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それから、私と祐樹さんはテーブルに並ぶ料理を堪能した。サラダに使うチーズ味のドレッシングは美味しかったし、ローストビーフも柔らかくて絶品だった。
「この料理のレシピ、雛乃ちゃんが知りたがるだろうなあ」
「そうですね。雛乃は、常に新しいメニューを考案しようとしてますから」
私達がそんな会話をしていると、不意に大きな声が聞こえた。
「あれー、もしかして、ファントム吾妻先生!?」
私達が振り返ると、三十代くらいの若い男性がこちらに近付いて来る。その男性は、祐樹さんの方に視線を向けると、遠慮のない声で言った。
「俺、尾形ですー。覚えてませんか? 以前、フリーペーパーの企画でインタビューさせて頂いたんですけど。いやあ、吾妻先生の作品、綺麗な絵でしたねえ。男性なのに女性向けのエロ漫画を描けるなんて、凄いですよー!」
その後も、尾形さんはペラペラとしゃべり続ける。どうやら尾形さんは雑誌の記者で、今回は吾妻建設の記念パーティーを取材しに来たらしい。
尾形さんの手にはワイングラスが握られており、本人の顔も赤い。今回のパーティーではお酒も供されているので、飲み過ぎてしまったようだ。
……しかし、これはマズい。周りの客達が、ヒソヒソと話をしている。
「……え、今、エロ漫画っていう言葉が聞こえたような……」
「祐樹さん、そういった漫画を描いてたのか……?」
どうしよう。吾妻建設の重役の中には、頭の固い方々もいるかもしれない。社長の息子が十八禁漫画を描いているなんてバレたら、祐樹さんや康弘さんの立場が悪くなるんじゃ……。
祐樹さんは、苦笑いしながら尾形さんの話に相槌を打っている。場の空気を悪くしないように気を遣っているんだ。
私に、何か出来る事は無い? 頭の固い方々の矛先を祐樹さんから逸らす方法は……。
そして、考えた末、私は大きな声で尾形さんに言った。
「あのっ、尾形さんは、十八禁の漫画や官能小説に興味があるんですか? 実は、私も官能小説を書いてるんですよ! お勧めの官能小説があったら教えて下さい!」
尾形さんも祐樹さんも、ポカンとして私を見ている。うん、そうなるよね。私は今、とても恥ずかしい。
でも、私が官能小説を書いていると言った事で、客達の視線が祐樹さんから私に移った。作戦は成功だ。
「あ……ああ、今はちょっと思いつかないですかね……。じゃあ、俺はこれで……」
そう言って、尾形さんはそそくさとその場を立ち去った。酔いが醒めたか、私の声に圧倒されたのだろう。
私の意図に気付いたのか、祐樹さんが申し訳なさそうな顔で言った。
「ごめんね、紗季さん。あんな事言わせて」
「あ、いえ。こちらこそ、急に話に割り込んでごめんなさい」
「いや、助かったよ、ありがとう」
祐樹さんが、ニッコリと笑う。すると、後ろから声が聞こえた。
「だから、そういうジャンルの漫画家になるのはやめておけと言ったんだ」
振り向くと、そこには、眉間に皺を寄せた康弘さんがいた。
「父さん……」
祐樹さんがバツの悪そうな顔で呟くと、康弘さんは溜息を吐いて言葉を続けた。
「私の事や会社の事は気にしなくていい。そういう職業に偏見のある社員はほとんどいないからな。……でも、お前のパートナーとなる女性はどうだ? 今みたいに、何かトラブルがあったら彼女に庇ってもらうのか? お前がそういう漫画を描いている事で、彼女に負担を掛ける事もあるんじゃないのか?」
祐樹さんは、グッと言葉に詰まった。……そんな顔しないで、祐樹さん。私はあなたの作品も、あなた自身も大好きなのだから。
私は、祐樹さんの前に進み出ると、しっかりと康弘さんの目を見て言った。
「あの、私が祐樹さんの仕事について負担に思うような事は無いです! 祐樹さんの作品は、女性が共感できて、でも夢があって、ドキドキして……とにかく、素敵な作品です! 私は、そういう作品を生み出せる祐樹さんの事を、誇りに思います!」
支離滅裂になってしまった。でも、言いたい事は言えた。私は、ハアハア息をしながら康弘さんを見つめる。
康弘さんは、数秒考え込むようにして目を伏せると、再び私の方を向いて言った。
「……真鍋さん、だったかな。先程は、失礼な事を言って済まなかった。これからも、祐樹の事を宜しく頼む」
そして、康弘さんは、私に向かって深々と頭を下げた。
「あ、あの、頭を上げて下さい!!」
私は慌てて康弘さんに声を掛ける。康弘さんは、頭を上げると、祐樹さんに向かって言った。
「祐樹、いい人を捕まえたな。……大切にしなさい」
「ああ、分かってる」
祐樹さんが真剣な顔で頷くと、康弘さんは、フッと笑ってその場を後にした。祐樹さんは、目を瞠って呟いた。
「……父さんが笑った……」
◆ ◆ ◆
その後、パーティーは滞りなく終わり、私と祐樹さんは会場を後にした。ホテルのエントランスで、私は祐樹さんに言う。
「あの、祐樹さん。今日は、その……これから、私の部屋に来ませんか? 先週、祐樹さんが夕食を作ってくれたので、今日は私が祐樹さんに食事を振る舞いたいんです」
祐樹さんは、目を丸くして言う。
「……いいの? 紗季さん、疲れてない? 今日はパーティーに付き合わせちゃって、俺、申し訳ないと思ってたんだけど……」
「遠慮しないで下さい。私が、祐樹さんの為に何かしたいんです」
