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第五話 安井道頓 ②

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道頓の屋敷の前には大阪の民が何百と集まり酒宴を行なっていた。

しかし、道頓一人だけは真剣な顔で平兵衛を見つめている。

「平兵衛はん、ちょっとええか?」

平兵衛は道頓の手招きで誰からも見られない場所に移動する。

ーー道頓の顔が、さっきまでとは違う……
真剣な面持ちだ。

「アンタ、この世界の人間とは違うやろ?」

ーーコイツ、知ってたのか?

さっきまでの無邪気な道頓とは全然違う。


ーー顔が真剣だ。コイツ、只者じゃない。

「アンタ、一体何者や?」

さらに道頓は平兵衛を睨みつけて言った。

平兵衛自身もそこは理解できない。
目を閉じて開けたらこの世界にいた。
だが、わかることは一つだけある。

「石田三成殿に仕える男。俺の存在はそれ以上に意味はない」

平兵衛の答えに道頓は微笑みを浮かべる。

短い受け答えの中で彼は平兵衛に野心がなく、任務を淡々と熟す一人の軍人であることに気づいたのだ。

「さよか……」

道頓は安心がこぼれ落ちそうな深いため息をして、また話し出す。


「三成はんが太閤様を裏切ることはあらへん。ゆえにワシらは味方同士や。ほんで、アンタの面構えは最高。決めたで! ワシはアンタに賭けた。金、女欲しいもんは何でも言いなはれ都合つけたる」

「……」

平兵衛は胸元から銃弾を取り出した。

7.62×54 mm R弾

シモヘイヘが使っている銃モシンナガンの弾丸である。

「これと似たようなのを作れるか?」

「……5発。5発分くれたらイスパニアの職人や国友衆に頼んで作ってもらうわ」

「頼んだ。あと……」

「あと?」

「火縄のいらない銃がほしい。」

道頓は頷く。

「任せなはれ」

老婆の声が聞こえてくる。

「見てみて!」

先程、奴隷として売られかけていた少女が綺麗な服を着ている。
全然違う美しい顔立ちだ。
道頓も老婆も見抜いていたんだろう。
権力者の妾候補にしてもおかしくはない。
周囲の大阪の民たちも、美しさに感嘆の表情を浮かべていた。

老婆は自慢げに

「ほらー綺麗なおべべ着せたら全然違う。平兵衛はんも、ほら着替えて」

平兵衛も道頓が呼んだ職人に寸法を合わせてもらい、すぐに正装を作ってもらう。

小柄な平兵衛だが、何度も死線を越えてきた男。
出立だけで、言葉を超えた説得力を持つ。

「これ着て、太閤さんに会いなはれ。アンタが味方て、わかったらあん人は元気になるわ」

平兵衛は道頓は照れ臭そうに鼻で笑った。

「ワシは尻餅と嘘はついたことありまへん」

平兵衛は道頓と握手した。
その日、河内久宝寺にある道頓の邸宅は朝まで酒宴が続いたという。



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