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大嫌いだ
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今日は俺の、25歳の誕生日。
これまでの誕生日は親や数少ない友人からひとこと「おめでとう」やら日用品やらをプレゼントされるだけだったのだが、去年は年下の恋人から時計を貰い更にはケーキも用意され盛大に祝われた。気恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった覚えがある。
けれどそんな恋人から、ひとつメッセージが届いた。
『今日はサークルのメンバーと飲み会があるから家行くの遅くなると思う。悪いから今日は行かないでおくね』
いや別に、祝われることを期待していたわけでもないが、会えないならばメッセージか電話でもなんでもいいから、おめでとうと言ってほしかった。
……なんて、もう誕生日をお祝いしたくて電話するほど熱はわ俺たちの間には無いんだけども。
正確には、あいつには、だが。
あいつは、俺と付き合いながらも他の女の子と関係を持っている。……と思う。
確証はないが、最近の態度は明らかに浮気しているそれだ。
まず会う頻度も減った。あいつと最後に会ったのは一週間以上も前だ。たまにあったとしても、あいつは他の人とメッセージのやり取りをして俺のことは放ったらかし。たまたま目に入ったメッセージの通知には同じ女の子の名前が並んでいた。そして何をするにも、俺は二の次でほかの約束を優先する。俺と先に約束していてもだ。
今日も、本当は会う約束をしていたのに。
深くため息をついたところで、俺のスマホが着信音を響かせた。画面を確認すると恋人——ではなく友人の名前が映し出されていた。少し期待してしまった自分に気付いて、思わず笑いがもれた。
気を取り直して、スマホの通話ボタンをタップする。
「もしもし」
「おっ、誕生日おめでとう、コウタ!」
友人の変わらない明るさに安心する。俺の誕生日を毎年祝ってくれるのも、こいつだけだ。
「ありがとう。てかお前、いま外?」
「そうそう。今日から連休じゃん?田中と佐々木と昼から飲みに行こうってでてるんだけど、お前も来ない?奢るし!」
一瞬、恋人の顔が浮かんだがふるふると首を振り吹き飛ばす。
ちなみにこの友人は、俺が男と付き合ってると知っている唯一の人物だ。
「あ、それとも恋人と予定入ってる?」
という気遣いも、今は必要ない。
「……いや、せっかくだし、行こうかな」
「お、まじ!?やったー、こうやって飲みに行くのも久々だな。店の住所は後で送るから」
「わかった。もう集まってるんだよな?」
「…………」
「? おーい、エイジ?」
「あ、あぁ、悪い」
「電波悪かった?」
「そんなとこ」
様子が変だと思いつつ、それからひとことふたこと交わし、通話を切った。
さて、出かける準備をしよう。
身だしなみを整え、ショルダーバッグをかける。
玄関の下駄箱の上に置いてある時計に手を伸ばしかけ、少し考えてから、俺はその手を引っ込めた。
———
店を2件程ハシゴして、大学時代よくエイジと行っていた居酒屋に入った。
個室に通され、みんな程よく酔ってバカな話をしながら、俺は尿意をもよおしたのでトイレに立った。その帰り、他の個室から、妙に甲高い女性の笑い声が耳に入った。
「えー!シュンくんめっちゃ優しいー!」
女性の発した名前に、思わず足を止める。
シュン、とは、俺の恋人の名前だ。
いや、よくある名前だし、たまたま同じ名前だっただけで、同一人物とは限らない。そう思ったが、次に聞こえた声でその希望はかき消される。
「そうでもないよ、当たり前のこと」
この声は、俺の恋人のものだ。
サークルのメンバーと飲み会と言っていたが、聞こえるのは女と男、2人の声だけ。
