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  あの高い木の中の一本に来ている。
  まずは木の性質を調べてみるか。

  ナイフで切ってみる。
  一番外側の皮はパリッとした一般的な木の皮だ。
  だがその下からは急に違和感が出てきた。
  何だか弾力のあるゴムの様な感触。ポリウレタンとかそんな感じに似てる?よくわからんが。
  これソファの中身とかに良さそうじゃん。

  だがそこから先にナイフが進まない。
  正確には少しずつは切れているが、硬い。

  幹はそこまでにして上に登ってみる。



  枝のある場所まで登攀。高い!
  けど、見張らしいいなぁ。

  流石に拠点は見えないか。
  元々この湿地が低い位置にあるのもそうだが、ここと拠点との間には丘があったしな。
  街方面も特に代わり映えのしない森が続いている。

  街に行くのはまだまだかかりそうだなぁ。

  距離が分からないのが怖すぎる。
  途中まで進んで、用意した食糧と水じゃ足りませんでしたじゃ洒落にならん。
  まさに進退窮まる状態だ。

  明日から本格的に指導を開始しよう。
  拠点防衛を任せられれば、俺が距離を調べに出ることができる。



  木には不思議な実がなっている。
  パッと見は赤色なのもあり、リンゴだ。
  だが触ると明らかに違う、ツルツルな布の様な感触だ。

  切って中を見ると……綿?
  白くふわふわとした物体が、皮の中にパンパンに詰まっていた。
  まるで綿花をそのまま包んだような実だ。
  服でも作れってか?

  綿の中心に種があるかと探ってみると、無い。
  植物の実としてどうなんだ?
  いや、この実の状態がまだ未成熟な物とか?
  ありそうだな。

  この植物は神の言っていた、動植物に大した違いはないというところの、違いの方の内の一つで、異世界独自の植物なんだろう。
  いきなり生態を理解したりはできないよな。

  大事なのはこれが役立つか、否か。
  それだけだな。



  それからは役立ちそうな物を採取して回っている。

  先程の木の幹の中身と実をどっさりカバンに詰め。
  しじみや幾つかのスライム素材も手に入れ、こちらはポーチに入れている。

  カバンもポーチも鞣して毛も除いた狼革製だ。

  そろそろ帰ろう。
  そう思っていたら、振動感知に反応がある。
  まてまて、まるで地震の様に揺れ始めた。
  だが近くの木はともかく、少し離れた木は全く揺れてはいない。

  なんだ?ここだけ?

  未だに揺れ続けている。
  ……下ッ!?
  直ぐに跳躍!

  ドバッと、それまで立っていた場所の水や泥を上に吹き飛ばし、それを成した巨大なハサミがそこに聳え立っている。

  カニ……か?そりゃマングローブにカニはいっぱい居るけどよ。
  もうハサミのデカさだけで分かるっての。

  また大型魔物だ。
  こんな世界で生きてたらそりゃ異世界人も団結するわ。



  巨大カニは、ゆっくりと泥を掻き分けながら這い出て来た。
  全体的に土色で、右のハサミだけ異様に巨大で、赤く、先にいくほど白くなっている。

  にしても、デカい。
  横八メートルで縦五メートル程か?そして体の厚みもある。ハサミだけでも長さ六メートルはあって、まるで体が二つある様だ。
  間違いなく巨大魔物記録を更新だな。
  中身もしっかり詰まっていて、とてつもなく堅そうだ。

  美味そうだが撤退だ撤退!
  攻撃が通りそうに無ぇもん。

  しかし、真ん丸可愛い二つのおメメはしっかり俺を捉えていた。


「えーっと、ご機嫌如何?」


  ハサミを持ち上げ威嚇していらっしゃる。
  ご機嫌ナナメですかそうですか。

  逃げろ!目標はあのデカい木。

  器用に横移動で、足をシャカシャカさせて追ってきた。しかも速ぇよ!



  目標の木に到着。跳躍して飛び付き、急いで登る!
  半分程登った所で、ドゴォッという打撃音と共に木が振動した。

  おっとぉ!危うく手を滑らすところだった。
  何とか一番下の枝にたどり着く。

  しばらく巨大ハサミでハンマーの様に殴り付けていたが、今度はハサミで挟み始めた。

  メリメリと音を立て、半分近くまでハサミが埋まる。
  ヤバくね?

