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Web広告
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九月初旬のある日の昼。私は、祐樹さんの自宅を訪れていた。私も祐樹さんも今日は休みで、私は祐樹さんの仕事部屋で祐樹さんの作品を見せてもらっていたのだ。
「わあ……ここで当て馬キャラが現れるんですね。何だかドキドキします」
私が祐樹さんの新作漫画を見て感想を言うと、パーカー姿の祐樹さんはニコリと笑って言った。
「そうそう。ヒーローがヒロインとこのキャラの仲を疑う展開になってるから、読者がドキドキしてくれると思うんだよね」
祐樹さんの作品は、男性が描いたとは思えない程繊細で、ヒロインにも共感出来る。私は、祐樹さんの作品が大好きだ。それに、良い刺激になる。
私は小説を書いているけれど、私も読者にドキドキワクワクしてもらえるような作品を書きたいな。
祐樹さんが、ふと置時計を見て言った。
「もう十二時半か。紗季さん、俺が昼食を作るから、しばらくここで漫画を見ててよ。メニューはパスタで良い?」
「え、もうそんな時間ですか?……すみません、ご馳走してもらって。祐樹さんに作ってもらえるなら、パスタでも何でも嬉しいです。祐樹さんの料理、美味しいので……」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ、待ってて」
祐樹さんは、そう言って笑うと、仕事部屋を後にした。
しばらくして、私と祐樹さんはリビングで昼食のパスタを食べていた。漫画の話をしながらパスタを食べていると、不意に祐樹さんが言う。
「そういえば、紗季さんって、広告代理店に勤めてるんだよね」
「はい。私はマーケティングとかを担当しています。……それがどうかしましたか?」
祐樹さんは、パスタを食べる手を止めて答えた。
「実は、うちのレストランでWeb広告を出そうって話があってさ。広告代理店を探してるんだよね。紗季さんの会社に依頼できないかな?」
祐樹さんの勤めるイタリアンレストラン『riposo』は、大盛況というわけでもないけれど、経営に困っているようにも見えない。
でも、もしかしたら私が知らないだけで、色々と苦労があるのかもしれない。
「分かりました。明日上司に相談してみます」
私がそう言うと、祐樹さんは優しく笑って「ありがとう、紗季さん」と呟いた。
◆ ◆ ◆
翌日、私は出社するとすぐに部長の席まで行き、『riposo』のWeb広告について相談してみた。部長は、ニコニコした顔で言う。
「新規の仕事が入るのは嬉しいね。引き受けて良いよ。真鍋さん、言い出しっぺなんだからその案件のマーケティングも担当するでしょ? 今度正式にそのレストランのターゲット層とか調査してよ」
「分かりました、ありがとうございます」
私は、自分が担当出来る事にホッとしながら頭を下げた。
私が自分のデスクに戻ると、唯香さんがこちらに近付いてきた。唯香さんは、腰に手を当てて言う。
「ちょっと、聞いたわよ、真鍋さん。あなた、『riposo』のマーケティングを担当するんですって?」
地獄耳だな。私は、溜息を吐いて言った。
「はい、そうです……。祐樹さんに頼まれて……」
すると、唯香さんは不機嫌そうな顔で何事か考え、私の方に視線を向けた。
「あなた、今後『riposo』に調査しに行くんでしょ? その時、私にも同行させて」
「え!?」
私は思わず声を上げた。いつも仕事をサボっている唯香さんが積極的にマーケティングに参加するなんて……。いや、目的は何となく想像出来るけれど。
「いいでしょ? 迷惑を掛けるわけじゃあるまいし」
唯香さんが威圧的な態度で聞いてくる。まあ、確かにレストランのスタッフに迷惑を掛けるわけじゃないし、唯香さんは先輩だし、断る理由は無い。
「……分かりました。詳しい日程はまた後程……」
私は、そう答えるしかなかった。
◆ ◆ ◆
その数日後の土曜日。私と唯香さんは、朝から『riposo』を訪れていた。ベージュ色のスーツをオシャレに着こなした唯香さんが、笑顔で言う。
「前にも来た事があるけど、やっぱりオシャレな店ねー!」
前にも来た事があるのか。祐樹さんに変な事を吹き込んでないと良いけど。
私達が店に入ると、祐樹さんが笑顔で出迎える。
