【完結】週刊誌の記者は忘れられない

若目

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カウンター席での会話

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「いいところですねえ」
店に入ってすぐ、敏雄と青葉は店員にカウンター席に案内され、そのまま椅子に座ると、青葉は店内をキョロキョロ見回した。
「そうかあ?」

この店は安価で、それなり味もいいから敏雄は気に入ってはいるが、どこにでもあるような大衆向けの居酒屋だ。
そばのテーブル席では学生グループが騒ぎ立てているし、店内の床は油だとか靴の跡でところどころが汚れている上、店全体はそんなに広くはない。

そんなだから、青葉がこの居酒屋のどこを「いいところ」だと述べているのか、敏雄は理解しかねた。

「それで、話したいことって何だ?」
言いながら敏雄はメニューを手に取った。
腹に結構な空きがあるが、後で胃もたれする可能性を考えると、あまり油っこいものを大量に食べることはできない。

「ちゃんと売り物になるような写真が撮れるにはどうしたらいいか、どんな写真が記者さんたちに受け入れられるか、それが知りたいんです」
わいわい騒ぎ立てる他の客や、せわしなく動き回る店員には目もくれず、青葉はまっすぐに敏雄を見た。

「微妙だなあ…俺は創作に真剣に向き合うアーティストとやらは撮ったこと無いぞ」
敏雄は横居から聞いた青葉の言葉を思い出した。
「ぼく、もうそれはいいんです。今は、スクープ写真を撮ることに集中しようと思ってますんで」

どういう心境の変化であろうか。
それはわからないにしても、やる気にはなっているなら、何らかのアドバイスをよこした方がいいかと敏雄は考えた。

「そうか。うん、わかった。俺なりに助言はするよ。ただまあ、あんまり役には立たないかもしれないぞ」
取材方法は記者によって異なるし、カメラマンと記者では勝手も違ってくるから、敏雄はそう念を押しておいた。
「別にいいです。あくまで、伊達さんの意見を聞きたいだけなので」
言うと青葉は、運ばれてきたお冷やを一口飲んだ。

「そうか。あー、まあ、言うことがあるとするなら、今のお前にできることは、片っ端からいろんな人と会って、その人たちに名刺配りでもすることだな」
「名刺配り…?」
青葉がトンと軽く音を立てて、お冷やが入ったグラスをテーブルに置く。

「そうだ、まずは地道に名前を売るところから。
俺の場合は、記者がたくさんいそうな現場に毎日のように行って、通りすがりに声かけまくってたんだ。俺が新人だった当時は、新興宗教の教祖さまや幹部たちがしょっちゅうメディアを騒がせてた時期だった。だから、そのときはよくM駅に行ってたな」
「M駅に?どうしてですか?」
青葉がキョトンとした顔で敏雄を見つめる。
どうにも「某新興宗教団体」と「M駅」が結びつかないらしい。

「そこには、その宗教団体の総本部があったんだ。で、そこにたむろしてる記者に片っ端から声かけて、名刺交換してもらってたよ」
「そんなことして、ちゃんと応えてくれるんですか?」
「ぜんぜん!」
敏雄は首を振った。

「ですよね?」
「まあ、向こうから見たら完全に不審者だよな、今にして思えば。会う人ごとに「時間がありましたら、お茶でもいかがですか」って言うんだけど、ほとんどの人にうるさがられたよ。こっちから連絡取ったら、「なんだ、お前かよ」の一言で突っぱねられて終わりだ。でも、たまーに話聞いてくれる人がいて、その人が情報くれるんだ。で、その人とメシ食ったり、その人を経由して別の人と知り合って、また情報もらって…それの繰り返しだったな」
若手記者だった頃を思い出して、敏雄は少しばかり懐かしい感慨に耽った。
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