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第8章 変わってしまう日常編
【雇用№130】魔族襲撃 後始末編3
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「でも、あそこに泣いている子供もいるし、火も消さないと延焼して燃え広がってしまいますよ………。」
「リュウさん。リュウさんがお優しくて、どんな人でも助けたいのは分かります。ですが、緊急時の非常事態時においては、優先するものは何よりも助けられる命を助けることなんです………。」
「…………。」
「あの子の親はもう亡くなっています。私も息があるか確認しました。火事も延焼しますが、中に人はいません。火を消そうとなると大変多くの人手が必要になります。私達がポーションを持っていなければ、それでもよかったのでしよう。でも、私達は怪我している人、重症の人を助ける術を持っています。ここからは見えないだけで、治療が遅れるとなくなる人がまだまだ沢山いるんです。さっ、ここは私とモニカで対応しますから、リュウさんはここからは東側に向かって下さい。西側にはチルさんとウリさんに行ってもらいます。セバリンが、来たら空いている方角に向かってもらいます。さぁー、早く行ってください。一人でも多くの命を、助けに。」
うー、納得がいかない。ウェルザさんの言ってることは多分正しい。感情がそれに納得することを許してくれない。泣いている子供を後にして、そして、火事を見ても何も出来ずに、後を去る気持ちの悪さ。
初めて襲撃を受けた時とは違う。あの時は、大切な人を守るために、その場を後にしたから後悔はなかった。でも、今目の前にある光景は、最優先順位がなくなっているため、全部、目に見える人達を助けたい気持ちになってしまっている。
どうしようもない。時間に余裕があると余計な感情に捉われてしまう様だ。これが魔族襲撃の最中なら、周りを無視しても最優先順位である魔族討伐に集中出来るのに。こと、怪我人の治療になると意志が揺らいでしまう。
ウェルザさんの言う通り、多くの命を助けたいならミクロの視点ではなく、マクロの視点で物事を判断していかないと上手くいかなくなる。
僕は感情に多大な気持ち悪さを感じつつ、泣いている子供に心の中で謝り、火事の家にもごめんなさい。
「パパそんなに思い詰めないで下さい。パパは凄い人なんです。ママは、なにも出来ない人のために自分の存在をかけてまで禁術を使わないと思います。パパは凄い人なんです。だから、だから。」
「うん、ノエル心配してくれてありがとうね。小さい娘に心配ばかりかけさせちゃダメだな。もっと自信を持っていかないと。僕はこれからより多くの命を助ける。ノエルも手伝ってね。」
「はいっ、パパ」
産まれて間もない娘にいきなりみっともない所を見せてしまったな。僕は、会社員であり、勇者である前に一人のパパになってしまった。娘に生き様を見せて、恥じることの、ない背中を見せよう。
あんな情けないパパなんて、嫌いなんて言われない様にしないとな。
「よしっ」
『疾走』
「きゃっ、パパ早いですよー」
「ノエル振り落とされない様にしっかり捕まってなさい」
「はいっ」
ノエルはポケットの端にしがみついて、振り落とされない様にしている。
「パパあそこに倒れている人がいます。」
僕たちは急いで倒れている人の所に寄って行く。
「大丈夫ですか?」
「ぐふっ。」
お腹から血が出ている。よく見ると、お腹に穴が空いている。口からも血が出てきた。
「俺はもうダメだ。あのデーモンのクソ野郎に土手っ腹に穴を空けられちまったわ。ぐふっぐふっ」
参った。いきなりでかい案件に遭遇してしまった。ひとまず傷口に直接ポーションをかけてみる。口の中には、血があるが、タブレット錠のポーションを無理やり入れてみる。
「染みるかも知れませんので、我慢して下さい。」
「たらったらったらつ」
「グゥーーーーっ」
傷に染みるのか倒れている男性が、苦悶の表情を浮かべる。痛みに配慮している暇はない。早いところ治療してしまわないと命に関わる。ポーションをかけたことで、血が流れることはなくなった。でも、お腹に地面まで見える穴は空いたままである。
欠損になった部分の回復は行われない………か……。
ひとまず考えるのは、後回しだ。他にもこの様な重症者がいるかもしれないし。
「これで一命は取り留めたと思います。口の中に入っているのは、固形のポーションですので、舐めていれば内部の損傷も次第に良くなってくると思います。」
「すまんね。兄さん。死ぬと諦めていたが、お陰であの世に行き損なった様だ。このお返しは必ずするよ。俺のことはもういいから、他の人を助けに行ってあげてくれ。俺も動ける様になったら、支援に行くから。」
「すいません。では、次に向かいます」
僕はそっとその場を離れた。裏路地に隠れて、使用した分のポーションを補充する。
「パパ、やりましたね。あの人喜んでましたよ。もっともっと多くの人を助けに行きましょう。」
「ああ、そうだね。一人でも多くの命を助けに行こう。」
そうはいいながらも気分は沈んでいた。僕がこれから多くの人を助けるということは、それだけ多くの人が負傷しているということだ。それを考えると気分が沈んでならない。
怪我をしている人が多ければ多いほど、僕に感謝の念は集まるけど………。本来そんなことは無い方が良いのだ。そう考えると、薬草栽培やポーションの販売は、なくなったほうがいいのかもしれない。
ポーションの売れ行きが増大するということは、つまり、戦争で傷つく人が大勢いるということに繋がる。そして、その人達がまた、魔族と戦争を行なって傷ついていくんだ。
不毛な戦いだ。回復するから、後援からの物資が届くから、現地の人達は延々と傷つきながら戦わないといけない。それはきっと回復出来なくなるまで、死ぬまで続く。
生きるために戦うことが、死なないために死ぬまで戦うに変わってしまっている。魔族との戦争に出ている兵達は、国のため家族のためなのかもしれないが……。
これはやっぱり間違っているんじゃないか?なんでこんな方法しか、世界の王達は取れないのか?