うすうす分かってはいたけど、あいつは俺に、嘘を言ったのだ。
「ていうか、シュンくん彼女さんほっといていいのー?最近ずっと私といるじゃーん」
「……うん、君といたいから」
ふたりの笑い声が不快に思えて、俺はふらふらする足取りで友人たちのいる個室に戻る。
椅子に座ると、隣のエイジが俺の顔を覗き込んできた。
「コウタ、どうした?」
「え?」
「顔色、真っ青だぞ」
俺の様子に気付いた田中と佐々木も、大丈夫か?なんて心配してくれる。
「あ、うん……ごめん、体調悪くて……」
「まじ?帰る?」
「そうする。みんなはまだ飲んでていいよ」
財布からお金を出そうとした俺の手を止めたエイジに、店先まで送ると言われて立ち上がる。田中と佐々木に挨拶して、俺たちは店の外に出た。
「家まで送らなくて平気か?」
「うん、大丈夫」
「……なぁ、コウタ。なんかあった?」
「なにもないよ。じゃあまたな」
詮索されたくなくて、誤魔化すように笑いエイジとわかれた。
ひとり、夜道を歩きながら今までの事を思い出す。
大学で出会ったあいつを好きになって、奇跡的に両思いになって、付き合えて。ふたりでいろんな事をして、いろんな所に行って…楽しかった。でも俺が社会人になってからは時間が合わなくて会うのも減って、気付いたらこんな事になっていた。
そろそろ、ケリをつけないといけないのかも知れない。
いつまでも先延ばしにできない問題だし。お互い、いいこともないから。
家に帰りつき、さっさとベッドに潜り込む。このベッドでも、ふたりくっついて眠ったこともあったっけ。それも、もう……。
悔しくて、やるせなくて、涙が止まらなかった。
———
インターホンの音で目が覚めた。
スマホの時間を確認すれば朝の8時。こんな時間に一体誰が……と思ったところで、すごい量の不在着信とメッセージの通知が入っていて驚いた。しかも全ては、シュンからだった。
音を切ってバイブモードにしていたから、寝ている間は気付かなかったのだろう。
ブブッとスマホが震え、シュンから新しいメッセージが届いた。
『コウタさん、いる?』
『今家の前にいる。いたら開けて』
またインターホンが鳴る。
一体何の用だ。今は会いたくないのに。
……いや、もうこの際、はっきりと言ってしまおうか。これで終わらせてしまえば、きっとこんなに苦しむこともないだろう。
俺はひとつ息を吐き、玄関のドアを開けた。
「あ、よかったいた。おはよう、コウタさん」
「…………なんか用?」
「えっと……昨日はごめん。コウタさんの誕生日だったのに」
「別に。で、なに」
「怒ってる?ごめんね、忘れてたわけじゃないんだ。ただ、お世話になったOBの人もくる飲み会だったから外せなくて」
嘘。
「一次会が案外早く終わったからコウタさんの家に行こうと思ってたんだけどOBの人に捕まっちゃって、そこから朝までコースで、結局行けなかったんだ」
これも嘘。
つらつらと言い訳を並べるこいつに腹が立ってきて、俺は話の途中で口を挟む。
「あのさ、俺別に怒ってないから。なに、言い訳の為にこんな時間から来たの?」
「いや……プレゼント、渡したくて」
シュンが手に持っていた小さめの紙袋を俺に差し出した。
受け取ろうと手が動きかけ、ぐっと拳を握る。
「……コウタさん、やっぱり怒ってるよね。本当にごめん。今日一日一緒にいる。なんでも言うこと聞くから」
「…………なんでも?」
シュンがこくこく頷く。
本当にこいつは、なにもわかってない。俺が何に対して怒っているのかも、朝からわざわざ俺に会いに来たお前を部屋の中に入れない理由も。
急にこうやってご機嫌取りされても、もう靡くことなんかないって、分からないのだろうか。……分からないんだろうな。
隠し通せると、思っているから。
俺は、穏やかに笑って見せた。
「じゃあさ、俺と別れて」
「…………え?」
ぽかんとしていたシュンが、言葉の意味を理解したのか慌てた表情を見せ俺の腕を掴む。
