小説家と漫画家の淫らなレッスン

ミクラ レイコ

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ジュエリーショップ

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 その日の夜、私の自宅に雛乃がやってきた。二人一緒にリビングでお酒やジュースを飲んでいると、ふと雛乃が目を伏せがちにして言う。



「……お姉ちゃん、ありがとね。真剣に広告の事考えてくれて。私にとって、あの店は大切な居場所の一つだからさ……」



 そう言えば、雛乃は昔から言いたい事を言う性格で、女子の友人が少なかったっけ。『riposo』は、雛乃を受け入れてくれる人達がいる大事な場所なんだろう。



「店長もさ、愛想が悪い人だけど、料理の事も従業員の事も大切に思ってくれてるんだよ。今回広告を依頼したのだって、私達の給料が払えない事態になるのを避けたかったからだろうし」

「そうなんだ……」

「そ・れ・な・の・に!」



 雛乃は、カンと音を立てて缶ビールをテーブルに置くと、目を吊り上げて言った。



「あの玉城唯香とかいうクソ女、何なの!? 話し合いに碌に参加もせずに吾妻の事ばっかり見つめて! あれ絶対、お姉ちゃんから吾妻を奪おうとしてるよ。前もお姉ちゃんから彼氏を奪ってたし、嫌な女! お姉ちゃん、絶対あのクソ女に負けないでね!!」

「恋愛は勝ち負けの問題じゃない気がするけど……」



 私は苦笑しながらオレンジジュースを飲んだ。雛乃は、思い出したように言う。



「そう言えば、お姉ちゃん、もうすぐ誕生日だよね。私もお祝いするけど、吾妻にも思いっきり祝ってもらってね」



 ああ、そう言えばそうだった。私の誕生日は九月十七日。もうすぐだ。



「ありがとう、雛乃。お祝い、楽しみにしてるよ」



 私がそう言うと、雛乃は「えへへ」と笑った。



       ◆ ◆ ◆



 その四日後。私は、仕事帰りにオフィス街を歩いていた。今日も残業になってしまったけれど、まあ比較的マシな方だろう。



 途中でコンビニに寄ろうかなと考えながら歩いていると、ふと遠くにいる人影が目に入る。それが誰だか分かって、私はその場に固まった。

 祐樹さんと唯香さんだった。二人は、笑い合いながら歩いている。しかも、唯香さんは祐樹さんの腕に自分の腕を絡ませていた。



 え? どういう事? 何で祐樹さんが唯香さんと……。私が呆然としながら二人を見つめていると、二人は私に気付かないまま、有名なジュエリーショップに入って行った。

 私は、しばらくその場に佇んだ後、走るようにして立ち去った。



 それから、どういう風にして帰ったのか覚えていない。私は自宅の寝室に入ると、ボスンとベッドに横になった。

 あの光景は何だったの?……もしかして、私はまた唯香さんに恋人を取られるの? 祐樹さんも、あんなに笑って……。私の頭に、島本さんに振られた時の事が思い浮かぶ。もうあんな思いをするのは嫌。祐樹さんはもう、私にとって無くてはならない存在なのに……。



 でも、何か事情があるのかもしれない。祐樹さんに聞いてみよう。私は、ベッドから起き上がってスマホを手に取ると、祐樹さんにメッセージを送った。



『祐樹さん、いきなりなのですが、電話をしても良いですか?』



 メッセージを送ってすぐ、祐樹さんから電話が掛かって来た。



『あ、紗季さん。どうしたの? 急に』



 祐樹さんは、明るい声で私に聞いてくる。私は、バクバクする心臓を抑えるように深呼吸をしてから言った。



「あの、先日は、広告の打ち合わせお疲れ様でした。……それで、あの、打ち合わせに同席した玉城唯香さん、覚えてますか……?」

『ああ、うん。覚えてるよ。その玉城さんがどうかした?』



 私は、ゴクリと喉を鳴らしてから言葉を続けた。



「じつは、唯香さんが祐樹さんに興味を持っているらしくて……。祐樹さん、もしかして、最近唯香さんと個人的に会ってたりとか……します?」



 我ながら下手な聞き方だ。でも、聞けた。ちゃんと聞けた。私は、静かに祐樹さんの答えを待つ。少しの沈黙の後、祐樹さんはまた明るい声で答えた。



『いや、会ってないよ。連絡先も交換してないし』



 私の頭は真っ白になった。嘘だ。私は確かに、さっき祐樹さんと唯香さんを見かけた。無言になった私に、祐樹さんが心配そうに声を掛けてくる。



『どうしたの、紗季さん? もしかして、俺と玉城さんの事で何か不安に思ってるの?』

「……いえ、ちょっと気になっただけなので……。会ってないなら、いいんです……」



 私は、そう言って通話を終えた。



 スマホをベッドサイドの棚に放り投げた私は、またベッドに寝転んだ。私は、段々と胸が苦しくなる。

 どうして祐樹さんは嘘を吐いたの? 疚しい事があるの? やっぱり、私は祐樹さんに選ばれないの?

 私の目からは、一筋の涙が零れ落ちていた。その日、私はほとんど眠れなかった。
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