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身勝手な元カレ
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翌日の夕方、私は無理矢理定時で仕事を終えると、祐樹さんや雛乃の勤めるレストランへと向かった。雛乃に「明日、仕事帰りにレストランに来なよ。明日は吾妻も夕方までレストランにいるから」と言われたからだ。
電車でレストランの最寄り駅まで行き、駅から数分歩くと、白い壁のオシャレな建物が見えてきた。祐樹さんの勤めるイタリアンレストラン『riposo』だ。リポーゾと読むらしい。意味は「休憩」。お客さんに安らいでほしいという思いが込められているそうだ。
私がレストランに足を踏み入れると、カランカランとベルが軽やかな音を奏でる。私の目に入るのは、清潔なフローリングの床。木製の椅子やテーブル。ランプのような形の照明器具が、オレンジ色の柔らかな光を放っている。
「あれ、紗季さん? どうしてここに……」
私に気付いた祐樹さんが目を見開いて言う。白いシャツに黒いベストという服装がとてもよく似合っていた。金色の髪の毛も、今は後ろで一つに束ねている。
祐樹さんは、私の方に歩いてくると、笑顔で言った。
「びっくりしたー。まさか紗季さんが来てくれるなんて思わなかったから……。夕食、ここで食べていくでしょ? 好きな席に座って。後で注文取りに行くから」
そう言って、祐樹さんは一旦カウンターの奥に姿を消した。私は、改めて辺りを見渡す。お客さんはまだ少ないみたいで、四人くらいしかいない。これから、もっと混むのだろうか。
「お待たせ、紗季さん。注文は決まった?」
祐樹さんが私の元にやって来た。私は、テーブルにあるメニュー表を見ながらカツレツのような料理――コトレッタと、フォカッチャを注文する。
このレストランは、本格的なフルコースも提供するけれど、ファミレスにあるような気軽に頼めるメニューも豊富に用意している。ミラノ風、ジェノバ風など地域の伝統もマルっと無視して、日本人が頼みやすいように工夫しているのだ。
「コトレッタにフォカッチャね……OK。うちの料理美味しいから、期待してて」
祐樹さんがそう言ってその場を去ろうとする。私は、慌てて祐樹さんを呼び止めた。
「あの、祐樹さん、今日のシフト、七時半までですよね……!?」
祐樹さんは、足を止めると目を丸くして言った。
「そうだけど、どうしてそれを……ああ、雛乃ちゃんに聞いたのか」
「はい。あの……仕事が終わったら、少し話せませんか? 祐樹さんに時間があればの話ですけど……」
私が遠慮がちに言うと、祐樹さんはふわりと笑って言った。
「紗季さんの為なら、いくらだって時間を作るよ。七時半まであと四十分か……ゆっくりしていってね」
そう言うと、祐樹さんはその場を離れた。
それから、私は運ばれてきたコトレッタとフォカッチャを堪能した。私はどちらも食べた事が無かったけれど、とても美味しかった。
そして食べ終わり、私が腕時計を見ると時刻は七時二十五分。もうすぐ祐樹さんのシフトが終わる時間だ。
私がスマホを見ていると、レストランのドアベルがカランカランと音を立てた。私は何気なくレストランの入り口を見て、目を見開く。
島本さんが、レストランに入って来る所だった。
何で島本さんが……。私が呆然としていると、私に気付いた島本さんがこちらに近付いてくる。島本さんは、笑顔で私に話し掛けてきた。
「奇遇だな、紗季。お前もここで食事をしていたのか」
「はあ……」
私は、曖昧に頷いた。奇遇なんて事ある? そう言えば、私は唯香さんに、「今日は妹の勤めるレストランに行きます」って言った気がする。もしかして、唯香さんから聞いたの?
