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パルメティの街
近付きました
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心と体を癒やすはずの睡眠。
しかしその日のホイムは目覚めたばかりで既に心と体が疲弊しまくっていた。寧ろ今のように起きて黙々と歩いている時の方が休まる気すらしていた。
「ホイム顔色悪い。疲れた?」
隣を歩くルカが心配して言葉をかけてきたが、ホイムは力なく微笑んで、
「大丈夫だよ」
と返すのだった。
「……」
二人を遺跡の洞窟の近くまで案内するために先導していたエミリアは、テント等を収めた大きな背嚢を背負い歩き、前を向いて無関心を装いつつもしっかりと聞き耳を立てていた。
(疲れているのは夜中まで二人で……してたからじゃないのか)
全く戦士としての心構えがなっていない。いつ戦いになっても最低限のパフォーマンスを発揮できるようにしていなくてはならないというのに。
それを、あんな破廉恥な行いをして万全とは程遠い調子になるとは、全く……破廉恥だ。
悶々とした思いを抱えていること、そして彼女自身そう足の速い方ではないので、進行速度はゆったりとしたものであった。本来のルカのスピードなら遅すぎて不満に感じるはずであるが、ホイムの具合を鑑みれば急ぐことはせず、隣に寄り添い支えるように歩くのだった。
後ろをちらりと振り返り、そんな二人の様子を見たエミリアは前を向いて黙って歩き続ける。
(このまま私が後ろも見ずに進んだら、二人で姿を消したりするんじゃないのか?)
寧ろそうしたいのだろう。そして目の届かぬところで昨晩のような行為に耽るのだろう。
そんなどうしようもない妄想を思い浮かべながら進むエミリアに、後方から声がかけられた。
「あの! こっちじゃないんですか?」
ホイムの呼びかけに再度振り返ったエミリアは、彼が朽ち果てそうな道標を指差しているのを見た。
東の遺跡へ向かう別れ道に気付かずに真っ直ぐ進んでいたことに気付いたエミリアは慌てて二人の元へ戻った。
「す、すまない。うっかりしていた」
まさか目の前にいる二人の情事を想像していたから道を間違えたとは言えるはずもなく、ほんの少し顔を熱くして謝罪するに留めた。
「……分かりますよ」
「へっ!?」
下世話な妄想を見抜かれたのかとたじろぐエミリアに向け、ホイムは深く気遣うように言葉をかける。
「団長さんの事を考えると、気が気じゃないですよね」
「…………あ、ああ」
誤解しているようであったことに若干安堵し、彼女は気の抜けた返事をしていた。
「大丈夫! ホイムがついてる、アカネもついてる、ルカもついてる!」
ルカもエミリアを励ますように力強く拳を握って台詞を口にする。
「そうですよ。一時だけとはいえ、僕らは今パーティなんですから」
誤解からのホイムたちの言葉であったが、エミリアは気が楽になるのを感じた。同時に、自分が今なすべき事をしかと再確認したおかげで、昨晩から続いていた悶々とした懊悩は持ち前の正義感と責任感によって一掃された。
「すまない、君たちの言う通りだ。少し考え込みすぎていたらしい」
騎士としての一本芯を取り戻したようなエミリアの表情と雰囲気に、ホイムとルカも安心すると同時に緊張感を覚えた。
凛とした気配は流石に聖華騎士団筆頭騎士といったところである。
「行こう。もう少し進めば遺跡の遥か手前に着く……今日はそこでキャンプを張り、明日の朝一気に攻め入ろう」
「はい。そうしましょう」
明日こそが本番。今夜が体をゆっくりと休める最後の夜となる。
それからしばらく進み多少開けた地点でエミリアは背負った荷物を下ろした。
「ここにしよう。遺跡の姿も見え始めたところだし、これ以上近付けばそこに潜む者たちに気付かれるかもしれん」
エミリアは森の木々の合間から見える、遠く離れた小高くなった場所にある緑に覆われた石造りの遺跡を見上げて言った。
「結構まだ距離がありそうですね」
「私の足で一時間といったところだろう」
「明日は朝早く?」
「うむ。そのためにも今宵は早々に休息をとった方がいい」
エミリアに従ってホイムとルカはこの場でキャンプの準備を始めた。
ホイムはエミリアが背負ってくれていた荷物からテントや食器などの道具を取り出す。アカネがいればこれらの荷物は全て風呂敷に収めてくれるのでかさばらないのだが、今日は別行動だったのでそれは望めなかった。
(そろそろ戻ってくると思うけど……)
それまでにキャンプを設営して迎え入れる準備を整えておこうと、ホイムはテントを張り出した。
「ルカはお肉狩ってくる!」
「じゃあエミリアさんは焚き火の準備を」
昨夜と同じように夕飯の支度もしようとするホイムたちをエミリアは制した。
「待て。今日は火は無しだ」
「え?」
「なんで?」
「いくら距離があるとはいえ、火を使えば明かりや煙で私たちがいることを敵に知らせることになる。今夜だけはいつもしている野営とは勝手が違うと思ってくれ」
「なるほど……」
「じゃあ今日は生肉! ルカ久々!」
ルカだけは野生児のようなものなので生肉に抵抗がない。しかしホイムとエミリアはそうもいかない。
「肉をとってくるのは構わないが……よければ木の実や果物など、そのまま食えそうなモノも探してきてはくれないか?」
「分かった。ルカに任せる!」
「遺跡の方に行っちゃダメだよ!」
「うん!」
元気に飛び出していったルカを見送り、この場にはホイムとエミリアだけとなった。
しかしその日のホイムは目覚めたばかりで既に心と体が疲弊しまくっていた。寧ろ今のように起きて黙々と歩いている時の方が休まる気すらしていた。
「ホイム顔色悪い。疲れた?」
隣を歩くルカが心配して言葉をかけてきたが、ホイムは力なく微笑んで、
「大丈夫だよ」
と返すのだった。
「……」
二人を遺跡の洞窟の近くまで案内するために先導していたエミリアは、テント等を収めた大きな背嚢を背負い歩き、前を向いて無関心を装いつつもしっかりと聞き耳を立てていた。
(疲れているのは夜中まで二人で……してたからじゃないのか)
全く戦士としての心構えがなっていない。いつ戦いになっても最低限のパフォーマンスを発揮できるようにしていなくてはならないというのに。
それを、あんな破廉恥な行いをして万全とは程遠い調子になるとは、全く……破廉恥だ。
悶々とした思いを抱えていること、そして彼女自身そう足の速い方ではないので、進行速度はゆったりとしたものであった。本来のルカのスピードなら遅すぎて不満に感じるはずであるが、ホイムの具合を鑑みれば急ぐことはせず、隣に寄り添い支えるように歩くのだった。
後ろをちらりと振り返り、そんな二人の様子を見たエミリアは前を向いて黙って歩き続ける。
(このまま私が後ろも見ずに進んだら、二人で姿を消したりするんじゃないのか?)
