20 / 21
20 最後の望み
しおりを挟む
王都はカーラの死を悼むように静まり返っていた。
ルアヌはカーラの棺からいっときも離れずずっとそばに居続けた。兵士も民も宰相もかつてのカーラを思い出しては涙にくれていた。
カーラの訃報を聞き、カーラのひいばあ様が王宮に駆けつけた。
「カーラよ…無念じゃのう」
そう語りかけると、花がたくさん敷き詰められた棺の中で冷たく眠るカーラの頬をなでた。
聖女の力は無限ではなかった。
カーラの家系は代々聖女を輩出してきたが、多くの者が若いうちに命尽きている。モンスターの魔力を抑えることで力を使い心身ともに衰弱しやすく短命の一族だったのだ。
「わしは運良く長生きできたほうじゃ。この子の母も姉も妹も、すでにこの世におらん。カーラはわしに次いで力の強い聖女だったのだが…」
棺のそばでルアヌはその話を聞いてか聞かずか、じっと一点を見つめたまま微動だにしなかった。
「医師の見立てでは血の色からして心臓が壊死したのではないかと。もし、もしも何かお知恵があれば教授願いたい!」
宰相は打ちひしがれたルアヌをいたましそうに見やりながら、藁にもすがる思いでひいばあ様に問うた。ひいばあ様はふと思いついたように語り始めた。
「吸血鬼は心臓が二つあると聞く。一度吸血鬼を体内に取り込んだのなら、陛下もそうなっているかもしれぬ。二つあるうちのひとつをカーラの壊死した心臓と取り替えれば、カーラは生きかえるかもしれん」
ひいばあ様の話は途方もない内容だった。心臓を取り替えるなど、そんな技、この国にはない。
誰もが絶望し口をつぐんだが、その沈黙をルアヌが破った。
「日本国はどうだ…?」
皆が顔を上げる。
「カーラは日本国の不思議な道具でモンスターを倒していた」
宰相も閃いたように賛同する。
「確かに異世界日本になら何か手立てがあるかもしれません!なにせ手強いモンスターもことごとく駆逐した優れた道具を開発した国ですから!」
「私も行く」
旅支度を始めた宰相にルアヌが同行を求めた。
「しかし、陛下…!まがりなりにも異世界です。陛下の身に万一のことがあったら──」
「最愛の妻を救うためなら、異世界でもどこへでも行く」
ルアヌの意思は固かった。宰相とルアヌはカーラの棺と共に転送装置で異世界日本へ旅立った。
-------------------
「カーラちゃんの彼氏!?すごいイケメンじゃーん!!」
「病気治ったの??よかったね!」
公園の隅に宰相に呼ばれたわかばとこよみがルアヌを見た途端、歓喜の声をあげた。
「あれ、カーラちゃんは?どこ?」
ルアヌがだまって指さす方向に棺があった。ルアヌは棺の扉を開いた。
なんだろう?とわかばとこよみが覗き込んだ小さい扉の向こうに、白い顔のカーラが横たわっていた。
「カ、──」
すぐにわかった。息をしていないと。
もう冷たくなってしまっていると。
「嘘!!!カーラちゃん!!!」
ふたりは棺に取りすがって大声で泣きはじめた。
「なんで!?なんでこんなことになったの!?彼氏、守ってあげられなかったの!?」
「カーラちゃん、彼氏のこと、世界中のだれよりも大好きだったのに──」
ふたりは立て続けにルアヌに憤りと悲しみをぶつけた。
「すまぬ…」
ルアヌは言い訳もせず、ただ悔しそうに下を向いた。
「吸血鬼の毒にやられ心臓が壊死してしまい…心臓を取り替えれば助かるかもしれないのですが…」
宰相の説明にわかばが「心臓?」と反応した。
「私には心臓が二つあるかもしれないのだ。そのうちの一つをカーラにあげたいと思っている。何か方法はないだろうか…?」
「ねえ!カーラちゃんがこうなってからどれくらい時間経った!?」
わかばが飛びかかるようにルアヌに尋ねた。
「6時間…くらいだ」
こよみがわかばに「わかばちゃん、まだ間に合う!?」と声をかけた。
わかばはうなずくとルアヌたちに申し出た。
「うちのパパなら治せるかも…パパ、心臓外科医なんだ」
ルアヌはカーラの棺からいっときも離れずずっとそばに居続けた。兵士も民も宰相もかつてのカーラを思い出しては涙にくれていた。
カーラの訃報を聞き、カーラのひいばあ様が王宮に駆けつけた。
「カーラよ…無念じゃのう」
そう語りかけると、花がたくさん敷き詰められた棺の中で冷たく眠るカーラの頬をなでた。
聖女の力は無限ではなかった。
カーラの家系は代々聖女を輩出してきたが、多くの者が若いうちに命尽きている。モンスターの魔力を抑えることで力を使い心身ともに衰弱しやすく短命の一族だったのだ。
「わしは運良く長生きできたほうじゃ。この子の母も姉も妹も、すでにこの世におらん。カーラはわしに次いで力の強い聖女だったのだが…」
棺のそばでルアヌはその話を聞いてか聞かずか、じっと一点を見つめたまま微動だにしなかった。
「医師の見立てでは血の色からして心臓が壊死したのではないかと。もし、もしも何かお知恵があれば教授願いたい!」
宰相は打ちひしがれたルアヌをいたましそうに見やりながら、藁にもすがる思いでひいばあ様に問うた。ひいばあ様はふと思いついたように語り始めた。
「吸血鬼は心臓が二つあると聞く。一度吸血鬼を体内に取り込んだのなら、陛下もそうなっているかもしれぬ。二つあるうちのひとつをカーラの壊死した心臓と取り替えれば、カーラは生きかえるかもしれん」
ひいばあ様の話は途方もない内容だった。心臓を取り替えるなど、そんな技、この国にはない。
誰もが絶望し口をつぐんだが、その沈黙をルアヌが破った。
「日本国はどうだ…?」
皆が顔を上げる。
「カーラは日本国の不思議な道具でモンスターを倒していた」
宰相も閃いたように賛同する。
「確かに異世界日本になら何か手立てがあるかもしれません!なにせ手強いモンスターもことごとく駆逐した優れた道具を開発した国ですから!」
「私も行く」
旅支度を始めた宰相にルアヌが同行を求めた。
「しかし、陛下…!まがりなりにも異世界です。陛下の身に万一のことがあったら──」
「最愛の妻を救うためなら、異世界でもどこへでも行く」
ルアヌの意思は固かった。宰相とルアヌはカーラの棺と共に転送装置で異世界日本へ旅立った。
-------------------