そう言って私が笑うと、祐樹さんも、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
「この料理のレシピ、雛乃ちゃんが知りたがるだろうなあ」
「そうですね。雛乃は、常に新しいメニューを考案しようとしてますから」
私達がそんな会話をしていると、不意に大きな声が聞こえた。
「あれー、もしかして、ファントム吾妻先生!?」
私達が振り返ると、三十代くらいの若い男性がこちらに近付いて来る。その男性は、祐樹さんの方に視線を向けると、遠慮のない声で言った。
「俺、尾形ですー。覚えてませんか? 以前、フリーペーパーの企画でインタビューさせて頂いたんですけど。いやあ、吾妻先生の作品、綺麗な絵でしたねえ。男性なのに女性向けのエロ漫画を描けるなんて、凄いですよー!」
その後も、尾形さんはペラペラとしゃべり続ける。どうやら尾形さんは雑誌の記者で、今回は吾妻建設の記念パーティーを取材しに来たらしい。
尾形さんの手にはワイングラスが握られており、本人の顔も赤い。今回のパーティーではお酒も供されているので、飲み過ぎてしまったようだ。
……しかし、これはマズい。周りの客達が、ヒソヒソと話をしている。
「……え、今、エロ漫画っていう言葉が聞こえたような……」
「祐樹さん、そういった漫画を描いてたのか……?」
どうしよう。吾妻建設の重役の中には、頭の固い方々もいるかもしれない。社長の息子が十八禁漫画を描いているなんてバレたら、祐樹さんや康弘さんの立場が悪くなるんじゃ……。
祐樹さんは、苦笑いしながら尾形さんの話に相槌を打っている。場の空気を悪くしないように気を遣っているんだ。
私に、何か出来る事は無い? 頭の固い方々の矛先を祐樹さんから逸らす方法は……。
そして、考えた末、私は大きな声で尾形さんに言った。
「あのっ、尾形さんは、十八禁の漫画や官能小説に興味があるんですか? 実は、私も官能小説を書いてるんですよ! お勧めの官能小説があったら教えて下さい!」
尾形さんも祐樹さんも、ポカンとして私を見ている。うん、そうなるよね。私は今、とても恥ずかしい。
でも、私が官能小説を書いていると言った事で、客達の視線が祐樹さんから私に移った。作戦は成功だ。
「あ……ああ、今はちょっと思いつかないですかね……。じゃあ、俺はこれで……」
そう言って、尾形さんはそそくさとその場を立ち去った。酔いが醒めたか、私の声に圧倒されたのだろう。
私の意図に気付いたのか、祐樹さんが申し訳なさそうな顔で言った。
「ごめんね、紗季さん。あんな事言わせて」
「あ、いえ。こちらこそ、急に話に割り込んでごめんなさい」
「いや、助かったよ、ありがとう」
祐樹さんが、ニッコリと笑う。すると、後ろから声が聞こえた。
「だから、そういうジャンルの漫画家になるのはやめておけと言ったんだ」
振り向くと、そこには、眉間に皺を寄せた康弘さんがいた。
「父さん……」
祐樹さんがバツの悪そうな顔で呟くと、康弘さんは溜息を吐いて言葉を続けた。
「私の事や会社の事は気にしなくていい。そういう職業に偏見のある社員はほとんどいないからな。……でも、お前のパートナーとなる女性はどうだ? 今みたいに、何かトラブルがあったら彼女に庇ってもらうのか? お前がそういう漫画を描いている事で、彼女に負担を掛ける事もあるんじゃないのか?」
祐樹さんは、グッと言葉に詰まった。……そんな顔しないで、祐樹さん。私はあなたの作品も、あなた自身も大好きなのだから。
私は、祐樹さんの前に進み出ると、しっかりと康弘さんの目を見て言った。
「あの、私が祐樹さんの仕事について負担に思うような事は無いです! 祐樹さんの作品は、女性が共感できて、でも夢があって、ドキドキして……とにかく、素敵な作品です! 私は、そういう作品を生み出せる祐樹さんの事を、誇りに思います!」
支離滅裂になってしまった。でも、言いたい事は言えた。私は、ハアハア息をしながら康弘さんを見つめる。
康弘さんは、数秒考え込むようにして目を伏せると、再び私の方を向いて言った。
「……真鍋さん、だったかな。先程は、失礼な事を言って済まなかった。これからも、祐樹の事を宜しく頼む」
そして、康弘さんは、私に向かって深々と頭を下げた。
「あ、あの、頭を上げて下さい!!」
私は慌てて康弘さんに声を掛ける。康弘さんは、頭を上げると、祐樹さんに向かって言った。
「祐樹、いい人を捕まえたな。……大切にしなさい」
「ああ、分かってる」
祐樹さんが真剣な顔で頷くと、康弘さんは、フッと笑ってその場を後にした。祐樹さんは、目を瞠って呟いた。
「……父さんが笑った……」
◆ ◆ ◆
その後、パーティーは滞りなく終わり、私と祐樹さんは会場を後にした。ホテルのエントランスで、私は祐樹さんに言う。
「あの、祐樹さん。今日は、その……これから、私の部屋に来ませんか? 先週、祐樹さんが夕食を作ってくれたので、今日は私が祐樹さんに食事を振る舞いたいんです」
祐樹さんは、目を丸くして言う。
「……いいの? 紗季さん、疲れてない? 今日はパーティーに付き合わせちゃって、俺、申し訳ないと思ってたんだけど……」
「遠慮しないで下さい。私が、祐樹さんの為に何かしたいんです」
そう言って私が笑うと、祐樹さんも、穏やかな笑みを浮かべて答えた。
「……じゃあ、お言葉に甘えようかな」
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