上 下
14 / 39

14

しおりを挟む
  やってきたのは大人組だ。
  安倍夫妻、本田夫妻、男性体育教師の井上君、女性教師の五十嵐さんと神代さん、それと機長と副機長にCA五人。

  話しは簡単、自分達も夜の見張りや昼間の見回りなどで貢献したいとの事。



  安倍さんや本田さんの所は実は早い段階から立ち直っていたらしい。昼間俺が走り回っていたので、話す機会がなかったようだ。……なんかすまん。

  立ち直りが早かった理由は?一番大事なモノは失っていなかったからだ。

  そう、子供達。

  日本の恵まれた環境は永遠に失われてしまったが、それでもせめて子供達には逞しく元気に育って欲しい。自分達の子供の事だ、人任せになんてできない!出来ることで協力しよう!
  そう決断するまでに時間はかからなかったそうだ。

  井上君と五十嵐さんの場合は?
  二人は婚約していたようだ。今回の修学旅行の後、式を挙げて結婚。五十嵐さんの方はその折に教師も辞める事になっていた。  そして今のこの現状である。何故私達だったのかと、二人して生徒に隠れてこっそり泣いたらしい。
  そして二組の夫婦と同じように、一番大事なモノが隣にあると、直ぐに思い直したようだ。

  機長、副機長、CA女性五人は?
  実は完全に吹っ切れた訳ではないみたいだ。そりゃそうだ、色々あって濃密な時間だったがまだ一日目の夜だ。幸い……と言ってはあれだが全員独身であり、地球に家族を残してきたとかではないようだ。
  だが魔物は怖い。本当はじっとしていたい。
  それでも、自分達も何かしなければと行動に移すつもりらしい。
  何故なら『大人』だからだ。未成年の子が多い中、自分達がじっといるわけにはいかないと、責任感で自分達を奮い起たせた形だ。
  俺も自分が大人だからと動いているが、俺の場合は狩猟という趣味と合致しているから全く苦にならないんだ。  彼らを素直に凄いと思う。

  だが機長はどうも必要以上に責任を感じているようだ。いくら人間には抗えない超常の現象に遭遇した結果とはいえ、操縦していたのは自分。そう思っているらしい。
  ……どうにも危うい。暫く気にかけるようにしよう。



  最後にもう一人の女性教師の神代さんだが……。

  何故か今、俺の前で土下座をしている。


「弟子にしてください!」

「は?」


  何言ってんだこいつは……?
  話を聞くと、どうも夕食時のステータス談義が原因らしい。
  
  俺が身体強化や水魔法を得た話から、皆も現時点でのステータスをチェックしてみようと、そういう流れになった。この時にステータスを他人に見せるやり方がある事をオタトリオが発見した。 流石。
  そして、それなら俺のステータスを見せてもらって参考にしたいということで、皆がやっている様に俺のステータスを目の前に可視化した。  瞬間、周囲が静まり返った。

  結論は?参考にならない。
  俺以外の全員の意見が一致した。  意義あり!

  明らかに俺のステータスは異常。つまりはそういう事らしい。
  まぁ周りの人達のステータスやスキルを見る限りそうだろうなとは思ったし、あの祖父に育てられ、今では俺もそれを誇りに思っている以上、自分の事を弱いと言うつもりはない。まだ至らない点は多々あるけどな?……でも面と向かって人外扱いは酷くね?

  そして何故ステータスがこんな状態なのか?
  そう聞かれたのでその原因である俺の生い立ちを語った。
  結果……ドン引き。そして納得。
  そんなガチの命懸けサバイバーならこのステータスも然もあらん。そういう事になった。



  そしてここで出てくる神代さん。
  俺の話しは聞きながらも、視線はステータスの中の一点に集中していた。

  刀術だ。

  彼女は剣道部顧問で重度の刀好きらしい。今も目が怖い。
  彼女のステータスの刀術は?熟練度2だ。
  そして俺の刀術は?熟練度4だ。

  ……逃げられそうに無い。


「わかったから、土下座をとりあえずやめろ」

「はい!わかりましたゲン師匠!」


  勝手に師匠呼びを始める始末。……もう既に一人いるし、まぁいいか。
  呼ぶときも名前で楓と呼ぶことになった。

  それにこいつは弟子として指示出ししとかないと、俺の身体強化の話とか聞いたから魔物に突撃しかねない。師匠として命じれば、暫くは大人しくするだろう。……はぁ。こいつが一番問題児になりそうだ。

  因みに、オタトリオは弟子ではなく子分だ。
  俺がそうしたわけじゃなく自分達でそう言ってきた。よくわからん。



  教師組の話によると、どうも生徒達も夜の見張りを手伝ってくれるらしい。
  正直男女差別だと思われようが、女の子達に夜中に見張りをさせるつもりはなかったんだが。

  話を聞くと七人毎の十二グループに別れて、一晩三グループで二~三時間毎に交替して見張り、次の日はまた別の三グループでと、四日のシフトで回すようだ。
  人数が多い分、少しでも大人達の見張りに協力したいと、彼女達なりにやれる事を探した結果だ。

  これは断れないな。折角の自主性を無にしたくはない。ただ、異常を見つけた時は自分達で何とかしようとはしないで、すぐに大人達に知らせる様にと言い聞かせた。



  さて、夜だ。  夜間狩猟だ!
  昼間とは違う顔を見せる夜の世界。俺は夜の狩猟も好きなのだ。

  拠点には鳴子を仕掛け、簡易的な柵で囲み、それなりの量の木の投げ槍を用意して、大人達への説明もした。  許可は取ってある。

  右手に兎角の槍と腰には鮭の歯のナイフ、石斧を装備。よし。

  では行こう。
しおりを挟む

処理中です...