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25 拒絶
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避けてばかりのシャロンにごうをにやしたルアージュが、馬車乗り場へやってきた。
相変わらず自分を囲んでいる護衛に、切ない表情でルアージュが口を開いた。
「頼む。お願いだから、少しだけ時間をくれないか」
「……5分だけですよ、殿下」
護衛は囲いを解き、ルアージュを通した。
シャロンの馬車に、ルアージュが乗り込んできた。
シャロンはルアージュに気づくも、ルアージュのほうを見ない。
「君は、もう僕のことは嫌いになったのか」
無言でじっとうつむいているシャロンにルアージュは問うた。
「いいえ。好きです、ずっと。たぶん永遠に」
ルアージュは、ぱあっと顔をほころばせた。
「じゃあ……じゃあ、これからも僕たちは」
だがシャロンは首を横にふった。
「でもこの恋は忘れなければなりません。ルアージュ様のお命を守るためにです。
私のちっぽけな存在と違って、ルアージュ様はこの国の王になる方なんですから」
シャロンの決意は固い。
陛下から届いた手紙の中で、一国の王が小娘にしかすぎない自分に頭を下げたのだ。
その決断の重さをシャロンは十分理解していた。
ルアージュがとっさにシャロンの手を取ろうとする。
だが、シャロンはさっと手を引いた。
「私たちが触れ合うことはもう二度とありません。あってはならないのです」
「……っ」
ルアージュは何も言い返せなかった。
自分はシャロンとの恋に夢中になっていたのに、シャロンはこの国の未来を考えている。
シャロンはついに一度もルアージュを見ることがなかった。
ルアージュは失意のまま、馬車を降りた。
華たちがふたりの様子を教室の窓からじっと眺めていた。
「ふん。どうせこうなると思ったのよ」
イレーネが吐き捨てるように笑う。
「婚約者の選定がまた行われるんではなくて?」
リュシエンヌがほくそえむ。
「私も当然、参戦させていただくわ」
フィリーネが息巻く。
「セレストはどうなの?ルアージュ様の幼馴染でしょう?
このままルアージュ様のお心がシャロンに残ったままでいいの?」
黙りこくっているセレストにソフィアが話を向けた。
「私は……すべて陛下の御心にお任せする」
「優等生ぶってますのね」
リュシエンヌがちくりと嫌味を言った。
セレストは内心、冷や汗をかいていた。
ルアージュを諦めないと決心したものの、今度のライバルはソフィアをはじめとした手強い令嬢ぞろいだ。
いくら王妃の後ろ盾があったとしても、色気が武器のフィリーネや、財力ではピカイチのイレーネ、氷の美貌のリュシエンヌ、そして最高の血筋のソフィア──彼女たちと競わなければならないのだ。
自己主張が苦手なセレストは、気が重くなった。
シャロンは入学以来、こんな人たちと渡り歩いてきたのだ。
カリンが転校してからは、誰一人味方がいない厳しい環境で。
こういう立場になってはじめて、セレストはシャロンの強さをまざまざと思い知った。
一方、ソフィアはセレストが王妃の親戚筋というかなり好条件を備えていることを承知している。
それでも負ける気はしなかった。
「皆様、この国の未来の王妃になるお覚悟を」
結局最後は、私が選ばれるのだけれど。
ソフィアが余裕顔で締めくくった。
「なあ、シャロン」
婚約破棄の話を聞いたウォルターがシャロンの部屋を訪ねていた。
「何だ」
シャロンは棚の地図コレクションを眺めながら返した。
「シャロンさ」
「ん」
さっきからシャロンは、地図の背表紙を指でなぞるだけで、ちっとも中身を見ていない。
シャロンが集中していないことがウォルターには手に取るようにわかった。
「地図ばっか見てないでさ、俺のほうも見てくれよ」
そう言いながらウォルターはシャロンのすぐ後ろに立った。
歯痒くてたまらない。
あいつのことなんて、もう忘れさせたい。
シャロンを挟むようにウォルターは棚に両手をついた。
「ウォル──」
ウォルターはこちらを振り向こうとしたシャロンを後ろから抱きしめる。
シャロンは目を丸くした。
鍛治で鍛えられたウォルターの筋肉質の腕に力が入る。
「こんな時にごめん。でも、俺だってずっと我慢してきたんだ。俺、シャロンのこと」
「言うな」
シャロンはウォルターが言おうとしていることを察して遮った。
「好きだ。ずっと。子どもの頃から」
ウォルターは構わず言葉を紡ぎ、シャロンをさらに強く抱きしめた。
「──っ」
シャロンは戸惑ってしばらく沈黙したあと、視線を落としてウォルターに言った。
「ごめん、ウォルター。私、わかってしまった。抱きしめられるの、ルアージュ様以外は嫌だ」
「シャロン、今は傷ついてるかもしれないけど、いつか俺のこと」
「友人以上に好きにはならない。誰のことも。一生」
そう言って、シャロンはウォルターの手を解いた。
「シャロン!」
「ごめん」
切な気な表情のウォルターに、最後にシャロンがダメ押しの謝罪をした。
「なんてな。冗談だよ、冗談っ」
ウォルターはわざと嘘を言った。
「ウォルター」
シャロンは何となく、ウォルターが誤魔化していると感じた。
「そんな顔すんなよ。俺たち、ずっと友達だからな。忘れんなよ!」
婚約破棄となった今でも、おそらくこれからもずっと、シャロンの心にいるのはルアージュただひとりだと、ウォルターは思い知らされた。