「カーラちゃんの彼氏!?すごいイケメンじゃーん!!」
「病気治ったの??よかったね!」
公園の隅に宰相に呼ばれたわかばとこよみがルアヌを見た途端、歓喜の声をあげた。
「あれ、カーラちゃんは?どこ?」
ルアヌがだまって指さす方向に棺があった。ルアヌは棺の扉を開いた。
なんだろう?とわかばとこよみが覗き込んだ小さい扉の向こうに、白い顔のカーラが横たわっていた。
「カ、──」
すぐにわかった。息をしていないと。
もう冷たくなってしまっていると。
「嘘!!!カーラちゃん!!!」
ふたりは棺に取りすがって大声で泣きはじめた。
「なんで!?なんでこんなことになったの!?彼氏、守ってあげられなかったの!?」
「カーラちゃん、彼氏のこと、世界中のだれよりも大好きだったのに──」
ふたりは立て続けにルアヌに憤りと悲しみをぶつけた。
「すまぬ…」
ルアヌは言い訳もせず、ただ悔しそうに下を向いた。
「吸血鬼の毒にやられ心臓が壊死してしまい…心臓を取り替えれば助かるかもしれないのですが…」
宰相の説明にわかばが「心臓?」と反応した。
「私には心臓が二つあるかもしれないのだ。そのうちの一つをカーラにあげたいと思っている。何か方法はないだろうか…?」
「ねえ!カーラちゃんがこうなってからどれくらい時間経った!?」
わかばが飛びかかるようにルアヌに尋ねた。
「6時間…くらいだ」
こよみがわかばに「わかばちゃん、まだ間に合う!?」と声をかけた。
わかばはうなずくとルアヌたちに申し出た。
「うちのパパなら治せるかも…パパ、心臓外科医なんだ」
110
あなたにおすすめの小説
乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!
ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。
相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。
結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。
現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう…
その時に前世の記憶を取り戻すのだった…
「悪役令嬢の兄の婚約者って…」
なんとも微妙なポジション。
しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。
氷の王弟殿下から婚約破棄を突き付けられました。理由は聖女と結婚するからだそうです。
吉川一巳
恋愛
ビビは婚約者である氷の王弟イライアスが大嫌いだった。なぜなら彼は会う度にビビの化粧や服装にケチをつけてくるからだ。しかし、こんな婚約耐えられないと思っていたところ、国を揺るがす大事件が起こり、イライアスから神の国から召喚される聖女と結婚しなくてはいけなくなったから破談にしたいという申し出を受ける。内心大喜びでその話を受け入れ、そのままの勢いでビビは神官となるのだが、招かれた聖女には問題があって……。小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。
聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~
キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。
パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。
最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。
さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。
その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。
王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。
こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。
※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。
※カクヨムにも掲載中です。
好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】
須木 水夏
恋愛
大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。
メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。
(そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。)
※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。
※ヒーローは変わってます。
※主人公は無意識でざまぁする系です。
※誤字脱字すみません。
自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのはあなたですよね?
長岡更紗
恋愛
庶民聖女の私をいじめてくる、貴族聖女のニコレット。
王子の婚約者を決める舞踏会に出ると、
「卑しい庶民聖女ね。王子妃になりたいがためにそのドレスも盗んできたそうじゃないの」
あることないこと言われて、我慢の限界!
絶対にあなたなんかに王子様は渡さない!
これは一生懸命生きる人が報われ、悪さをする人は報いを受ける、勧善懲悪のシンデレラストーリー!
*旧タイトルは『灰かぶり聖女は冷徹王子のお気に入り 〜自業自得って言葉、知ってますか? 私をいじめていたのは公爵令嬢、あなたですよ〜』です。
*小説家になろうでも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる