【完結】濡れ衣

５

僕は今、彼女のお墓参りに来ている。
 
例の犯人が留置場で変死したらしい。
余罪も判明し、被疑者死亡のまま書類送検された。
マスコミは犯人が自殺したのではと騒いでいたが、しばらくすると潮が引くように新たな話題に移っていった。
 
ふいに通知音が鳴る。
スマホ画面の通知欄に『スイーツコンテスト入賞のお知らせ』とある。
すっかり忘れていたが、刺殺事件の二日前にチョコレートスイーツのレシピコンテストに応募したのだった。
 
新進気鋭の起業家が新しくオンライン専門のチョコレート店を開くにあたり、レシピを募っていたのだ。
メールを開くと「大賞受賞おめでとうございます」とある。
 
ひえ……と僕は思わず息が漏れた。
大賞、か。
応募したのは彼女が一番気に入っていたレシピだった。
 
大賞賞金は１０００万円。
専属契約により年間８００万円の契約料が入り、考案したスイーツの売れ行き次第でボーナスまで支払われると言う。
 
 
「神様はときどき人間を憐れんで、理不尽な目に遭った者たちに救いの手を差し伸べることがあるんだよ」
 
 
彼女のお墓に再度手を合わせながら、かつて男の子から聞いた話を思い出していた。


＜終＞