島本さんは、テーブルを挟んで私の向かいにある椅子を指さして言った。
「なあ、ここ良いか?」
「……私はもうすぐ帰る予定ですけど、よければどうぞ」
私の冷たい言い方に、島本さんはムッとしたようだけど、彼は黙って席に着いた。
島本さんが席に着いてすぐ、制服姿の高瀬さんが島本さんの注文を取りに来た。そう言えば、祐樹さんの親友である高瀬さんもここで働いているんだっけ。
高瀬さんは、注文を取り終わると、私に笑顔を向けてからその場を離れた。その様子に気付いた島本さんが何故か眉を顰める。
高瀬さんの姿が完全に見えなくなると、島本さんは大きな紙袋から何かを取り出して、席を立った。そして、私に跪くと、店中に響くような声で言う。
「ごめん、紗季! 俺が間違っていた! 俺とヨリを戻してくれ!」
島本さんは、小さなバラの花束を私に差し出していた。
「……は?」
私は、思わず変な声を出した。周りの客がザワザワとし始める。異変を察知したのか、厨房から雛乃が顔を出していた。状況を把握したのか、島本さんに向けてすごい殺気を放っている。
「あの……島本さんの現在の彼女は唯香さんなんじゃ……」
私が戸惑いながら聞くと、島本さんは私を見つめたまま言った。
「最初は唯香の方が可愛いと思ってたけど、違ったんだ! お前は、俺の仕事を手伝ってくれたし、俺が仕事をしやすいように周りの環境を整えたりもしてくれた! その事に、やっと気付いたんだよ。……頼む、紗季。また俺の恋人になってくれ!!」
何言ってるの、この人。散々私を見下しておいて、自分が困るとこれ? この人と別れて、本当に良かった。
怒りに震える私が口を開きかけた時、声が聞こえた。
「紗季さん」
振り向くと、そこには私服に着替えた祐樹さんが立っていた。もの凄く険しい顔をしている。
祐樹さんは、私の方にツカツカと歩み寄ると、私の左腕を掴んで私を立たせた。そして、私のバッグも掴むと、作り物の笑顔で島本さんに言った。
「すみません、紗季さんは俺の恋人なので、ちょっかい出さないでもらえますか? それと、紗季さんは俺と先約があるので、これで失礼します」
そして祐樹さんは、呆然としている島本さんを残して、私の腕を掴んだままレストランを後にした。
電車でレストランの最寄り駅まで行き、駅から数分歩くと、白い壁のオシャレな建物が見えてきた。祐樹さんの勤めるイタリアンレストラン『riposo』だ。リポーゾと読むらしい。意味は「休憩」。お客さんに安らいでほしいという思いが込められているそうだ。
私がレストランに足を踏み入れると、カランカランとベルが軽やかな音を奏でる。私の目に入るのは、清潔なフローリングの床。木製の椅子やテーブル。ランプのような形の照明器具が、オレンジ色の柔らかな光を放っている。
「あれ、紗季さん? どうしてここに……」
私に気付いた祐樹さんが目を見開いて言う。白いシャツに黒いベストという服装がとてもよく似合っていた。金色の髪の毛も、今は後ろで一つに束ねている。
祐樹さんは、私の方に歩いてくると、笑顔で言った。
「びっくりしたー。まさか紗季さんが来てくれるなんて思わなかったから……。夕食、ここで食べていくでしょ? 好きな席に座って。後で注文取りに行くから」
そう言って、祐樹さんは一旦カウンターの奥に姿を消した。私は、改めて辺りを見渡す。お客さんはまだ少ないみたいで、四人くらいしかいない。これから、もっと混むのだろうか。
「お待たせ、紗季さん。注文は決まった?」
祐樹さんが私の元にやって来た。私は、テーブルにあるメニュー表を見ながらカツレツのような料理――コトレッタと、フォカッチャを注文する。
このレストランは、本格的なフルコースも提供するけれど、ファミレスにあるような気軽に頼めるメニューも豊富に用意している。ミラノ風、ジェノバ風など地域の伝統もマルっと無視して、日本人が頼みやすいように工夫しているのだ。