心で泣いていたが、ウォルターは振り切るようににかっと笑って、これからのシャロンの幸せを見守ろうと決意した。
相変わらず自分を囲んでいる護衛に、切ない表情でルアージュが口を開いた。
「頼む。お願いだから、少しだけ時間をくれないか」
「……5分だけですよ、殿下」
護衛は囲いを解き、ルアージュを通した。
シャロンの馬車に、ルアージュが乗り込んできた。
シャロンはルアージュに気づくも、ルアージュのほうを見ない。
「君は、もう僕のことは嫌いになったのか」
無言でじっとうつむいているシャロンにルアージュは問うた。
「いいえ。好きです、ずっと。たぶん永遠に」
ルアージュは、ぱあっと顔をほころばせた。
「じゃあ……じゃあ、これからも僕たちは」
だがシャロンは首を横にふった。
「でもこの恋は忘れなければなりません。ルアージュ様のお命を守るためにです。
私のちっぽけな存在と違って、ルアージュ様はこの国の王になる方なんですから」
シャロンの決意は固い。
陛下から届いた手紙の中で、一国の王が小娘にしかすぎない自分に頭を下げたのだ。
その決断の重さをシャロンは十分理解していた。
ルアージュがとっさにシャロンの手を取ろうとする。
だが、シャロンはさっと手を引いた。
「私たちが触れ合うことはもう二度とありません。あってはならないのです」
「……っ」
ルアージュは何も言い返せなかった。
自分はシャロンとの恋に夢中になっていたのに、シャロンはこの国の未来を考えている。
シャロンはついに一度もルアージュを見ることがなかった。
ルアージュは失意のまま、馬車を降りた。
華たちがふたりの様子を教室の窓からじっと眺めていた。
「ふん。どうせこうなると思ったのよ」
イレーネが吐き捨てるように笑う。
「婚約者の選定がまた行われるんではなくて?」
リュシエンヌがほくそえむ。
「私も当然、参戦させていただくわ」
フィリーネが息巻く。
「セレストはどうなの?ルアージュ様の幼馴染でしょう?
このままルアージュ様のお心がシャロンに残ったままでいいの?」
黙りこくっているセレストにソフィアが話を向けた。
「私は……すべて陛下の御心にお任せする」
「優等生ぶってますのね」
リュシエンヌがちくりと嫌味を言った。
セレストは内心、冷や汗をかいていた。
ルアージュを諦めないと決心したものの、今度のライバルはソフィアをはじめとした手強い令嬢ぞろいだ。
いくら王妃の後ろ盾があったとしても、色気が武器のフィリーネや、財力ではピカイチのイレーネ、氷の美貌のリュシエンヌ、そして最高の血筋のソフィア──彼女たちと競わなければならないのだ。
自己主張が苦手なセレストは、気が重くなった。
シャロンは入学以来、こんな人たちと渡り歩いてきたのだ。
カリンが転校してからは、誰一人味方がいない厳しい環境で。
こういう立場になってはじめて、セレストはシャロンの強さをまざまざと思い知った。
一方、ソフィアはセレストが王妃の親戚筋というかなり好条件を備えていることを承知している。
それでも負ける気はしなかった。
「皆様、この国の未来の王妃になるお覚悟を」
結局最後は、私が選ばれるのだけれど。
ソフィアが余裕顔で締めくくった。
「なあ、シャロン」
婚約破棄の話を聞いたウォルターがシャロンの部屋を訪ねていた。
「何だ」
シャロンは棚の地図コレクションを眺めながら返した。
「シャロンさ」
「ん」
さっきからシャロンは、地図の背表紙を指でなぞるだけで、ちっとも中身を見ていない。
シャロンが集中していないことがウォルターには手に取るようにわかった。
「地図ばっか見てないでさ、俺のほうも見てくれよ」
そう言いながらウォルターはシャロンのすぐ後ろに立った。
歯痒くてたまらない。
あいつのことなんて、もう忘れさせたい。
シャロンを挟むようにウォルターは棚に両手をついた。
「ウォル──」
ウォルターはこちらを振り向こうとしたシャロンを後ろから抱きしめる。
シャロンは目を丸くした。
鍛治で鍛えられたウォルターの筋肉質の腕に力が入る。
「こんな時にごめん。でも、俺だってずっと我慢してきたんだ。俺、シャロンのこと」
「言うな」
シャロンはウォルターが言おうとしていることを察して遮った。
「好きだ。ずっと。子どもの頃から」
ウォルターは構わず言葉を紡ぎ、シャロンをさらに強く抱きしめた。
「──っ」
シャロンは戸惑ってしばらく沈黙したあと、視線を落としてウォルターに言った。
「ごめん、ウォルター。私、わかってしまった。抱きしめられるの、ルアージュ様以外は嫌だ」
「シャロン、今は傷ついてるかもしれないけど、いつか俺のこと」
「友人以上に好きにはならない。誰のことも。一生」
そう言って、シャロンはウォルターの手を解いた。
「シャロン!」
「ごめん」
切な気な表情のウォルターに、最後にシャロンがダメ押しの謝罪をした。
「なんてな。冗談だよ、冗談っ」
ウォルターはわざと嘘を言った。
「ウォルター」
シャロンは何となく、ウォルターが誤魔化していると感じた。
「そんな顔すんなよ。俺たち、ずっと友達だからな。忘れんなよ!」
婚約破棄となった今でも、おそらくこれからもずっと、シャロンの心にいるのはルアージュただひとりだと、ウォルターは思い知らされた。
心で泣いていたが、ウォルターは振り切るようににかっと笑って、これからのシャロンの幸せを見守ろうと決意した。
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