寧ろそうしたいのだろう。そして目の届かぬところで昨晩のような行為に耽るのだろう。
そんなどうしようもない妄想を思い浮かべながら進むエミリアに、後方から声がかけられた。
「あの! こっちじゃないんですか?」
ホイムの呼びかけに再度振り返ったエミリアは、彼が朽ち果てそうな道標を指差しているのを見た。
東の遺跡へ向かう別れ道に気付かずに真っ直ぐ進んでいたことに気付いたエミリアは慌てて二人の元へ戻った。
「す、すまない。うっかりしていた」
まさか目の前にいる二人の情事を想像していたから道を間違えたとは言えるはずもなく、ほんの少し顔を熱くして謝罪するに留めた。
「……分かりますよ」
「へっ!?」
下世話な妄想を見抜かれたのかとたじろぐエミリアに向け、ホイムは深く気遣うように言葉をかける。
「団長さんの事を考えると、気が気じゃないですよね」
「…………あ、ああ」
誤解しているようであったことに若干安堵し、彼女は気の抜けた返事をしていた。
「大丈夫! ホイムがついてる、アカネもついてる、ルカもついてる!」
ルカもエミリアを励ますように力強く拳を握って台詞を口にする。
「そうですよ。一時だけとはいえ、僕らは今パーティなんですから」
誤解からのホイムたちの言葉であったが、エミリアは気が楽になるのを感じた。同時に、自分が今なすべき事をしかと再確認したおかげで、昨晩から続いていた悶々とした懊悩は持ち前の正義感と責任感によって一掃された。
「すまない、君たちの言う通りだ。少し考え込みすぎていたらしい」
騎士としての一本芯を取り戻したようなエミリアの表情と雰囲気に、ホイムとルカも安心すると同時に緊張感を覚えた。
凛とした気配は流石に聖華騎士団筆頭騎士といったところである。
「行こう。もう少し進めば遺跡の遥か手前に着く……今日はそこでキャンプを張り、明日の朝一気に攻め入ろう」
「はい。そうしましょう」
明日こそが本番。今夜が体をゆっくりと休める最後の夜となる。
それからしばらく進み多少開けた地点でエミリアは背負った荷物を下ろした。
「ここにしよう。遺跡の姿も見え始めたところだし、これ以上近付けばそこに潜む者たちに気付かれるかもしれん」
エミリアは森の木々の合間から見える、遠く離れた小高くなった場所にある緑に覆われた石造りの遺跡を見上げて言った。
「結構まだ距離がありそうですね」
「私の足で一時間といったところだろう」
「明日は朝早く?」
「うむ。そのためにも今宵は早々に休息をとった方がいい」
エミリアに従ってホイムとルカはこの場でキャンプの準備を始めた。
ホイムはエミリアが背負ってくれていた荷物からテントや食器などの道具を取り出す。アカネがいればこれらの荷物は全て風呂敷に収めてくれるのでかさばらないのだが、今日は別行動だったのでそれは望めなかった。
(そろそろ戻ってくると思うけど……)
それまでにキャンプを設営して迎え入れる準備を整えておこうと、ホイムはテントを張り出した。
「ルカはお肉狩ってくる!」
「じゃあエミリアさんは焚き火の準備を」
昨夜と同じように夕飯の支度もしようとするホイムたちをエミリアは制した。
「待て。今日は火は無しだ」
「え?」
「なんで?」
「いくら距離があるとはいえ、火を使えば明かりや煙で私たちがいることを敵に知らせることになる。今夜だけはいつもしている野営とは勝手が違うと思ってくれ」
「なるほど……」
「じゃあ今日は生肉! ルカ久々!」
ルカだけは野生児のようなものなので生肉に抵抗がない。しかしホイムとエミリアはそうもいかない。
「肉をとってくるのは構わないが……よければ木の実や果物など、そのまま食えそうなモノも探してきてはくれないか?」
「分かった。ルカに任せる!」
「遺跡の方に行っちゃダメだよ!」
「うん!」
元気に飛び出していったルカを見送り、この場にはホイムとエミリアだけとなった。
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