「コトレッタにフォカッチャね……OK。うちの料理美味しいから、期待してて」
祐樹さんがそう言ってその場を去ろうとする。私は、慌てて祐樹さんを呼び止めた。
「あの、祐樹さん、今日のシフト、七時半までですよね……!?」
祐樹さんは、足を止めると目を丸くして言った。
「そうだけど、どうしてそれを……ああ、雛乃ちゃんに聞いたのか」
「はい。あの……仕事が終わったら、少し話せませんか? 祐樹さんに時間があればの話ですけど……」
私が遠慮がちに言うと、祐樹さんはふわりと笑って言った。
「紗季さんの為なら、いくらだって時間を作るよ。七時半まであと四十分か……ゆっくりしていってね」
そう言うと、祐樹さんはその場を離れた。
それから、私は運ばれてきたコトレッタとフォカッチャを堪能した。私はどちらも食べた事が無かったけれど、とても美味しかった。
そして食べ終わり、私が腕時計を見ると時刻は七時二十五分。もうすぐ祐樹さんのシフトが終わる時間だ。
私がスマホを見ていると、レストランのドアベルがカランカランと音を立てた。私は何気なくレストランの入り口を見て、目を見開く。
島本さんが、レストランに入って来る所だった。
何で島本さんが……。私が呆然としていると、私に気付いた島本さんがこちらに近付いてくる。島本さんは、笑顔で私に話し掛けてきた。
「奇遇だな、紗季。お前もここで食事をしていたのか」
「はあ……」
私は、曖昧に頷いた。奇遇なんて事ある? そう言えば、私は唯香さんに、「今日は妹の勤めるレストランに行きます」って言った気がする。もしかして、唯香さんから聞いたの?
島本さんは、テーブルを挟んで私の向かいにある椅子を指さして言った。
「なあ、ここ良いか?」
「……私はもうすぐ帰る予定ですけど、よければどうぞ」
私の冷たい言い方に、島本さんはムッとしたようだけど、彼は黙って席に着いた。
島本さんが席に着いてすぐ、制服姿の高瀬さんが島本さんの注文を取りに来た。そう言えば、祐樹さんの親友である高瀬さんもここで働いているんだっけ。
高瀬さんは、注文を取り終わると、私に笑顔を向けてからその場を離れた。その様子に気付いた島本さんが何故か眉を顰める。
高瀬さんの姿が完全に見えなくなると、島本さんは大きな紙袋から何かを取り出して、席を立った。そして、私に跪くと、店中に響くような声で言う。
「ごめん、紗季! 俺が間違っていた! 俺とヨリを戻してくれ!」
島本さんは、小さなバラの花束を私に差し出していた。
「……は?」
私は、思わず変な声を出した。周りの客がザワザワとし始める。異変を察知したのか、厨房から雛乃が顔を出していた。状況を把握したのか、島本さんに向けてすごい殺気を放っている。
「あの……島本さんの現在の彼女は唯香さんなんじゃ……」
私が戸惑いながら聞くと、島本さんは私を見つめたまま言った。
「最初は唯香の方が可愛いと思ってたけど、違ったんだ! お前は、俺の仕事を手伝ってくれたし、俺が仕事をしやすいように周りの環境を整えたりもしてくれた! その事に、やっと気付いたんだよ。……頼む、紗季。また俺の恋人になってくれ!!」
何言ってるの、この人。散々私を見下しておいて、自分が困るとこれ? この人と別れて、本当に良かった。
怒りに震える私が口を開きかけた時、声が聞こえた。
「紗季さん」
振り向くと、そこには私服に着替えた祐樹さんが立っていた。もの凄く険しい顔をしている。
祐樹さんは、私の方にツカツカと歩み寄ると、私の左腕を掴んで私を立たせた。そして、私のバッグも掴むと、作り物の笑顔で島本さんに言った。
「すみません、紗季さんは俺の恋人なので、ちょっかい出さないでもらえますか? それと、紗季さんは俺と先約があるので、これで失礼します」
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