「ああ、いらっしゃい、紗季さん。えっと、そちらは確か……」
「玉城唯香ですー。本日は宜しくお願い致します」
唯香さんがずいっと私の前に出て自己紹介する。祐樹さんは、作り物の笑顔で唯香さんに「宜しくお願いします」と答えていた。
数分後、店の隅にあるテーブルの一つに、私、唯香さん、祐樹さん、高瀬さん、雛乃、そしてもう一人――店長である、小山内達彦さんが集まっていた。私達は、開店前に集まってWeb広告について話し合う事にしたのだ。
小山内さんは、白い料理人用の制服をきっちりと着こなした真面目そうな人だ。年齢は四十代くらいで、黒い髪を短く刈っている。
私がどんなコンセプトの広告にしたいかを尋ねると、小山内さんは恵まれた体格に似合わない小さな声で答えた。
「……うちは日本人でも好んで食べられるようなメニューを取り揃えている。その点をアピールしたい」
「承知致しました。……先日電話でお話させて頂いたデータは用意して頂けたでしょうか?」
私が尋ねると、小山内さんは手に持っていたクリアファイルをテーブルの上に置いた。私は、そのファイルを手にして、中からA4サイズの書類を取り出す。
その書類には、ここ最近の『riposo』の売り上げや、客の多い時間帯、よく来店する年齢層等が記載されている。こちらがデータ提供を頼んだとはいえ、よくここまで見やすい書類を用意出来たものだ。もしかしたら、小山内さんは以前からきっちりデータを管理していたのかもしれない。
「成程……店がオシャレな事もあって、やっぱり若い女性が来店する事が多いみたいですね。混むのもやっぱり土日が多いと……」
「ああ。でも、新規の客も開拓したくてな。それで、Web広告を頼もうと思ったんだ」
私と小山内さんの会話を聞いていた雛乃が口を挟む。
「うち、食材にも拘ってるからねー。新規の客を開拓しないと、そろそろ経営的にキツくなるんだよね。材料費も高騰してるし」
「分かりました。では、今後の方針としては……」
その後も、私達六人は、広告の方向性等について話し合った。そして、四十分程のミーティングを終え、私と唯香さんは店を後にする。
店の入り口で、唯香さんは祐樹さんに視線を向け、笑顔で言った。
「吾妻さんは、経営学にもお詳しいんですね。素敵です」
まあ、そういう唯香さんは、ほとんど話し合いに参加せずに祐樹さんを見つめていたけれど。
「わあ……ここで当て馬キャラが現れるんですね。何だかドキドキします」
私が祐樹さんの新作漫画を見て感想を言うと、パーカー姿の祐樹さんはニコリと笑って言った。
「そうそう。ヒーローがヒロインとこのキャラの仲を疑う展開になってるから、読者がドキドキしてくれると思うんだよね」
祐樹さんの作品は、男性が描いたとは思えない程繊細で、ヒロインにも共感出来る。私は、祐樹さんの作品が大好きだ。それに、良い刺激になる。
私は小説を書いているけれど、私も読者にドキドキワクワクしてもらえるような作品を書きたいな。
祐樹さんが、ふと置時計を見て言った。
「もう十二時半か。紗季さん、俺が昼食を作るから、しばらくここで漫画を見ててよ。メニューはパスタで良い?」
「え、もうそんな時間ですか?……すみません、ご馳走してもらって。祐樹さんに作ってもらえるなら、パスタでも何でも嬉しいです。祐樹さんの料理、美味しいので……」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ、待ってて」
祐樹さんは、そう言って笑うと、仕事部屋を後にした。
しばらくして、私と祐樹さんはリビングで昼食のパスタを食べていた。漫画の話をしながらパスタを食べていると、不意に祐樹さんが言う。
「そういえば、紗季さんって、広告代理店に勤めてるんだよね」
「はい。私はマーケティングとかを担当しています。……それがどうかしましたか?」
祐樹さんは、パスタを食べる手を止めて答えた。
「実は、うちのレストランでWeb広告を出そうって話があってさ。広告代理店を探してるんだよね。紗季さんの会社に依頼できないかな?」
祐樹さんの勤めるイタリアンレストラン『riposo』は、大盛況というわけでもないけれど、経営に困っているようにも見えない。
でも、もしかしたら私が知らないだけで、色々と苦労があるのかもしれない。
「分かりました。明日上司に相談してみます」
私がそう言うと、祐樹さんは優しく笑って「ありがとう、紗季さん」と呟いた。
