小説家と漫画家の淫らなレッスン

ミクラ レイコ

文字の大きさ
18 / 40

記念パーティー

しおりを挟む
 もうすぐ六月が終わろうというある土曜日の夕方。私の自宅には、私と祐樹さんの二人がいた。祐樹さんが夕食を作ってくれる事になったのだ。



 祐樹さんが作ってくれたのは、ビーフシチュー。完成までに結構時間がかかる料理だったけれど、食べてみるとすごく美味しかった。

 お肉は柔らかくて、甘さも絶妙。祐樹さんが『riposo』でキッチン担当じゃないのが不思議なくらいだ。



 夕食が終わり、リビングのソファーで二人並んでDVDを見ていると、不意に祐樹さんが口を開いた。



「……あのさ、紗季さん。ちょっと、お願いがあるんだけど……」



 何だろう。私が祐樹さんに視線を向けると、祐樹さんは言いにくそうにしながら言葉を続けた。



「実はさ、俺……父さんからお見合いを勧められてるんだよね」

「お、お見合い!?」



 私は思い切り動揺した。そんな……せっかく祐樹さんと恋人同士になれたのに……。

 私が泣きそうな顔になっているのに気付いた祐樹さんが、慌てて手を振った。



「も、もちろん俺は、紗季さん一筋だよ!? だから、お見合いの話も断ったんだ。そしたら、親父が、決まった相手がいるなら会わせろって五月蠅くて……」



 そっか……お父さんにしてみれば、息子の恋人が気になるのも当たり前だよね。



「それで……紗季さん。今度、吾妻建設の創業五十周年の記念パーティーがあるんだけど、それに俺と一緒に出席してくれないかな……。パーティーで紗季さんと会えば、きっと父さんも納得してくれると思うし」



 緊張するけど、私も祐樹さんの家族に会いたい。私は、頷いて言った。



「はい、出席させて下さい」



       ◆ ◆ ◆



 その約一週間後の土曜日。私は祐樹さんと共に、とあるホテルを訪れていた。都心にある有名なホテル。太陽の光を反射して輝くその建物を見ただけで、私は緊張してしまう。



「……行こうか、紗季さん」



 エントランスの前で、祐樹さんが私に笑いかける。私は深呼吸すると、はっきりと答えた。

「はい、祐樹さん」



 会場となる広間には、白いテーブルクロスのかかった長いテーブルがいくつも並んでいた。テーブルの上には、既に美味しそうなサラダやローストビーフが並んでいる。ビュッフェ形式のランチらしい。



 会場には既に沢山の方々がいて、その方々は次々と祐樹さんに声を掛けていく。それは、祐樹さんが社長の息子だからというだけではない。祐樹さんは紳士的で、とても気遣いの出来る人だ。だから皆、祐樹さんと話すのが心地良いのだ。



 しかも、見かけもカッコいい。今祐樹さんは、紺色のスーツを着ていて、とても頼りがいがあるように見える。金色の髪を一つに束ねて、普段下ろしている前髪を撫でつけているのも新鮮だ。



 ……私は祐樹さんに釣り合っているだろうか。目にはコンタクトレンズを入れて、髪の毛は緩いウェーブにしている。水色のワンピースにジャケットという服装も、この場に会っているはずだ。それでも、少しだけ、不安になってしまう。



 私達が色々な方々と挨拶を交わしていると、一組の若い男女がこちらに近付いてくる。男性の方が、笑顔で祐樹さんに声を掛けた。



「祐樹、来てたのか。久しぶりだな」

「ああ、久しぶり。兄さん」



 私は目を見開いた。この人が祐樹さんのお兄さんか。お兄さんは、私の方をチラリと見てから、祐樹さんに言った。



「もしかしてこの子が……」

「ああ、俺の恋人だよ」



 恋人。その新鮮な響きに私は舞い上がりそうになるけれど、ハッとして挨拶した。



「初めまして。祐樹さんとお付き合いさせて頂いております、真鍋紗季と申します」

 

 私が頭を下げると、祐樹さんのお兄さんは優しい声で言った。



「そんなに畏まらなくても良いですよ。初めまして、真鍋さん。俺は、祐樹の兄で智一ともかずといいます」



 私は、改めてお兄さん――智一さんを見た。黒髪を短く整えていて、真面目そうに見える。どことなく、祐樹さんに似てるな。



 私はふと、智一さんの隣に立つ女性に目を向けた。長い黒髪をアップにした女性。その顔には、見覚えがある。その女性は、私の視線に気付くと、綺麗なお辞儀をして自己紹介した。



「初めまして。智一さんとお付き合いさせて頂いております、雪原睦月ゆきはらむつきと申します」

「……真鍋紗季と申します。よろしくお願い致します……」



 私は平静を装って挨拶しながら、心の中で苦笑していた。何せ私は、この人を祐樹さんの恋人だと勘違いしていた事があるのだから。まあ、睦月さん本人はその事を知らないけれど。



「じゃあ、俺達はまた挨拶回りするから、これで。……祐樹、良かったな。可愛い恋人が出来て」



 そう言って、智一さんは睦月さんと一緒にその場を離れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

危険な残業

詩織
恋愛
いつも残業の多い奈津美。そこにある人が現れいつもの残業でなくなる

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...