「な、なんで?嫌だよ」
「なんでも言うこと聞くんだろ?」
「っ……嫌だ、別れたくない。それ以外だったらなんでも聞くから、お願い」
あっさりと承諾されるかと思っていたから、縋ってきたことに内心驚いた。
もしかしたら、浮気しているっていうのは俺の勘違いで、なにか理由があって女の子とふたりきりだったのかもしれない。
そう思いかけて、俺はふるふる首を振った。
たとえ理由があったとしても、ここらが潮時なのは間違いないのだ。このままずっとこいつを縛り付けておく理由もメリットも、俺にはない。
「コウタさん、話をしよう。気が済むまで俺のこと殴ってもいい。だから——」
「昨日、女と二人でいるのをみた」
「!」
シュンが驚いた顔をする。
その時ちょうど、左手で持っていたスマホが震えた。
画面を見ればエイジからのメッセージで、その内容も、実に愉快で、不愉快だった。
「……昼間も、ふたりでいたみたいだな。腕組んで歩いて……楽しかったか?」
「ちがう……違うんだ、コウタさん」
「何も違わないだろ」
帰れ。
そう言ってドアを閉めようとしたが、シュンはそれを阻む。
「待ってお願い、話を聞いて」
「これ以上お前の何の話を聞けって言うんだ。浮気した理由か?そんなもん興味無い。いいから帰れよ!」
力に任せシュンを突き飛ばす。ドアから離れた隙にドアと、そして鍵も素早くしめた。
ガチャガチャとドアノブが動き、ドンドンとドアも叩かれる。
「コウタさん!話聞いて!お願い!」
外からの声を聞きたくなくて、耳を塞ぎベッドに潜り込む。暫くシュンはチャイムも推し続け、メッセージも送り電話もかけてきた。けれど全てを無視し続けた。
暫くして『また明日来るから』とメッセージが届いた後、シュンは帰ったのかなんの音もしなくなった。
のそりとベッドから起き上がり、シュンの電話番号を着信拒否に設定し、メッセージアプリのアカウントもブロックした。
もう会わない。
そう決めた。けれど、涙が勝手に溢れて止まらない。
俺は声を押し殺して泣き続けた。
あいつなんか、大嫌いだ——。
これまでの誕生日は親や数少ない友人からひとこと「おめでとう」やら日用品やらをプレゼントされるだけだったのだが、去年は年下の恋人から時計を貰い更にはケーキも用意され盛大に祝われた。気恥ずかしかったけれど、とても嬉しかった覚えがある。
けれどそんな恋人から、ひとつメッセージが届いた。
『今日はサークルのメンバーと飲み会があるから家行くの遅くなると思う。悪いから今日は行かないでおくね』
いや別に、祝われることを期待していたわけでもないが、会えないならばメッセージか電話でもなんでもいいから、おめでとうと言ってほしかった。
……なんて、もう誕生日をお祝いしたくて電話するほど熱はわ俺たちの間には無いんだけども。
正確には、あいつには、だが。
あいつは、俺と付き合いながらも他の女の子と関係を持っている。……と思う。
確証はないが、最近の態度は明らかに浮気しているそれだ。
まず会う頻度も減った。あいつと最後に会ったのは一週間以上も前だ。たまにあったとしても、あいつは他の人とメッセージのやり取りをして俺のことは放ったらかし。たまたま目に入ったメッセージの通知には同じ女の子の名前が並んでいた。そして何をするにも、俺は二の次でほかの約束を優先する。俺と先に約束していてもだ。
今日も、本当は会う約束をしていたのに。
深くため息をついたところで、俺のスマホが着信音を響かせた。画面を確認すると恋人——ではなく友人の名前が映し出されていた。少し期待してしまった自分に気付いて、思わず笑いがもれた。
気を取り直して、スマホの通話ボタンをタップする。
「もしもし」
「おっ、誕生日おめでとう、コウタ!」
友人の変わらない明るさに安心する。俺の誕生日を毎年祝ってくれるのも、こいつだけだ。
「ありがとう。てかお前、いま外?」
