が良いとは思えません。あなたが死にたいと思うのならそれでいいんですよ。普通でなくともあなたがそう思ったならば僕は否定しません」

 いい人だな。死にたいと言った私に誰でも言える言葉で誤魔化さず、ちゃんと受けて止めてくれる。いい人。

 夜は世界や時間、善悪など全てが曖昧になって闇に溶け込む。

 だから人は。私は。どうせ夜だけなのだからと。朝には光とともに消え去るのだからと本音を零す。

 そうしたらたまたま運のいいことに隣にあなたがいた。

「あなたが死にたいと思う世界です。そんな世界に価値など無いのでしょう。なので、いつでもお供しますよ」

 きびだんご無しでねとあなたは付け足した。

 その瞬間。私は少しだけこの世界に価値を見つけられた気がした。
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