「リュウさん。リュウさんがお優しくて、どんな人でも助けたいのは分かります。ですが、緊急時の非常事態時においては、優先するものは何よりも助けられる命を助けることなんです………。」
「…………。」
「あの子の親はもう亡くなっています。私も息があるか確認しました。火事も延焼しますが、中に人はいません。火を消そうとなると大変多くの人手が必要になります。私達がポーションを持っていなければ、それでもよかったのでしよう。でも、私達は怪我している人、重症の人を助ける術を持っています。ここからは見えないだけで、治療が遅れるとなくなる人がまだまだ沢山いるんです。さっ、ここは私とモニカで対応しますから、リュウさんはここからは東側に向かって下さい。西側にはチルさんとウリさんに行ってもらいます。セバリンが、来たら空いている方角に向かってもらいます。さぁー、早く行ってください。一人でも多くの命を、助けに。」
うー、納得がいかない。ウェルザさんの言ってることは多分正しい。感情がそれに納得することを許してくれない。泣いている子供を後にして、そして、火事を見ても何も出来ずに、後を去る気持ちの悪さ。
初めて襲撃を受けた時とは違う。あの時は、大切な人を守るために、その場を後にしたから後悔はなかった。でも、今目の前にある光景は、最優先順位がなくなっているため、全部、目に見える人達を助けたい気持ちになってしまっている。
どうしようもない。時間に余裕があると余計な感情に捉われてしまう様だ。これが魔族襲撃の最中なら、周りを無視しても最優先順位である魔族討伐に集中出来るのに。こと、怪我人の治療になると意志が揺らいでしまう。
ウェルザさんの言う通り、多くの命を助けたいならミクロの視点ではなく、マクロの視点で物事を判断していかないと上手くいかなくなる。
僕は感情に多大な気持ち悪さを感じつつ、泣いている子供に心の中で謝り、火事の家にもごめんなさい。
「パパそんなに思い詰めないで下さい。パパは凄い人なんです。ママは、なにも出来ない人のために自分の存在をかけてまで禁術を使わないと思います。パパは凄い人なんです。だから、だから。」
「うん、ノエル心配してくれてありがとうね。小さい娘に心配ばかりかけさせちゃダメだな。もっと自信を持っていかないと。僕はこれからより多くの命を助ける。ノエルも手伝ってね。」
「はいっ、パパ」
産まれて間もない娘にいきなりみっともない所を見せてしまったな。僕は、会社員であり、勇者である前に一人のパパになってしまった。娘に生き様を見せて、恥じることの、ない背中を見せよう。
あんな情けないパパなんて、嫌いなんて言われない様にしないとな。
「よしっ」
『疾走』
「きゃっ、パパ早いですよー」
「ノエル振り落とされない様にしっかり捕まってなさい」
「はいっ」
ノエルはポケットの端にしがみついて、振り落とされない様にしている。
「パパあそこに倒れている人がいます。」
僕たちは急いで倒れている人の所に寄って行く。
「大丈夫ですか?」
「ぐふっ。」
お腹から血が出ている。よく見ると、お腹に穴が空いている。口からも血が出てきた。
「俺はもうダメだ。あのデーモンのクソ野郎に土手っ腹に穴を空けられちまったわ。ぐふっぐふっ」
参った。いきなりでかい案件に遭遇してしまった。ひとまず傷口に直接ポーションをかけてみる。口の中には、血があるが、タブレット錠のポーションを無理やり入れてみる。
「染みるかも知れませんので、我慢して下さい。」
「たらったらったらつ」
「グゥーーーーっ」
傷に染みるのか倒れている男性が、苦悶の表情を浮かべる。痛みに配慮している暇はない。早いところ治療してしまわないと命に関わる。ポーションをかけたことで、血が流れることはなくなった。でも、お腹に地面まで見える穴は空いたままである。
欠損になった部分の回復は行われない………か……。
ひとまず考えるのは、後回しだ。他にもこの様な重症者がいるかもしれないし。
「これで一命は取り留めたと思います。口の中に入っているのは、固形のポーションですので、舐めていれば内部の損傷も次第に良くなってくると思います。」
「すまんね。兄さん。死ぬと諦めていたが、お陰であの世に行き損なった様だ。このお返しは必ずするよ。俺のことはもういいから、他の人を助けに行ってあげてくれ。俺も動ける様になったら、支援に行くから。」
「すいません。では、次に向かいます」
僕はそっとその場を離れた。裏路地に隠れて、使用した分のポーションを補充する。
「パパ、やりましたね。あの人喜んでましたよ。もっともっと多くの人を助けに行きましょう。」
「ああ、そうだね。一人でも多くの命を助けに行こう。」
そうはいいながらも気分は沈んでいた。僕がこれから多くの人を助けるということは、それだけ多くの人が負傷しているということだ。それを考えると気分が沈んでならない。
怪我をしている人が多ければ多いほど、僕に感謝の念は集まるけど………。本来そんなことは無い方が良いのだ。そう考えると、薬草栽培やポーションの販売は、なくなったほうがいいのかもしれない。
ポーションの売れ行きが増大するということは、つまり、戦争で傷つく人が大勢いるということに繋がる。そして、その人達がまた、魔族と戦争を行なって傷ついていくんだ。
不毛な戦いだ。回復するから、後援からの物資が届くから、現地の人達は延々と傷つきながら戦わないといけない。それはきっと回復出来なくなるまで、死ぬまで続く。
生きるために戦うことが、死なないために死ぬまで戦うに変わってしまっている。魔族との戦争に出ている兵達は、国のため家族のためなのかもしれないが……。
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