「そうそう。今日から連休じゃん?田中と佐々木と昼から飲みに行こうってでてるんだけど、お前も来ない?奢るし!」
一瞬、恋人の顔が浮かんだがふるふると首を振り吹き飛ばす。
ちなみにこの友人は、俺が男と付き合ってると知っている唯一の人物だ。
「あ、それとも恋人と予定入ってる?」
という気遣いも、今は必要ない。
「……いや、せっかくだし、行こうかな」
「お、まじ!?やったー、こうやって飲みに行くのも久々だな。店の住所は後で送るから」
「わかった。もう集まってるんだよな?」
「…………」
「? おーい、エイジ?」
「あ、あぁ、悪い」
「電波悪かった?」
「そんなとこ」
様子が変だと思いつつ、それからひとことふたこと交わし、通話を切った。
さて、出かける準備をしよう。
身だしなみを整え、ショルダーバッグをかける。
玄関の下駄箱の上に置いてある時計に手を伸ばしかけ、少し考えてから、俺はその手を引っ込めた。
———
店を2件程ハシゴして、大学時代よくエイジと行っていた居酒屋に入った。
個室に通され、みんな程よく酔ってバカな話をしながら、俺は尿意をもよおしたのでトイレに立った。その帰り、他の個室から、妙に甲高い女性の笑い声が耳に入った。
「えー!シュンくんめっちゃ優しいー!」
女性の発した名前に、思わず足を止める。
シュン、とは、俺の恋人の名前だ。
いや、よくある名前だし、たまたま同じ名前だっただけで、同一人物とは限らない。そう思ったが、次に聞こえた声でその希望はかき消される。
「そうでもないよ、当たり前のこと」
この声は、俺の恋人のものだ。
サークルのメンバーと飲み会と言っていたが、聞こえるのは女と男、2人の声だけ。
うすうす分かってはいたけど、あいつは俺に、嘘を言ったのだ。
「ていうか、シュンくん彼女さんほっといていいのー?最近ずっと私といるじゃーん」
「……うん、君といたいから」
ふたりの笑い声が不快に思えて、俺はふらふらする足取りで友人たちのいる個室に戻る。
椅子に座ると、隣のエイジが俺の顔を覗き込んできた。
「コウタ、どうした?」
「え?」
「顔色、真っ青だぞ」
俺の様子に気付いた田中と佐々木も、大丈夫か?なんて心配してくれる。
「あ、うん……ごめん、体調悪くて……」
「まじ?帰る?」
「そうする。みんなはまだ飲んでていいよ」
財布からお金を出そうとした俺の手を止めたエイジに、店先まで送ると言われて立ち上がる。田中と佐々木に挨拶して、俺たちは店の外に出た。
「家まで送らなくて平気か?」
「うん、大丈夫」
「……なぁ、コウタ。なんかあった?」
「なにもないよ。じゃあまたな」
詮索されたくなくて、誤魔化すように笑いエイジとわかれた。
ひとり、夜道を歩きながら今までの事を思い出す。
大学で出会ったあいつを好きになって、奇跡的に両思いになって、付き合えて。ふたりでいろんな事をして、いろんな所に行って…楽しかった。でも俺が社会人になってからは時間が合わなくて会うのも減って、気付いたらこんな事になっていた。
そろそろ、ケリをつけないといけないのかも知れない。
いつまでも先延ばしにできない問題だし。お互い、いいこともないから。
家に帰りつき、さっさとベッドに潜り込む。このベッドでも、ふたりくっついて眠ったこともあったっけ。それも、もう……。
悔しくて、やるせなくて、涙が止まらなかった。
———
インターホンの音で目が覚めた。
スマホの時間を確認すれば朝の8時。こんな時間に一体誰が……と思ったところで、すごい量の不在着信とメッセージの通知が入っていて驚いた。しかも全ては、シュンからだった。
音を切ってバイブモードにしていたから、寝ている間は気付かなかったのだろう。
ブブッとスマホが震え、シュンから新しいメッセージが届いた。
『コウタさん、いる?』
『今家の前にいる。いたら開けて』
またインターホンが鳴る。
一体何の用だ。今は会いたくないのに。