◆ ◆ ◆
翌日、私は出社するとすぐに部長の席まで行き、『riposo』のWeb広告について相談してみた。部長は、ニコニコした顔で言う。
「新規の仕事が入るのは嬉しいね。引き受けて良いよ。真鍋さん、言い出しっぺなんだからその案件のマーケティングも担当するでしょ? 今度正式にそのレストランのターゲット層とか調査してよ」
「分かりました、ありがとうございます」
私は、自分が担当出来る事にホッとしながら頭を下げた。
私が自分のデスクに戻ると、唯香さんがこちらに近付いてきた。唯香さんは、腰に手を当てて言う。
「ちょっと、聞いたわよ、真鍋さん。あなた、『riposo』のマーケティングを担当するんですって?」
地獄耳だな。私は、溜息を吐いて言った。
「はい、そうです……。祐樹さんに頼まれて……」
すると、唯香さんは不機嫌そうな顔で何事か考え、私の方に視線を向けた。
「あなた、今後『riposo』に調査しに行くんでしょ? その時、私にも同行させて」
「え!?」
私は思わず声を上げた。いつも仕事をサボっている唯香さんが積極的にマーケティングに参加するなんて……。いや、目的は何となく想像出来るけれど。
「いいでしょ? 迷惑を掛けるわけじゃあるまいし」
唯香さんが威圧的な態度で聞いてくる。まあ、確かにレストランのスタッフに迷惑を掛けるわけじゃないし、唯香さんは先輩だし、断る理由は無い。
「……分かりました。詳しい日程はまた後程……」
私は、そう答えるしかなかった。
◆ ◆ ◆
その数日後の土曜日。私と唯香さんは、朝から『riposo』を訪れていた。ベージュ色のスーツをオシャレに着こなした唯香さんが、笑顔で言う。
「前にも来た事があるけど、やっぱりオシャレな店ねー!」
前にも来た事があるのか。祐樹さんに変な事を吹き込んでないと良いけど。
私達が店に入ると、祐樹さんが笑顔で出迎える。
「ああ、いらっしゃい、紗季さん。えっと、そちらは確か……」
「玉城唯香ですー。本日は宜しくお願い致します」
唯香さんがずいっと私の前に出て自己紹介する。祐樹さんは、作り物の笑顔で唯香さんに「宜しくお願いします」と答えていた。
数分後、店の隅にあるテーブルの一つに、私、唯香さん、祐樹さん、高瀬さん、雛乃、そしてもう一人――店長である、小山内達彦さんが集まっていた。私達は、開店前に集まってWeb広告について話し合う事にしたのだ。
小山内さんは、白い料理人用の制服をきっちりと着こなした真面目そうな人だ。年齢は四十代くらいで、黒い髪を短く刈っている。
私がどんなコンセプトの広告にしたいかを尋ねると、小山内さんは恵まれた体格に似合わない小さな声で答えた。
「……うちは日本人でも好んで食べられるようなメニューを取り揃えている。その点をアピールしたい」
「承知致しました。……先日電話でお話させて頂いたデータは用意して頂けたでしょうか?」
私が尋ねると、小山内さんは手に持っていたクリアファイルをテーブルの上に置いた。私は、そのファイルを手にして、中からA4サイズの書類を取り出す。
その書類には、ここ最近の『riposo』の売り上げや、客の多い時間帯、よく来店する年齢層等が記載されている。こちらがデータ提供を頼んだとはいえ、よくここまで見やすい書類を用意出来たものだ。もしかしたら、小山内さんは以前からきっちりデータを管理していたのかもしれない。
「成程……店がオシャレな事もあって、やっぱり若い女性が来店する事が多いみたいですね。混むのもやっぱり土日が多いと……」
「ああ。でも、新規の客も開拓したくてな。それで、Web広告を頼もうと思ったんだ」
私と小山内さんの会話を聞いていた雛乃が口を挟む。
「うち、食材にも拘ってるからねー。新規の客を開拓しないと、そろそろ経営的にキツくなるんだよね。材料費も高騰してるし」
「分かりました。では、今後の方針としては……」
その後も、私達六人は、広告の方向性等について話し合った。そして、四十分程のミーティングを終え、私と唯香さんは店を後にする。
店の入り口で、唯香さんは祐樹さんに視線を向け、笑顔で言った。
「吾妻さんは、経営学にもお詳しいんですね。素敵です」
まあ、そういう唯香さんは、ほとんど話し合いに参加せずに祐樹さんを見つめていたけれど。
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