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第2編 消えた人々の行方
うろ覚え
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「それならいいんだけどなあ」
「大丈夫ですよ、親方!」
「そういうお屋敷って給金はものすごくいいけど、礼儀作法とか厳しいし、決まりごととか多くて大変じゃないの?ノックは3回とか、テーブルに着くときは左側からとか…」
「うん、決まりごとはあるけど、前に住んでた家で散々教わってきたことだし、慣れてるから大丈夫だよ!」
「すごいね、ジャンティー!ボクはそういうのは苦手だなあ」
ガブリエルが大げさにため息を吐く。
「お前じゃあムリな話だな!」
「うるさいなあ!」
モールがケラケラ笑って、ガブリエルが頬を膨らませて怒る。
こんな風景を拝むのも、だいぶ久しぶりのことだ。
「お前だっておんなじだろ!ボク知ってるんだからな。お前、あちこちの店にツケ溜まってるだろ!!そんなお金にだらしないヤツが掟のやかましいお家でなんかで働けるもんか!」
「ガブリエル、お前!それは言うなよ!」
「おいおい、落ち着けよ2人ともー」
ガブリエルとモールが言い合う中で、ジョワイユ親方がゲラゲラ笑う。
ジャンティーも、それにつられて笑ってしまった。
この後、みんなで酒を軽く飲み、しばらくいろんなことを話した。
病気だったガブリエルの母親が、腕のいい医者にかかったおかげで体調が回復してきたこと、ジャンティーが不在の間にジョワイユ親方にもう1人子どもが生まれたこと、東の町に住む男たちの窃盗が相次いでいること。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまって、ガブリエルとジョワイユ親方は明日の仕事があるからと早くに退散してしまった。
必然的に、ジャンティーとモールだけが取り残される形となったのだけど、2人きりになった途端、モールの様子が少し変わった。
「ジャンティー、お前がいま仕えている旦那さまって、どんな人なんだ?」
「え?」
モールの突然の詰問に、ジャンティーは思わず間の抜けた声を漏らした。
今まで、そんな話はしていなかったはずなのに。
極力、ウォルターに関する言及を避けていただけに、ジャンティーは驚きを隠せなかった。
「いや、なあに。まだ若い召使いひとりに、こんな上等な絹の服やら宝石やらを寄こす気前の良い旦那さまってのが、どうにも気になってなあ」
「どんな人と言われても……」
言えるわけがない。
そもそも仕えているわけではないし、城の主人はもともとは醜い野獣であり、自分はその妻になったなんて、口が裂けても言えない。
「いま着てるものとか宝石とか、もう一回見せてくれないか?この腕輪とか、すごいな。これはカイヤナイトか」
ジャンティーの答えを待たぬうちに、モールがまた尋ねてきた。
さらに右腕を掴んできて、ジャンティーの腕にはめられた腕輪をまじまじと見つめてくる。
モールからの追撃は凄まじく、彼はジャンティーが身につけているブレスレットやクラヴァット、ジャケット、あまつさえ靴紐まで見せてほしいと詰め寄ってきた。
戸惑いを感じる一方で、なぜだろう。
ジャンティーは、以前にもこんなふうに誰かに問い詰められていたような気がした。
でも、誰にいつ問い詰められていたのか、それがどうしても思い出せなかった。
「大丈夫ですよ、親方!」
「そういうお屋敷って給金はものすごくいいけど、礼儀作法とか厳しいし、決まりごととか多くて大変じゃないの?ノックは3回とか、テーブルに着くときは左側からとか…」
「うん、決まりごとはあるけど、前に住んでた家で散々教わってきたことだし、慣れてるから大丈夫だよ!」
「すごいね、ジャンティー!ボクはそういうのは苦手だなあ」
ガブリエルが大げさにため息を吐く。
「お前じゃあムリな話だな!」
「うるさいなあ!」
モールがケラケラ笑って、ガブリエルが頬を膨らませて怒る。
こんな風景を拝むのも、だいぶ久しぶりのことだ。
「お前だっておんなじだろ!ボク知ってるんだからな。お前、あちこちの店にツケ溜まってるだろ!!そんなお金にだらしないヤツが掟のやかましいお家でなんかで働けるもんか!」
「ガブリエル、お前!それは言うなよ!」
「おいおい、落ち着けよ2人ともー」
ガブリエルとモールが言い合う中で、ジョワイユ親方がゲラゲラ笑う。
ジャンティーも、それにつられて笑ってしまった。
この後、みんなで酒を軽く飲み、しばらくいろんなことを話した。
病気だったガブリエルの母親が、腕のいい医者にかかったおかげで体調が回復してきたこと、ジャンティーが不在の間にジョワイユ親方にもう1人子どもが生まれたこと、東の町に住む男たちの窃盗が相次いでいること。
楽しい時間はあっという間に過ぎてしまって、ガブリエルとジョワイユ親方は明日の仕事があるからと早くに退散してしまった。
必然的に、ジャンティーとモールだけが取り残される形となったのだけど、2人きりになった途端、モールの様子が少し変わった。
「ジャンティー、お前がいま仕えている旦那さまって、どんな人なんだ?」
「え?」
モールの突然の詰問に、ジャンティーは思わず間の抜けた声を漏らした。
今まで、そんな話はしていなかったはずなのに。
極力、ウォルターに関する言及を避けていただけに、ジャンティーは驚きを隠せなかった。
「いや、なあに。まだ若い召使いひとりに、こんな上等な絹の服やら宝石やらを寄こす気前の良い旦那さまってのが、どうにも気になってなあ」
「どんな人と言われても……」
言えるわけがない。
そもそも仕えているわけではないし、城の主人はもともとは醜い野獣であり、自分はその妻になったなんて、口が裂けても言えない。
「いま着てるものとか宝石とか、もう一回見せてくれないか?この腕輪とか、すごいな。これはカイヤナイトか」
ジャンティーの答えを待たぬうちに、モールがまた尋ねてきた。
さらに右腕を掴んできて、ジャンティーの腕にはめられた腕輪をまじまじと見つめてくる。
モールからの追撃は凄まじく、彼はジャンティーが身につけているブレスレットやクラヴァット、ジャケット、あまつさえ靴紐まで見せてほしいと詰め寄ってきた。
戸惑いを感じる一方で、なぜだろう。
ジャンティーは、以前にもこんなふうに誰かに問い詰められていたような気がした。
でも、誰にいつ問い詰められていたのか、それがどうしても思い出せなかった。
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