……いや、もうこの際、はっきりと言ってしまおうか。これで終わらせてしまえば、きっとこんなに苦しむこともないだろう。
俺はひとつ息を吐き、玄関のドアを開けた。
「あ、よかったいた。おはよう、コウタさん」
「…………なんか用?」
「えっと……昨日はごめん。コウタさんの誕生日だったのに」
「別に。で、なに」
「怒ってる?ごめんね、忘れてたわけじゃないんだ。ただ、お世話になったOBの人もくる飲み会だったから外せなくて」
嘘。
「一次会が案外早く終わったからコウタさんの家に行こうと思ってたんだけどOBの人に捕まっちゃって、そこから朝までコースで、結局行けなかったんだ」
これも嘘。
つらつらと言い訳を並べるこいつに腹が立ってきて、俺は話の途中で口を挟む。
「あのさ、俺別に怒ってないから。なに、言い訳の為にこんな時間から来たの?」
「いや……プレゼント、渡したくて」
シュンが手に持っていた小さめの紙袋を俺に差し出した。
受け取ろうと手が動きかけ、ぐっと拳を握る。
「……コウタさん、やっぱり怒ってるよね。本当にごめん。今日一日一緒にいる。なんでも言うこと聞くから」
「…………なんでも?」
シュンがこくこく頷く。
本当にこいつは、なにもわかってない。俺が何に対して怒っているのかも、朝からわざわざ俺に会いに来たお前を部屋の中に入れない理由も。
急にこうやってご機嫌取りされても、もう靡くことなんかないって、分からないのだろうか。……分からないんだろうな。
隠し通せると、思っているから。
俺は、穏やかに笑って見せた。
「じゃあさ、俺と別れて」
「…………え?」
ぽかんとしていたシュンが、言葉の意味を理解したのか慌てた表情を見せ俺の腕を掴む。
「な、なんで?嫌だよ」
「なんでも言うこと聞くんだろ?」
「っ……嫌だ、別れたくない。それ以外だったらなんでも聞くから、お願い」
あっさりと承諾されるかと思っていたから、縋ってきたことに内心驚いた。
もしかしたら、浮気しているっていうのは俺の勘違いで、なにか理由があって女の子とふたりきりだったのかもしれない。
そう思いかけて、俺はふるふる首を振った。
たとえ理由があったとしても、ここらが潮時なのは間違いないのだ。このままずっとこいつを縛り付けておく理由もメリットも、俺にはない。
「コウタさん、話をしよう。気が済むまで俺のこと殴ってもいい。だから——」
「昨日、女と二人でいるのをみた」
「!」
シュンが驚いた顔をする。
その時ちょうど、左手で持っていたスマホが震えた。
画面を見ればエイジからのメッセージで、その内容も、実に愉快で、不愉快だった。
「……昼間も、ふたりでいたみたいだな。腕組んで歩いて……楽しかったか?」
「ちがう……違うんだ、コウタさん」
「何も違わないだろ」
帰れ。
そう言ってドアを閉めようとしたが、シュンはそれを阻む。
「待ってお願い、話を聞いて」
「これ以上お前の何の話を聞けって言うんだ。浮気した理由か?そんなもん興味無い。いいから帰れよ!」
力に任せシュンを突き飛ばす。ドアから離れた隙にドアと、そして鍵も素早くしめた。
ガチャガチャとドアノブが動き、ドンドンとドアも叩かれる。
「コウタさん!話聞いて!お願い!」
外からの声を聞きたくなくて、耳を塞ぎベッドに潜り込む。暫くシュンはチャイムも推し続け、メッセージも送り電話もかけてきた。けれど全てを無視し続けた。
暫くして『また明日来るから』とメッセージが届いた後、シュンは帰ったのかなんの音もしなくなった。
のそりとベッドから起き上がり、シュンの電話番号を着信拒否に設定し、メッセージアプリのアカウントもブロックした。
もう会わない。
そう決めた。けれど、涙が勝手に溢れて止まらない。
俺は声を押し殺して泣き続けた。
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