  だが、どうもそれ以上はハサミを閉じる事はできないようだ。
  おぉ!凄いなこの木。



  どうやっても木を倒せず、やがて諦めた巨大カニは、五十メートル程離れた辺りに移動し、しじみを食べに来ているスライムを摘まんで、口に運んで食べている。

  ふぅ……助かった。
  この木は俺の守護神だ!

  どうやら蟹はこちらに興味を無くしたようで、スライムの捕食に集中している。

  木を降りて、挟まれた傷を見に行く。
  半分より少し進んだ位の場所だろうか?傷の侵攻がピタリと止まっている。
  試しにナイフで斬りつけるが、傷すら付かない。
  中心に行くほど堅くなるのか。

  衝撃に強いのは分かる。
  この高さの木を、しかもこの湿地で支えているんだ。
  根の規模もかなりの物だろう。

  だが、この幹の芯の頑丈さはなんだ?
  まるでダイヤモンドのような……ダイヤモンド?

  ふむ。ダイヤモンドって確か炭素で出来てて熱に弱いとか何とか……確か六百度以上の熱に曝すと脆くなって、八百度以上で炭化するんだっけ?

  この木の堅さにも炭素が関係しているのなら?

  い~い事思いついた!

  そして直感の力か、ポーチに入っている物が役に立つ気がしてならない。
  スライムのジェルと、コアの粉末だ。

  ジェルを塗って燃やしてみる。


「火よ、ファイア」


  勢いよく燃えてはいるが……火力が低いな。
  粉末はどうだ?

  一旦火を消し、粉末を塗って燃やす。


「火よ、ファイア」


  ゴオォッと勢いよく燃える。
  しかも黒い火だ。なんだこれ。

  少しすると火は消えた。
  ジェルと違って持続時間が短いらしい。
  だが燃え後は見事に炭化している。

  よしよし。

  同じスライムの素材でも火力と持続で効果が違うのか。
  不思議生物め。

  しかしこれ、混ぜて使えないのかね?



  混ぜて使いました。
  ずっと黒炎が燃えてます!
  これ、もしかして鍛冶にも使えるんじゃないか?

  燃え終わった。見事に炭化している。

  蟹の位置を確認しながら倒れる直前まで木を削る。
  作業中口笛まで吹いちゃったがカニは気付かない。

  こことカニとの距離は?  約五十メートル。
  この木の長さは?  約八十メートル。

  ……守護神君、今日から君は、破壊神だ!

  均衡を保っていたほんの少しの部分を削ると、ゆっくりとカニに向かって倒れていった。

  ドォッゴォーンッ!
  音にしたらこうだろう。

  大質量、大重量の木のハンマーに加え、傾く度に速度を増して上がった威力が、こちらに背を向け、未だに食事を続ける間抜けに直撃した。



  様子を見に行くと、何とまだ生きていた。

  甲羅が余程頑丈なのか、ひび割れ等は見えない。
  だが内部への衝撃は防げなかったようだ。
  立ち上がれずにへばっている。

  しかしトドメを刺そうにも外側からの攻撃は効果が薄いだろうしな。
  どうすっか……。
  遠くにしじみを食べるスライムが見えた。
  そういやこいつスライムしこたま食ってたよな?

  ……よし。

  弓を持ち、鏃にスライムジェルを塗る。


「俺はな、焼き蟹が大好きなんだよ。
  あとは……わかるな?火よ、ファイア」


  鏃に火を付け、放つ!

  矢は狙い通り口の中に吸い込まれた。


「……ギギィ」


  中から焼かれ、流石に直ぐに絶命したようだ。
  そして涎が出そうなあの匂いが漂い始めた。それに伴い甲羅に赤みが増していき、何とも美味そうな見た目に変わってゆく。



《新しいスキルを取得しました》

土魔法:4  new

剛力:3  new

堅守:5  new



  剛力は?  筋力に対しての補正。
  堅守は?  耐久に対しての補正。
  わかりやすくていい。

  新しいスキルの確認をしていると、何やら焦げた臭いが……焦げ?
  巨大蟹の遺骸の同体部分が、炭化した様に真っ黒になっていた。
  しまった!こいつ、スライムのコアごと食ってたから火力が!



  そんな!

  蟹味噌があぁぁーー!!
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